日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 原子力と地球惑星科学

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、濱田 崇臣((一財)電力中央研究所)、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)

09:15 〜 09:30

[HCG21-02] 流れの次元を用いたボーリング孔の湧水量の低下量予測
-幌延深地層研究センターにおける事例-

*村上 裕晃1石井 英一1 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

キーワード:地下水、湧水量、流れの次元

高レベル放射性廃棄物の地層処分場のように地下深部に坑道(立坑も含む)を展開する場合、岩盤の割れ目などから湧水が生じる。湧水量が多い場合、プレグラウトやポストグラウトなどの湧水抑制対策が行われるが、北海道の幌延深地層研究所(以下「幌延URL」)のように湧水量が坑道掘削後に自然低下する環境(原子力機構, 2015)では、このような対策が不要となる可能性がある。
流体圧の拡散方程式によると、湧水量の時間変化は、岩盤中の割れ目内における水みちの連続性の指標となる流れの次元(flow dimension)に影響される(Barker, 1988; Ishii, in press)。理論上、流れの次元が大きい場合(例えば3.0)、湧水量はほとんど低下しないが、1.0に近い場合は数日で1/2程度に低下する。流れの次元はボーリング孔を利用した水理試験の結果から導出できるため、パイロットボーリングの調査結果を利用することで坑道掘削時の湧水量の自然低下量を予測できる可能性があるが、このような試みを明示した例はない。
そこで我々は、2023年度から予定されている深度500 mに向けた坑道掘削に先立ち、幌延URLの坑道内に掘削されたボーリング孔を対象として、短期間の水理試験の結果から流れの次元を求めて試験区間の湧水量の自然低下量を予測し、実際に試験区間から長期的な連続排水を行った。そして湧水量の時間変化を観測し、予測結果と比較した。
試験の対象としたボーリング孔は、幌延URL東立坑の底盤である深度380 mから鉛直下向きに109 m掘削された。全て新第三系珪質泥岩の稚内層が分布し、深度476.5 mにおいて断層と遭遇している。試験の対象区間は深度467.7 – 481.8 mであり、区間水圧は4.3 MPaであった。
試験孔における定流量注水試験(0.6 L/minで4日間注水)の結果から、試験区間の岩盤の透水量係数Tは1.04E-4 m2/s、貯留係数Sは1.62E-4、流れの次元nは1.29と求められた。幌延URLの深度379~479 m以深に分布する稚内層は水みちとなる割れ目の連続性が低いと推定されており(Ishii, 2018; Ozaki et al., 2022)、水理試験の結果(流れの次元が1.0に近い)はこれと整合的である。この値を用いて、試験区間の湧水量の相対的な時間変化を米国のサンディア国立研究所が開発した水理解析シミュレーターであるnSIGHTSで計算すると、湧水量と経過日数の両対数軸グラフにおいて-0.356の傾きで湧水量が自然に低下すると見積もられた(図1左)。
次に、試験区間のバルブを50日間開放して湧水量を計測すると、開放直後は20 L/min以上であった湧水量が、1日後には2~3 L/min、50日後には1 L/min以下に低下した(図1右)。湧水量の低下傾向は試験期間を通して一定であり、湧水量と経過日数の両対数軸グラフにおいて最小二乗法で求めた傾きは-0.359であった。この傾きは事前予測と一致していたことから、本手法は湧水量の自然低下量の予測に適用可能であると考えられる。
本研究の結果を踏まえると、稚内層の深度379~479 m以深のように水みちの連続性が悪く流れの次元が低い岩盤の場合は、パイロットボーリングを用いた事前調査の結果から坑道掘削後の湧水量の自然低下量が精度よく予測できる可能性がある。今後は、幌延URLの掘進に伴い、トンネル規模の湧水量の変化に対する本手法の適用性を確認していく予定である。

引用文献:原子力機構 (2015): JAEA-Technology 2015-034; Barker (1988) Water Resour. Res., 24, 1796-1804; Ishii (in press) Hydrogeol. Jour.; Ishii (2018) Water Resour. Res., 54, 3335-3356; Ozaki et al. (2022) Geomech. Energy Environ., 31, 100311.