日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG21] 原子力と地球惑星科学

2023年5月26日(金) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、濱田 崇臣((一財)電力中央研究所)、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HCG21-P08] 古水理地質学的変遷を踏まえた広域地下水流動解析における影響因子の感度解析

*宮川 和也1、今井 久2、平井 哲2、大野 宏和1、中田 弘太郎3、長谷川 琢磨3 (1.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、2.株式会社安藤ハザマ、3.電力中央研究所)

キーワード:広域地下水流動解析、化石海水

【背景と目的】
高レベル放射性廃棄物の地層処分において,地質環境に期待される安全機能および求められる要件の一つに,動水勾配が小さいまたは岩盤の透水性が低いことによる放射性物質の移行を抑制する緩慢な地下水流動の水理場(低流動域)であることが挙げられる。厚い海成堆積層の地下深部には,地層の堆積時に間隙に取り込まれた海水が埋没続成過程で変質したと考えられる地下水(化石海水)が存在することがある。化石海水の存在は地層の埋没に続く隆起により高い動水勾配が形成された後も,その場の地下水が天水浸透により洗い出されていないことを示唆していることから,このような場は長期的に低流動域であることが推察される。
北海道幌延町に分布する新第三紀海成堆積層の稚内層深部は割れ目の連結性が低く,化石海水が見られることが多い(Ishii, 2018)。そこでは化石海水は古い地下水年代を示し,少なくとも本地域が隆起に転じた以降はほとんど動いていない可能性が示唆されている(Nakata et al., 2018)。このことから,化石海水を指標とすることで地質調査や物理探査,ボーリング調査により,低流動域の三次元分布を効率的に把握する手法の整備が進められてきた。化石海水を指標として推定された低流動域の三次元分布を,地下水流動解析結果と比較することで,総合的な地下水流動状態の理解に繋げることが肝要である。これに資するため,本研究では,複数のボーリング調査により稚内層深部の水理情報が比較的多く得られている幌延深地層研究センター周辺の内陸部に着目し,地形や地層の透水係数,塩水と淡水の密度差に起因する密度流,異常高圧,海水準・涵養量変化といった長期の地下水流動に影響を与え得る各因子の影響を把握することを目的とした感度解析を定常地下水流動物質移行解析により実施した。
【解析方法】
解析対象領域は幌延町の丘陵部から海域までの南北約30 km,東西約90 km,鉛直約10 kmの領域であり,氷期の海水準の低下を考慮できるように海域を広く取った。解析結果の着目領域は,幌延深地層研究センター周辺の東西5 km,鉛直1.5 kmの断面とした。解析には三次元飽和・不飽和浸透流-移流・分散解析プログラム(Dtransu3D・EL)を用いた。地形および地質構造については,既往の研究結果に基づき,約1 Maと約0.33 Maの地形と地質構造を復元したモデルおよび現在のモデルの3つのモデルを用いた。水理地質区分は,第四系〜新第三系,古第三系,白亜系の7つの地層および主要な断層7条であり,既往の研究結果に基づいて水理パラメータを設定した。
【結果と考察】
感度解析の結果から,内陸部の低流動域を評価する観点では,地形と10−9 m s−1以下の低い透水係数および異常高水圧が大きな影響を持つことが確認された。地形の影響については,地層の隆起・侵食により丘陵部が形成されるにつれて,地下浅部と深部で異なる地下水の流れが形成されていた可能性が分かった。浅部では涵養から流出まで数万年~数十万年の時間を要する局所的地下水流動系が形成され,深部では着目領域内の地表からの涵養流が到達せず,さらに緩慢な流動系が形成されることが確認された。このような地下深部の流れは地層の隆起速度と比較しても遅く,実質的にほとんど地下水が動いていない状態であると言える。この結果は,稚内層深部において化石海水に遭遇する可能性が高いことと矛盾しない結果になる。
ここでは,隆起・侵食による封圧低下により稚内層の浅部に高透水性の割れ目が形成・発達する知見(Ishii, 2015)を解析モデルに反映させたことが,浅部と深部の流動系を分ける要因となったと考えられる。既存の研究成果に基づき稚内層浅部の透水係数を1.6 × 10−8 m s−1とした一方で,稚内層深部には5.9 × 10−10 m s−1の透水係数が与えられた。稚内層深部の透水係数が1桁変わると浅部と深部の流動系の境界位置が大きく変わる結果が得られた。このことから,内陸部の地下深部の緩慢な水理場を評価する観点では,低い透水係数の与え方が大きな影響を持つことが分かった。
また,観測値に基づき稚内層深部に最大で静水圧+140 mの異常高水圧を固定した場合,異常高水圧を設定しない場合と比較して稚内層浅部以浅において実流速と動水勾配が約1桁高い値を示した。このことにより地下水の流れは深部から浅部への上昇流が卓越し,地表部付近まで100万年以上の移行時間を持つ地下水が広く分布する結果が得られた。この場合,地下水は非常に古い年代を示すものの,流向は深部から表層に向かうものであった。一方で,密度流や海水準・涵養量の低下が実流速や動水勾配に与える影響は小さいことが確認された。
本研究には,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和4年度 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(岩盤中地下水流動評価技術高度化開発)」の成果の一部を利用した。
【引用文献】Ishii (2015) J. Geophys. Res. 120, 2220–2241; Ishii (2018) Water Resources Res. 54, 3335–3356; Nakata et al. (2018) Geofluids, 2018, 7823195.