日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG22] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2023年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、菊地 一輝(京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、座長:池田 昌之(東京大学)、菊地 一輝(京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻)、清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)

16:00 〜 16:15

[HCG22-08] 砂質リップル直下の溶存酸素濃度分布:酸素オプトード画像を用いた予察的研究

*澁谷 孝希1遠藤 徳孝1 (1.金沢大学大学院自然科学研究科)

キーワード:透水性堆積物、リップル、物質循環、間隙水流

地球環境を捉える視点は多様であるが、微生物とそれが消費する酸素の関係性は、地球全体の環境を捉えるうえでも無視できない。水底堆積物において酸素が存在できる底質深度は一般にそれほど深くなくその中での濃度勾配は、底質の浅い領域に生息する生物にとって重要な要素となる。酸素が溶け込んだ上部の水から底質内部への酸素供給の動態に対する理解が求められる。(半)遠洋の堆積物は粘土質(凝集性堆積物)であり、堆積物中(粒子間隙)の物質移動のメカニズムは拡散が主であるのに対し、沿岸に広くおおく(陸棚と海岸の70%)分布する砂質堆積物は間隙率が比較的高い透水性堆積物であり、堆積物中の物質移動は移流(advection)が支配的であると考えられている。透水性堆積物は浅海に多いわけだが、よく知られているように、そこでは波浪によるサンド・リップル(砂漣)、すなわちウェーブリップルが形成される。ウェーブリップルが発達している場合、底面が平らな状態と比べて、底質での溶存酸素の分布にどのような違いが生じるであろうか。こうした微地形と物質循環との関漣に対する詳細の理解は十分でない。溶存酸素を可視化する酸素オプトードは、金属錯体化合物が発する燐光の強度や寿命から酸素濃度分布を測定するセンサフィルムである。堆積物中の酸素の動きや消費などを捉えることができる。先行研究では、リップルのトラフ(谷)付近の堆積物中で溶存酸素が高濃度、クレスト(峰)付近で低濃度である様子が確認された。しかし、酸素濃度分布を大きく変動させる要素が明確になってはいない。そこで本研究では、透水性堆積物中のリップルでの酸素動態を支配する要素を探り、その変化を捉えることで酸素の供給領域の一般化を目指すための予察的実験を行った。
 今回、一連の研究の初期段階として、堆積物中に有機物がない場合、すなわち堆積物中での酸素消費が起こらない条件でのみ行い、間隙水流だけを考慮したときの酸素の供給領域を把握することに努めた。長さ1.8 m幅15 cmの水槽を用い、手動の造波機で振動流を発生させリップルを形成した。オプトード画像は25分間で5分ごとに1枚撮影し、画像解析によりリップル地形と有酸素領域を検出し堆積物中での深度の幅を測定した。水深を3 cmと6 cmの2通りでそれぞれ2回及び3回行った。水深3 cmで振動流を起こさない(静水での)実験を2回行った。
 実験の結果、振動流がある場合の有酸素領域の変化は上下に変動するのに対して、振動流がない場合は、経過時間に伴って領域が下に広がっていた。したがって、振動流による微地形変化やリップルの移動が酸素領域幅の変動に大きな影響を与えることが推察された。水深3 cmと6 cmでの比較ではリップル形状に違いが見られたが、クレストおよびトラフ直下の有酸素領域幅(深度)リップルインデックスとの間に明確な因果関係は見られなかった。また、水深とは無関係に、同一リップル内で見た場合、トラフ直下に比べクレスト直下の有酸素領域幅が大きい値を持つという傾向が見られたが、データの母集団全体に対し2標本t検定を行った。結果では、トラフ直下とクレスト直下での違いについてはあるともないとも言えなかった。リップル間の違いの方が大きいためであると考えられる。先行研究で示唆された、先行研究で示唆されたトラフで酸素濃度が高く、クレストで低いという傾向とは異なる。以上を踏まえると、先行研究でのトラフとクレストでの酸素濃度のコントラストは、底質上の流れからトラフへの間隙水流の流入がトラフと比べて卓越するためであるというよりも、底質に酸素が送り込まれたあとの(有機物による)酸素消費が原因であることがより強く示唆される結果となった。間隙水流は、酸素濃度分布を直接変動させる要素としてよりも、物質循環の駆動源としての役割が強いと考えられる。今回の成果はあくまで予察的だが、今後、底質浅部の酸素動態の理解に貢献できるものと期待できる。