日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG22] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (9) (オンラインポスター)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、菊地 一輝(京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[HCG22-P02] 河床材料の多寡は岩盤強度と河床勾配の関係を変えるか

*高橋 直也1、荒井 悠輝1 (1.東北大学)

キーワード:岩盤河川、岩盤強度、河床材料、津軽山地

岩盤河川の河床勾配は,基盤岩の強度によって変わる.隆起速度のような河床勾配に影響する条件が同じである場合,岩盤強度が高いほど河床勾配が急になる傾向がある.これは,硬い岩盤ほど侵食に要するエネルギーが多くなるからであり,この傾向は,堆積物供給量が可搬堆積物量よりも著しく少ない時に強まると考えられている.一方で,堆積物供給量が可搬量よりも多い場合には,岩盤強度と河床勾配の関係が弱まり,流域内に強度の異なる岩石が存在する場合でも河床勾配が変化しなくなることがある.河床材料は岩盤侵食の効率に深く関係しており,供給量と可搬量の比に応じて岩盤侵食を促進,または抑制する場合がある.仮に,高強度の岩盤からなる流路区間の侵食効率が,より低強度の岩盤からなる区間よりも良いのであれば,両区間の侵食速度が同程度になる可能性がある.すなわち,河床材料の働き次第では,岩盤強度の差が河床勾配に反映されなくなる可能性がある.そのため本研究では,河床材料の役割に注目し,岩盤強度が河床勾配に反映される条件を明らかにすることを目的としている.
津軽山地の袴腰岳周辺に分布する河川を対象に,現地調査と,10 mメッシュの数値標高モデル(DEM)を用いた地形解析を行なった.対象とした河川では,上流側に新第三系の玄武岩類が,下流側に新第三系の砂岩や泥岩が露出している.玄武岩類が分布する範囲の河床勾配は,堆積岩分布域の勾配よりも1–3倍大きく,岩盤強度の差が河床勾配に強く現れている場所とそうでない場所が存在する.現地調査では,流路幅・深さ,河床材料の粒径,河床における岩盤の露出率を計測し,その結果を用いて,河床材料を始動,運搬するために必要な河床勾配を計算した.また,岩盤の露出割合から推定した堆積物供給量と運搬量の比と,運搬ステージ(シールズ数と限界シールズ数の比)を用いて,河床材料による侵食の促進・抑制効果を検討した.河床勾配は集水面積に強く依存するため,集水面積の影響を補正した指標(ksn: normalized steepness index)を用いた.
津軽山地の西側に位置する3つの河川(田ノ沢,大倉沢,敷場沢)を対象に現地調査を行った.田ノ沢の調査区間には玄武岩類のみが分布し,本流のksnが支流の2倍であった(すなわち,集水面積が同程度の地点の勾配が2倍異なる).本流中央粒径D50は,支流の1.5倍であり,河床材料の始動,運搬に要する勾配の計算結果から,両者のksnの差が,概ね粒径の差に起因することがわかった.大倉沢では,玄武岩類からなる区間のksnが堆積岩区間よりも大きく,その差は,概ねD50の差で説明可能であった.この結果は,河床勾配には,岩盤強度よりも粒径が強く影響することを示唆しており,数値モデルや他地域の現地調査結果と整合的である.ただし,斜面から河川に流入する礫の大きさは岩盤強度とともに増加する傾向があるため,その意味では,岩盤強度が河床勾配を規定していると考えられる.敷場沢では,上記2河川とは異なる結果が得られており,玄武岩類からなる区間と堆積岩区間のksn,D50が同程度であった.また,両区間の運搬ステージは概ね同じであるが,堆積岩区間の方が岩盤の露出割合が高い傾向にあった.このことは,玄武岩類の区間と堆積岩区間とでは,侵食効率が異なっていることを意味する.しかしながら,侵食効率の差を定量的に検討するためには,さらなる現地調査と数値モデル結果との比較が必要である.