日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG22] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (9) (オンラインポスター)

コンビーナ:清家 弘治(産業技術総合研究所・地質調査総合センター)、池田 昌之(東京大学)、菊地 一輝(京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[HCG22-P05] 古土壌タイプの区分にもとづくチベット高原南部の中期中新世以降の気候区の変遷

*葉田野 希1、ギャワリ バブラム2,3杉山 春来4吉田 孝紀4 (1.長野県環境保全研究所、2.トリプバン大学、3.ポカラ大学、4.信州大学)

キーワード:古土壌、古気候、中新世~鮮新世、南アジア・モンスーン、チベット高原、中央ネパール

はじめに:ヒマラヤ山脈やチベット高原の形成は,アジア地域一帯におけるモンスーン気候の成立と変動に影響を及ぼした.特に,中期中新世におけるチベット高原南部の高地の隆起・成立は [1, 2],南アジア・モンスーンの形成や降水の地域的な偏在に寄与した.チベット高原南端に位置する中央ヒマラヤ北部のムスタン地方には,新第三系~第四系の扇状地性・河川性・湖沼性の陸成層が分布する [3].特に,中部中新統と鮮新・更新統のTetang層およびThakkhola層に挟まる古土壌は,中新世以降のチベット高原の形成や隆起によるモンスーン気候の成立や山脈配置の変化に伴う気候区の変遷を記録していることが期待される.本研究では,Tetang層とThakkhola層の堆積・古土壌学的記載を行い,堆積環境と古土壌タイプを検討することで,チベット高原南部における気候区の変遷の追跡を試みた.

地域概説:ムスタン地方は,ヒマラヤ山脈とチベット高原の境界に位置する.当地域は,現在,標高約1500~8000 mの亜高山帯~高山帯からなり,ステップもしくはツンドラ気候下にある [4].当地域には,インド・ユーラシア大陸衝突後の東西性引張応力場で形成された盆地を埋積した中新統~鮮新統の陸成層が分布する [5,6].古地磁気年代にもとづくと,Tetang層で11~9.6 Ma [7],Thakkhola層で8~2 Ma [8]の堆積年代が報告されている.

古土壌の記載:Tetang層は,層厚最大200 m以上を示す.本層は下位より,砂礫質扇状地性堆積物,蛇行河川性堆積物,湖沼性堆積物に区分される.砂礫質扇状地性堆積物の古土壌は,赤錆色で厚い風化層,漂白された根痕,鉄酸化物による被覆 (cutan),粘土集積構造,有機物や易風化鉱物の欠如に特徴づけられ,Oxisol (熱帯の深く風化した土壌)に区分される.蛇行河川性堆積物の古土壌は,O,A,B層への土層分化,根化石・有機物の残存,斑紋,シデライトノジュール,粘土によるcutan,粘土集積構造に特徴づけられ,グライ化したInceptisol (若年期の土壌)やUltisol(塩基に欠乏した森林土壌)に相当する.湖沼性堆積物の古土壌は,鉄・マンガンノジュール,鉄酸化物によるリゾコンクリーション,粘土集積構造を含み,グライ化したInceptisolに区分される.
Thakkhola層は,調査地域で層厚最大600 m以上を示す.本層は下位より,礫質扇状地性堆積物,網状河川性堆積物,ファンデルタ性堆積物 (1),蛇行河川性堆積物,湖沼性堆積物,ファンデルタ性堆積物 (2)より構成される.礫質扇状地性堆積物,網状河川性堆積物に古土壌は認められない.ファンデルタ性堆積物 (1)の古土壌は,青灰色の土色,斑紋,ドラブ・ハロー状の根痕に特徴づけられ,グライ化したEntisol (最初期の土壌)に区分される.蛇行河川性堆積物の古土壌は,A,Bk,C層への土層分化,カリーチの存在からAridisol (乾燥地域の土壌)に区分される.また,斑紋やリゾコンクリーションを産するグライ化したEntisolが識別され,地下水位の季節的な変動があったことが示唆される.湖沼性堆積物とファンデルタ性堆積物 (2)の古土壌は,リゾコンクリーションにより認識できるが,上位にのる砂層の侵食作用によって古土壌層上部が欠如しているため,古土壌タイプを区分できない.

議論:Tetang層のOxisolは,熱帯雨林や森林植生が繁茂する熱帯湿潤気候の卓越を,Ultisolは温暖湿潤気候の卓越をそれぞれ示す [9].中期中新世は,現在の当地域の気候と比べて,温暖湿潤な気候が卓越していたと考えられる.続く上部中新統~更新統のThakkhola層では,Aridisolとグライ化した古土壌の存在から降水の季節変動を伴う乾燥気候の卓越が支持される.こうした気候変動の要因として,中新世以降のヒマラヤ・チベット高原の隆起による雨陰の成立やチベット高原南部における標高の変化が考えられる.

文献 [1] Currie, B.S. et al., 2005. Geology 33, 181–184. [2] Spicer, R.A. et al., 2003. Nature 421, 622–624. [3] Adhikari, B.R., 2009. Ph.D. Thesis, Vienna Univ., Austria, 158p. [4] Karki, R. et al., 2015. Theor. Appl. Climat. 125, 799–808. [5] Coleman, M., Hodges, K., 1995. Nature 374, 49–52. [6] Molnar, P., Tapponnier, P., 1978. Jour. Geophys. Res. 83, 5361–5375. [7] Yoshida, M. et al., 1984. Jour. Nepal Geol. Soc. 4, 101–120. [8] Garzione, C.N. et al., 2000. Geology 28, 339–342. [9] Soil Survey Staff, 1999. Soil Taxonomy. USDA, 871p.