日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG23] 気候変動への適応とその社会実装

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山野 博哉(国立環境研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)、座長:山野 博哉(国立環境研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)


14:15 〜 14:30

[HCG23-03] モンゴルの草原生態系における気候変動や放牧強度が永久凍土の融解に及ぼす影響のシミュレーション

*王 勤学1、岡寺 智大1、中山 忠暢1、孫 志剛2、呉 通華3、バトヘシゲ オチルバト 4、渡邊 正孝5 (1.国立研究開発法人 国立環境研究所、2.中国科学院 地理科学資源研究所、3.中国科学院西北生態環境資源研究院、4.モンゴル科学院 地理学地生態学研究所、5.中央大学 研究開発機構)

キーワード:草原生態系、放牧強度、永久凍土

陸域生態系における気候変動が永久凍土の融解に及ぼす影響を検出するために、我々は2007年からモンゴル中北部において永久凍土のモニタリングネットワークを構築してきた。このネットワークには、様々な陸域生態系において地温プロファイルを測定するための 8 つのボアホールや3つの気象観測ステーションが含まれている。観測によると、草原生態系の下の永久凍土は、森林や湿地など他の生態系より急速に劣化していることが分かった(Wang et al., 2022)。本研究の目的は、SHAW (Simultaneous Heat And Water) モデル(Flerchinger et al., 1989, 2017)を用いて、気候変動や放牧強度などがモンゴルの草原生態系の下に分布する永久凍土の融解に及ぼす影響を解明することである。 まず、2008年から2020年までの観測データを用いてSHAW モデルを較正した。その次、較正されたモデルを用いていろいろなシナリオにわたる気候変動と放牧強度が永久凍土の融解に及ぼす影響のシミュレーションを行った。
気候変動による影響を評価するため、4つの気温上昇シナリオおよび5つの降水量変動シナリオを設定した。そのうち、気温上昇シナリオには、現在の気温(Ta、℃)、およびIPCC AR6 (IPCC, 2021)で示された五つのシナリオのうち、今世紀末までに1.5℃に相当する「SSP1-1.9シナリオ」、1.5℃を超える「SSP1-2.6シナリオ」および4.0 ℃を超える「SSP5-8.5シナリオ」を選びました。降水量変動シナリオには、現在の降水量(P、mm)およびその他の四つのシナリオ (0.50×P、0.75×P、1.25×P、および 1.50×P、mm)を設定しました。さらに、放牧強度は永久凍土に及ぼす影響を評価するため、四つのシナリオ(放牧なし、軽度の放牧、中度の放牧、および重度の放牧など四つのシナリオを含まれている。
数値実験の結果は、温暖化、特に降水量の変動が永久凍土の活動層を維持する上で重要な役割を果たしている一方で、土壌水分の高い湿潤の条件下での放牧は永久凍土層に明らかな影響を与えないが、土壌水分の低い干ばつの条件下での過放牧は永久凍土の融解を明らかに促進する可能性があると示された。要するに、この数値実験は、温暖化に伴う干ばつと過放牧が同時に発生した場合、モンゴルの草原生態系の下の永久凍土がより脆弱になることを示唆されている。したがって、放牧の強度を制御することは、永久凍土を維持するために重要であろうと考えられる。