日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS06] 津波とその予測

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:室谷 智子(国立科学博物館)、馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、座長:伊尾木 圭衣(産業技術総合研究所)、南 拓人(神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻新領域惑星学講座)

10:00 〜 10:15

[HDS06-10] 宮崎県における1662年日向灘地震と1707年宝永地震の津波による浸水範囲の比較

*伊尾木 圭衣1山下 裕亮2、加瀬 善洋3 (1.産業技術総合研究所、2.京都大学防災研究所宮崎観測所、3.北海道立総合研究機構エネルギー・環境・地質研究所)

キーワード:巨大地震、津波、浸水計算、津波堆積物、日向灘

九州東方に位置する日向灘は,浅部スロー地震活動が活発な地域であり,M7クラスの海溝型地震が数十年間隔で発生している.歴史記録上,日向灘で発生した最大規模の地震は西暦1662年日向灘地震とされている.この地震により津波が発生し,宮崎市沿岸部では津波の高さが4-5 mと推定され,大きな被害をもたらした.1662年津波は,日向灘における通常のM7クラスの地震により発生した津波より,はるかに大きな津波となったことから,従来の波源モデルによる説明が難しく,新たな断層モデルを構築する必要があった.そこで2011年東北地方太平洋沖地震の知見をもとに,1662年津波の波源域は浅部スロー地震域まで広がったことにより巨大津波が発生したという仮説を設定し,その検証を行った.はじめに,近年の海底地震観測で明らかになった浅部スロー地震の活動状況やプレート境界の位置情報などをもとに,1662年日向灘地震の断層モデルを仮定した.次に,1662年津波の浸水範囲を復元するため,宮崎県の太平洋沿岸一帯(延岡市から串間市)で津波堆積物調査を行った.その結果,複数地点において1662年津波の可能性があるイベント堆積物を見出し,その内の日南市小目井のイベント堆積物を,堆積学的な特徴から津波堆積物と認定した.仮定した断層モデルを用いて津波の数値計算を行ったところ,計算浸水範囲は,日南市小目井の津波堆積物の分布を説明することができ,計算津波高は,歴史記録による宮崎県沿岸の津波の高さを説明することができた.断層モデルから計算された地震の規模はMw7.9となり,1662年日向灘地震はM8クラスの巨大地震であった可能性がある.また,宮崎市青島では1662年津波により島の面積の大半を占めるビロウ樹がすべて枯れたとされている.現在生育している数万本のビロウ樹のうち,最高樹齢は350年程度と推定されている.1662年津波による青島の被害は,構築された断層モデルによる計算浸水範囲とも整合的である.一方,先行研究による1707年宝永地震の断層モデルから計算された浸水範囲では,宮崎市青島の津波被害や日南市小目井の津波堆積物を説明することは難しい.したがって,青島や小目井でのこれらの津波痕跡は,1662年日向灘地震の断層モデルを用いて説明することが妥当である.