日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS06] 津波とその予測

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:室谷 智子(国立科学博物館)、馬場 俊孝(徳島大学大学院産業理工学研究部)、座長:対馬 弘晃(気象庁気象研究所)、室谷 智子(国立科学博物館)

11:45 〜 12:00

[HDS06-15] 長期評価された地震に伴う津波の5海域統合確率論的ハザード評価

*平田 賢治1、藤原 広行1、中村 洋光1、森川 信之1、河合 伸一1、前田 宜浩1、土肥 裕史1、秋山 伸一1、根本 信2、遠山 信彦2、鬼頭 直2、張 学磊2、村田 耕一2、村田 泰洋3、是永 眞理子4、阿部 雄太4、大野 哲平4、永井 香織4、宮嶋 孝行4 (1.防災科学技術研究所、2.応用、3.国際航業、4.伊藤忠テクノソリューションズ)

キーワード:津波、地震、超過確率、PTHA、長期評価

前回,千島海溝沿いおよび日本海溝沿いの地震活動に関する2つの長期評価に基づき,長期評価された地震活動が実際に起きた場合の条件付き2海域統合版の確率論的津波ハザード評価(PTHA)を試算した(平田・他,SSJ2022)

今回,さらに相模トラフ沿いの地震活動の長期評価,南海トラフ沿いの地震活動の長期評価および南西諸島沿いの地震活動の長期評価でそれぞれ評価された地震が実際に起きた場合の条件付きPTHAの結果を統合し,千島海溝,日本海溝,相模トラフ,南海トラフおよび南西諸島沿いの沈み込み帯で発生する大地震に伴う津波の5海域統合版の条件付きPTHAを試算したので報告する.

それぞれの海域で以前試算した条件付きPTHAは,それぞれの長期評価で評価された地震および確率モデルをそのまま用いている.5海域それぞれで試算した条件付きPTHAの説明に関しては,それぞれの先行発表を参照のこと(千島・日本海溝PTHA,平田・他,2022SSJ;相模トラフPTHA,同,2016SSJ;南海トラフPTHA,同,2019 JpGU;南西諸島PTHA,同,2018SSJ).ただし,与那国島周辺を除く,南西諸島沿いの地震活動に関しては,長期評価で発生確率等が評価されていないので,南西諸島沿いの地震活動からGR則を推定し,確率モデルを定常ポアソン過程としてPTHAを試算した.また,安芸灘~伊予灘~豊後水道および日向灘の地震活動は今回の5海域統合PTHAには含まれていない.

確率論的統合において,(i)長期評価において地震規模と震源域形状の多様性まで推定されている地震の場合(例えば,南海トラフの巨大地震や東北地方太平洋沖型の超巨大地震など)は,当該地震の多様性として表現された異なる震源域同士は互いに排反,(ii)それ以外の場合は,震源域同士は互いに独立であると考えて,5海域で長期評価された,それぞれの地震に伴う津波ハザードカーブを確率論的に統合した.確率論的統合の手順の詳細は大野・他(本大会)を参照のこと.
ぞれぞれの海域のPTHAで考慮した地震規模,波源断層モデル数の概略は以下のとおり;①千島海溝+日本海溝,Mw7.6-9.2,3700余り;②相模トラフ,Mw6.8-8.6,1000余り;③南海トラフ,Mw7.7-9.0,2700余り(南海トラフの場合はいくつかの地震が同時に起きることが想定されており,地震パターン数は34万余り);④南西諸島,Mw7.0-9.4,3600余り(村田他,本大会).

津波計算に関しては,Okada(1992)とTanioka&Satake (1996)の方法を用いて初期水位を計算、最小50m間隔の陸上・海底地形データのネスティング・グリッドを用いて、移流項、海底摩擦項、全水深項を含む非線形長波方程式に、陸側に遡上境界条件、海側に透過条件を課し、差分法を適用して津波予測計算を実施、海岸でのすべてのハザード評価地点に対して最大水位上昇量を計算した.

海岸線の津波(最大水位上昇量)が3mを超える30年超過確率は,(1)北海道襟も岬〜釧路〜北方四島で20%から最大で60%余り,(2)関東・東北地方の太平洋沿岸で平均10%,最大で30%,(3)四国,和歌山県太平洋岸で20%から最大で60%余り,(4)伊豆半島で平均20%,最大で40%,(5)南西諸島沿岸で軒並み10%以下と推定された(土肥・他,地震工学会,2022).

(1)および(3)の30年超過確率が高く評価されたのは,北海道沖の超巨大地震(17世紀型),根室沖プレート間巨大地震,色丹島沖および択捉島沖のプレート間巨大地震,および南海トラフの巨大地震の30年発生確率がそれぞれ「7-40%」,「70%程度」,「60%程度」,「70-80%」と高く評価されているためと考えられる.
一方,(2)の関東・東北地方の太平洋沿岸の30年超過確率が相対的に低い主な要因は,日本海溝沿いで地震規模のもっとも大きな超巨大地震(東北地方太平洋沖型)が発生してからまだ10年余りしか経過しておらず,その30年発生確率が「ほぼ0%」と長期評価されていることに起因していると考えられる.
ただし,今回報告した5海域統合版PTHAはあくまで「もしも長期評価で評価された地震が実際にその通りに起こった場合」に対応する条件付きPTHAであり,長期評価で評価されていない地震の寄与は含まれていないことに注意されたい.

本研究は防災科学技術研究所の研究プロジェクト「ハザード・リスク評価に関する研究」の一環として実施した.