日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 災害リスク軽減のための防災リテラシー

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、座長:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)、井ノ口 宗成(国立大学法人 富山大学)


10:45 〜 11:00

[HDS07-06] 他地域との比較から見た御嶽山地域の火山防災リテラシー向上の取り組みの特徴

*堀井 雅恵1山岡 耕春2金 幸隆3、竹脇 聡3國友 孝洋4 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山研究センター、3.名古屋大学大学院環境学研究科附属地震火山センター御嶽山火山研究施設、4.御嶽山科学研究所)


キーワード:火山防災、防災リテラシー、教育普及、御嶽山、高リスク小規模噴火、質的研究

御嶽山地域においては、2014年の噴火以降、地域と火山専門家との顔の見える関係を維持・発展させるため、2017年に名古屋大学御嶽山火山研究施設が設置され、また2018年から火山マイスター制度が発足して火山防災と地域振興のための活動が行われている。また、2022年に御嶽山ビジターセンターが王滝村、木曽町の2か所に開所した。本発表では、これまでの御嶽山火山マイスターによる啓発活動と、火山防災リテラシー向上に関して実績のある他の火山地域の先進事例(阿蘇山など)とを比較し、火山や地域の特徴、施設の経営形態などの相違点を踏まえた上で、火山防災の普及・啓発活動における共通の課題や御嶽山地域の特徴を明らかにし、地域特有の課題解決のために有効な方策について考察した。

多数の登山者が犠牲になった2014年の御嶽山噴火以降、火山活動が比較的不活発で、山頂から居住地が遠い火山地域においても防災のあり方が見直されることとなった。
御嶽山地域では「臨床環境学の手法を応用した火山防災における課題解決法の開発」プロジェクトにおいて行われたワークショップ(1-3)や長野県火山防災のあり方検討会(4)等で地域の火山防災が議論され、名古屋大学御嶽山火山研究施設が設置されるとともに地域と火山専門家との顔の見える関係を維持・発展させるために火山マイスター制度が発足した(5-7)。現在(2023年2月)、18名の火山マイスターが活躍しており、安全登山の普及啓発活動や火山専門家による講演会の開催、地元小学生対象の野外学習会、登山者アンケートなどの火山防災啓発活動を行っている。また、2022年8月に御嶽山ビジターセンターが、木曽町(「さとテラス三岳」道の駅三岳)および長野県と王滝村(「やまテラス王滝」田の原登山口)によって開設された。さとテラス三岳に名古屋大学火山研究施設が移転し、地元小学生を対象とした火山防災教育や火山マイスターの活動拠点としての活用も始まっている(8)。しかしながら、噴火から8年が経過し、地域において災害の記憶が薄れてきている一方、訪れる観光客・登山客の数は噴火以前の水準に戻っていない。
本研究では、こうした課題の解決に役立てるため、御嶽山地域の火山防災教育の取り組みと他火山地域の先進事例を比較した。すでに訪問調査をした火山地域 (9,10)に加え、2022年度は阿蘇山、富士山、箱根において火山防災教育やジオパーク活動の拠点になっている施設の代表者や研究・教育担当者に対してインタビュー調査等を行った。主な調査項目は、火山防災や観光における役割や効果、火山研究者や地元行政、地元住民、観光客、登山者、小中高生との交流の状況、施設の活用方法、地元の人たちの火山に対する意識とその変遷についてである。
御嶽山地域においては火山マイスターと火山研究施設担当者、自治体担当者が定期的に会議を行っていることが、顔の見える関係の維持・発展や迅速な情報の伝達などに役立っていることがわかった。いずれの地域でも、子供に対する啓発教育を通じた災害記憶や防災意識の継承と周囲の大人への伝搬を重要視していることは共通していた。各火山地域は一定の修学旅行需要があり、御嶽山地域についてはビジターセンター開設をきっかけに修学旅行・研修旅行の需要を開拓することが地域活性化と火山防災の両面で有効な方策の1つになると考えられる。

*本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けた。

(1)中村秀規・山岡耕春・堀井雅恵(2017)臨床火山防災学の試み, 地理, 62, 25-31.
(2)山岡耕春(2018)現場から考える臨床火山防災学, 学術の動向, 23(3), 88-90.
(3)Nakamura, H., Yamaoka, K., Horii, M., Miyamae, R. (2019) An Approach to Volcano Disaster Resilience and Governance: Action Research in Japan in the aftermath of Mt. Ontake Eruption, Journal of Disaster Research, 14, 829-842.
(4)https://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/kurashi/shobo/bosai/bosai/kazanarikata/chukanhokoku.html
(5)國友孝洋・田ノ上和志・山岡耕春(2018)名古屋大学御嶽山火山研究施設, 日本火山学会講演予稿集, B1-11.
(6)窪田 優希, 田ノ上 和志 (2018) 御嶽山火山マイスターが創る新たな“火山防災”の取組, 日本火山学会講演予稿集, P119.
(7)https://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/kurashi/shobo/bosai/maister.html
(8)金幸隆・川上明宏・近藤雄吾・野田智彦・山岡耕春(2022) 御嶽山ビジターセンターを活用した火山教育と防災啓発の意義, P2-14
(9)堀井雅恵・山岡耕春・國友孝洋・竹脇聡(2022)御嶽山地域と他火山地域における火山防災リテラシー向上に関連する活動の比較, JpGU2022予稿.
(10) 堀井雅恵・山岡耕春・國友孝洋・竹脇聡(2022)御嶽山地域と他火山地域の火山防災教育に関連する活動の比較, 日本火山学会予稿集P2-24