日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 災害リスク軽減のための防災リテラシー

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[HDS07-P04] 地震計を活用した保育所における防災情報の提供による防災力向上手法の開発

*中出 雅大1藤原 広行1、矢守 克也2中村 洋光1内藤 昌平1、岡田 夏美2 (1.防災科学技術研究所、2.京都大学防災研究所)

キーワード:防災、地震計、保育園、保護者

阪神淡路大震災、東日本大震災、北海道胆振地震、熊本地震など、過去30年を振り返っても甚大な被害をもたらした地震は希少なものではない。他方、内閣府が令和4年度に実施した調査の報告によると、家具や家電の転倒・落下・移動防止対策の状況について、調査方法等が異なるため単純な比較はできないとしつつも、平成25年調査:18.3%、平成29年調査:17.9%、令和4年調査:17.7%といった結果(内閣府政府広報室「防災に関する世論調査」、2022)であり、災害から時間が経つと住民の防災意識も薄れていき、誰しもが準備できる備えについてもまだまだ不十分な状況が続いていることが伺える。また、従来は例えばメディアによる防災の呼びかけや平時の防災訓練といった、比較的「正常性バイアス」が働きやすい状況において防災情報が提供されることが多いことが課題であった(広瀬, 2004)。そこで、本研究では、「正常性バイアス」とは反対方向の働きをもつ「心配性バイアス」(矢守, 2017)、すなわち、自分にとって大切な人に及ぶ恐れのあるリスクについては実際よりも高く見積もるバイアスが作動しやすいタイミング、内容などを探求していくことを目的として防災情報を提供する実験を行った。まず、本情報を届けるターゲットとして、自分にとって大切な人が心配となる度合いが高い人を想定し、特に低年齢の子どもを持つ親はその傾向が強くなるのではないかという仮説を置き、保育所に子どもを預ける保護者を実験協力者として対象に選んだ。その上で、具体的な実験内容としては、保育所に地震計を設置(本研究ではつくば市の協力のもと同市内の保育所1か所、株式会社ポピンズエデュケアの協力のもと東京都内の保育所2か所において実施)し、子供を預けている状態の時(平日午前8時~午後7時)に、地震発生した直後のタイミングに防災情報を提供することにより、保護者の防災力向上が図られる可能性があることに着目した実証実験を行った。

保育所に設置した地震計は震度1以上を観測した際に、その建物における地震観測記録を用いて推定(建物の1階と上階に設置した地震計の観測値から求める最大層間変形角と最大加速度を用いて被害推定を行う)した安全性情報とともに、防災に関する各種情報をメールを用いて保護者に配信するようなシステムを構築した。防災情報については、知っておくと災害時に役立つ情報、居住地での過去の災害情報、防災グッズに関する情報と3種類のカテゴリーを設け、各カテゴリーそれぞれに複数のコンテンツを文字だけではなくイラストにしたものとすることにより認知段階で振り落とされることのないよう容易に内容を理解してもらえるものを準備した。





そして、実証実験の前後、および最大震度3程度を記録した地震発生直後に、保護者向けにアンケートを実施することにより、本情報提供による効果を測定する。アンケート集計結果や保護者からの意見等、詳細については本発表で報告する予定である。

なお、本研究は防災科学技術研究所の共同研究公募「令和4年度災害レジリエンス向上のための社会的期待発見研究」において「防災力向上研究プロジェクト~心配性バイアスを活用した啓発/自治体災害対応DXの推進~」として実施された。また、実証フィールドに関しては「つくば市未来共創プロジェクト事業」において令和4年度採択案件「IoT(地震センサー)と災害情報提供システムを活用した災害対応業務のデジタル化/市民の防災力向上の実証実験(防災科学技術研究所)」として実証フィールドの提供等のサポートを得て実施された。

広瀬弘忠(2004)人はなぜ逃げおくれるのか―災害の心理学 集英社

矢守克也(2017)天地海人-防災・減災えっせい辞典 ナカニシヤ出版