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[HDS07-P06] 首都直下型地震の想定エリアの住民の認知および社会的文脈要因が防災行動に及ぼす影響
キーワード:防災行動、社会的文脈、首都直下型地震
首都直下型地震が発生した場合、東京都23区のおよそ6割で震度6強以上になり、19万4400棟の建物被害と6150人の死者が生じると想定されている。このような大地震に備えるために、人々の防災行動のさらなる普及が喫緊の課題となっている。これまで、災害に対する認知的要因が必ずしも防災行動に直接的に結びつかないことが指摘されている。人々が防災行動を実行するかは社会的文脈にも左右される。そこで、本研究では地震に対する認知要因だけでなく、被災経験、災害弱者の有無、災害時の不安な出来事、住居の問題などの社会文脈要因についても検討する。それにより、防災行動は認知変数といった個人的要因だけなく、文脈変数などの社会的要因によっても左右されることを明らかにする。
2023年1月下旬にインターネット調査会社の登録モニターのうち、首都直下型地震の想定エリアである東京23区の居住者を対象に実施した。調査では、性別(男性、女性)×年代(20代、30代、40代、50代以上)の10層から、合計で1000名程度を目標にサンプルを抽出し、1047名の回答が得られた。そのうち、回答時間が著しく短かったり、長かったりした回答者除いた、n = 779のサンプル(男性 = 44%、女性 = 56%、平均年齢 = 43.37(SD = 12.96)歳)を分析対象とした。調査では、デモグラフィック要因に加えて、地震の認知要因(ハザードマップの認識、首都直下型地震の予期)、社会状況要因(地震の被災経験、災害弱者の家族数、地震災害時の不安な出来事、住宅に関する問題)、日常の防災行動について測定をした。
分析の結果、回答者の92%は、首都直下型地震が将来発生すると予想をしていた。一方、地震のハザードマップの認識がある人は68%であった。過去の地震の被災経験をした人は23%であった。また、地震災害時に不安な出来事は、平均 = 4.76(SD = 2.08)件であった。日常の防災行動数(最大32)については、平均 = 3.83 (SD = 4.38)にとどまっていた。
次に、日常の防災行動を従属変数に、デモグラフィック要因、災害に関する認知・社会状況変数を独立変数として、ポワソン分布による一般化線形モデルをベイズ推定により分析を行った。その結果、年齢、未既婚、年収、ハザードマップの認識、首都直下型地震の予期、災害弱者の家族数、地震災害時の不安問題の数、被災経験、住居の自己所有、住居の耐震性の不安が、日常の防災行動を関連していた(Table 1)。具体的には、年齢が上がるほど、防災行動が増えていた(Figure_1_a)。未婚者の方が既婚者よりも行動数が多かった(Figure_1_b)。また、年収が多い人ほど防災行動が多くなる関連がみられた(Figure_1_c)。ハザードマップを認識している人ほど、認識していない人よりも、防災行動を多くとっていた(Figure_1_d)。首都直下型地震の予期がある人は、予期がない人よりも、防災行動が多い(Figure_1_e)。災害弱者と同居している人ほど、防災行動が多くなっていた(Figure_1_f)。地震災害時に不安な出来事が多い人ほど、防災行動を取る傾向が高くなっていた(Figure_1_g)。被災経験がある人は、ない人よりも防災行動を多くとっていた(Figure_1_h)。自宅を所有している人は、そうでない人よりも、防災行動を取った数が多かった(Figure_1_i)。一方、住宅の耐震性の不安が強い人ほど、防災行動を取らなくなる関連がみられた(Figure_1_j)。
本研究により、住民の多くは首都直下型地震への予期は高い一方で、防災行動の実行数は少数に留まっていることが示唆された。首都直下型地震への認知変数と防災行動の関連はみられたものの、それらの変数だけで防災行動が導かれているわけではない。認知変数以外に、年齢や経済状況などのデモグラフィック要因や、災害弱者、被災経験、災害時の不安な出来事、住居の所有といった住民の環境要因も、防災行動を増加させる傾向がみられた。そのため、デモフラフィック要因、社会環境要因も防災行動を導く重要な要因として位置付けられる。地震への認知が形成されていても、デモグラフィック要因、社会環境要因によって防災行動が妨げられる可能性がある。さらに、住居への耐震性の不安が防災行動を低下させる逆説的な効果がみられた。住居の耐震性の問題は直ぐに対応することが困難である。このような難しさが、防災そのものに対する人々の効力感を弱め、防災行動を低下させた可能性が考えられる。防災行動を促進するうえで、住居の安全性の確保が重要である。したがって、災害に対する認知要因に焦点あてた防災リテラシーには限界があると考えられる。防災行動を促進するためには、家庭や住居などの社会状況要因を配慮した多面的な防災リテラシーのデザインが求められる。
2023年1月下旬にインターネット調査会社の登録モニターのうち、首都直下型地震の想定エリアである東京23区の居住者を対象に実施した。調査では、性別(男性、女性)×年代(20代、30代、40代、50代以上)の10層から、合計で1000名程度を目標にサンプルを抽出し、1047名の回答が得られた。そのうち、回答時間が著しく短かったり、長かったりした回答者除いた、n = 779のサンプル(男性 = 44%、女性 = 56%、平均年齢 = 43.37(SD = 12.96)歳)を分析対象とした。調査では、デモグラフィック要因に加えて、地震の認知要因(ハザードマップの認識、首都直下型地震の予期)、社会状況要因(地震の被災経験、災害弱者の家族数、地震災害時の不安な出来事、住宅に関する問題)、日常の防災行動について測定をした。
分析の結果、回答者の92%は、首都直下型地震が将来発生すると予想をしていた。一方、地震のハザードマップの認識がある人は68%であった。過去の地震の被災経験をした人は23%であった。また、地震災害時に不安な出来事は、平均 = 4.76(SD = 2.08)件であった。日常の防災行動数(最大32)については、平均 = 3.83 (SD = 4.38)にとどまっていた。
次に、日常の防災行動を従属変数に、デモグラフィック要因、災害に関する認知・社会状況変数を独立変数として、ポワソン分布による一般化線形モデルをベイズ推定により分析を行った。その結果、年齢、未既婚、年収、ハザードマップの認識、首都直下型地震の予期、災害弱者の家族数、地震災害時の不安問題の数、被災経験、住居の自己所有、住居の耐震性の不安が、日常の防災行動を関連していた(Table 1)。具体的には、年齢が上がるほど、防災行動が増えていた(Figure_1_a)。未婚者の方が既婚者よりも行動数が多かった(Figure_1_b)。また、年収が多い人ほど防災行動が多くなる関連がみられた(Figure_1_c)。ハザードマップを認識している人ほど、認識していない人よりも、防災行動を多くとっていた(Figure_1_d)。首都直下型地震の予期がある人は、予期がない人よりも、防災行動が多い(Figure_1_e)。災害弱者と同居している人ほど、防災行動が多くなっていた(Figure_1_f)。地震災害時に不安な出来事が多い人ほど、防災行動を取る傾向が高くなっていた(Figure_1_g)。被災経験がある人は、ない人よりも防災行動を多くとっていた(Figure_1_h)。自宅を所有している人は、そうでない人よりも、防災行動を取った数が多かった(Figure_1_i)。一方、住宅の耐震性の不安が強い人ほど、防災行動を取らなくなる関連がみられた(Figure_1_j)。
本研究により、住民の多くは首都直下型地震への予期は高い一方で、防災行動の実行数は少数に留まっていることが示唆された。首都直下型地震への認知変数と防災行動の関連はみられたものの、それらの変数だけで防災行動が導かれているわけではない。認知変数以外に、年齢や経済状況などのデモグラフィック要因や、災害弱者、被災経験、災害時の不安な出来事、住居の所有といった住民の環境要因も、防災行動を増加させる傾向がみられた。そのため、デモフラフィック要因、社会環境要因も防災行動を導く重要な要因として位置付けられる。地震への認知が形成されていても、デモグラフィック要因、社会環境要因によって防災行動が妨げられる可能性がある。さらに、住居への耐震性の不安が防災行動を低下させる逆説的な効果がみられた。住居の耐震性の問題は直ぐに対応することが困難である。このような難しさが、防災そのものに対する人々の効力感を弱め、防災行動を低下させた可能性が考えられる。防災行動を促進するうえで、住居の安全性の確保が重要である。したがって、災害に対する認知要因に焦点あてた防災リテラシーには限界があると考えられる。防災行動を促進するためには、家庭や住居などの社会状況要因を配慮した多面的な防災リテラシーのデザインが求められる。