日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 災害リスク軽減のための防災リテラシー

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:高橋 誠(名古屋大学大学院環境学研究科)、木村 玲欧(兵庫県立大学)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[HDS07-P08] 中学生作成の防災ゲームによる地区防災力向上の取組み

*松多 信尚1、瀬戸口 朋菜1、富山中学防災すごろく 作成チーム (1.岡山大学大学院学術研究院教育学域)

キーワード:防災教育、地区防災、都市近郊域住人の地域理解向上

防災リテラシーが防災教育にとって大きな到達目標となっている。しかし、防災教育は自分の身を守るという従来からの目標にとどまらず、現在の社会構造を理解し甚大な自然現象が社会に支障をきたし災害にいたるプロセスや災害が人間社会にどのような影響を及ぼすのかということを考えることまで、発達段階に応じて求められおり、その内容は幅広い。ここで、想定される想定外については、ハザードマップを理解し、マイタイムラインを作ることを推奨することがなされるが、想定されていない想定外に対応するには、自然現象、社会構造、当該地域について地理的な理解が求められる。しかし、その方法は確立されていなく、模索状態が続いている。
一方、地域の課題も深刻である。従来は生まれてから死ぬまで生活圏にあまり大きな移動がないため、土地に立脚するコミュニティーと住人が強く結びつく場合が多く、災害のような地理的空間で発生する事象に対しての対応力は強かったが、現在は生業の多様化や交通網の発達などで多くの人が生まれ育ったなじみのある土地を離れ、地理的空間認識もない地域に移り住んでいる。加えて、所属するコミュニティーも職場や友人、ネット上などに分散し、相対的に土地との関係性は薄くなっている。これにより特に都市近郊のような住宅地などでは防災に対するリテラシーが脆弱になっていることが大きな課題の一つとしてある。
そこで、本発表は、現行の指導要領で中学において求められる主体的で対話的で深い学びとして、思考力、判断力、表現力を防災教育を通して身に着けることを意識しつつ、理科、社会科の学習内容と結びつけながら地域社会、地域の自然環境、災害、防災、減災を理解し、それをもとに地域社会に伝えるための双六をベースとしたゲームを作成した。そして、地域の公民館などでゲーム大会を実施することで、世代間で地域情報を伝達するのではなく、子供から親世代へと逆方向への情報伝達をすることで地域の理解を深め、防災意識を高めることを試みたので紹介する。
実施地域である、岡山市中区富山は岡山市街地からバスで20分程度のところに位置し、東を一級河川旭川の旧河道を利用した放水路である百間川が流れ、北側を花崗岩質の丘である操山、南を江戸時代に干拓された0m地帯が分布している。開発は高度経済成長期より急速に進んだ地域である。協力してくれた富山中学校はコロナ禍で従来の修学旅行ができず、防災教育を含んだ活動を試みた。この活動として、1学期に3年生が課外活動に合わせた事前活動で災害について学び、防災に関する問題を配置した防災双六を作り、学年全員がそのすごろくを授業で遊ぶことで、災害について知識を共有した。次に課外活動で淡路島の北淡地震記念館に行き、災害について学習し、自分たちが作った双六のブラッシュアップに関するアンケートを実施した。
その後、2学期に2年生の生徒会に所属する生徒が引き継ぎ、放課後、ファシリテータとして岡山大学教育学部の社会科教育講座に所属する修士の大学院生と学部生が参加し5回にわたり1-1時間半程度の活動を行った。その際、平成30年西日本豪雨の後で倉敷市真備町の岡田地区まちづくり協議会が経験をもとに作成した発災時や災害後の行動を記録し伝える「にげる」「いきる」という二冊の冊子をもとに、災害を発災前から災害後までの時間軸でとらえることや、地域の特性に合わせた地理的空間の把握の重要性を理解させた。
また、自分たちが作成したゲームを公民館で住民が遊ぶことを通して伝えるために、災害に関する知識の定着、リスクの地域特有の空間的な把握、起こりうる社会的現象の想定などを考え、ゲームを通してなるべく多くのことを学べる工夫について考えさせた。
大学生および大学院生は、あまり意見を出さないように心しながら、中学生のアイディアを形にすることを心掛けた。その結果完成したのが図のような校区を含む一帯の地図の上の上に配置された双六ゲームである。地図は一軒一軒の家を確認できるスケールであり、地震や水害などが発生すると、津波、土砂災害、水害、揺れやすさ、液状化などの岡山市が公表しているハザードマップを透明なフィルムに印刷されたものを重ね合わせることで、被災リスクの確認ができるように工夫し、災害前の準備が災害時や避難生活に有利になるような工夫などをした。
その結果、中学校の教員や生徒、大学の学生、地域住民、公民館職員など、それぞれの立場の人々にも満足感が大きい防災教育の活動ができた。今後は、より広く伝えることなどを考えていく必要がある。