日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

13:45 〜 14:00

[HDS08-01] 御嶽山噴火を想定した登山者参加型の避難訓練に基づく避難行動に関するアンケート調査

*金 幸隆1山岡 耕春1、竹脇 聡1、田ノ上 和志2、野田 智彦2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科、2.木曽町)

キーワード:避難訓練、火山、登山者、避難行動、アンケート調査、御嶽山

1.はじめに 
御嶽山2014年の噴火の死者行方不明63名は,火口から半径1㎞以内にいた登山者であった.当災害を受けて,地元の自治体は,登山者に対する火山防災力強化を図ってきた(金・山岡,2022).その一環の1つに木曽町は,噴火から約8年かけて,死者32名を伴った頂上の剣ヶ峰(標高3067m)付近にシェルターを設置し,また黒沢口ルートの3か所に防災行政無線を整備した.このようにハード対策が進んだことから,木曽町はシェルターの認知度を一般の登山者に図るため,登山者参加型の避難訓練を初めて実施した.我々はこの避難訓練に合わせて,登山者の避難行動を明らかにすることを目的に,参加者にアンケート調査を実施した.
2.避難訓練の方法 
避難訓練は, 2014年噴火と同様,水蒸気噴火が剣ヶ峰の南西約500mから突発的に発生したことを想定して実施した.調査範囲は黒沢口ルートとした.2022年9月17日午後12時10分に,マニュアルに従って,防災行政無線でサイレンを鳴らし,噴火発生と避難を登山者に呼びかけた.
登山者には,訓練中の事故防止優先を謳った上で,参加者がとる行動を5つ記載した避難訓練指示書を中の湯駐車場と御嶽ロープウェイ駅の2か所で配布した.指示内容は,①頭部・背中を守ること,②避難施設を探すこと,③シェルターと山小屋があったら歩いて避難すること,④避難施設がなければその場にとどまること,⑤訓練終了後に自分の位置を確認し噴火した時に自分自身で何ができるのかを考えることである.
3.アンケートのカテゴリーと分析方法
アンケートの問いは,7つのカテゴリーに分類され,登山者のⅰ属性,ⅱ経験・知識,ⅲ準備・備え,ⅳ位置,ⅴ施設・設備・地形の認知,ⅵ避難行動,ⅶ火山登山の考えである.本発表では,それらの中からⅰの居住地と年齢,ⅱの登山回数,ⅳの位置の認識度,ⅴの身を隠す場所を発見できたかと防災無線の聞こえ具合およびⅵの実際の避難行動に関してクロス集計を実施した.
4.結果
アンケートの回答者数は347人であり,指示書等の配布者数約640人のうち約54.2%であった.回答者年齢は,現役世代(22〜59歳)が多く,全体の82.1%である.60歳以上は17.0%であった.居住地は,多い順に愛知県21.0%,長野県18.4%,東京都8.6%であった.
自分の位置を答えた人は90.8%に達し,位置が分からないと答えた人は6.3%であった.位置の認識が低かった人は,はじめて御嶽山を訪れた人と高齢者であった.登山者の位置は,8~9合目と9〜10合目の登山道にそれぞれ20.2%および19.3%,剣ヶ峰16.1%,8合目と9合目の山小屋にそれぞれ13.8%および10.7%であった.
サイレンが鳴ったときに,隠れる場所が見つかったと答えた人は,登山者の登山回数と位置に関係する傾向があった.登山回数が6回以上の人のうち62.2%は身を隠す場所を見つけられた一方,2~3回の人は55.2%、初めての人は40.3%にとどまった.登山経験の浅い人が,避難場所を見つけられなかった傾向にある.エリア別では,シェルターと山小屋のあるエリアではそれぞれ94.6%および50.0〜78.6%の人が避難場所を見つけた一方で,8~10合目の登山道では18.6〜25.4%の人だけが見つかり,探しもしなかった人は60.0〜68.7%に達した.登山道では,噴火の時に,逃げ場が少ないことを示している.
サイレン音の聞こえ具合は,設備の位置と登山者の位置に関係する傾向が認められた.訓練の朝は快晴であったが,訓練時に雨へと変わり濃霧と強風となった.防災行政無線が設置された剣ヶ峰では91.1%の人がサイレン音を聞こえており,かすかに聞こえたと答えた8.9%を合わせると全員が聞こえている.また9〜10合目の登山道と山小屋のある9合目周辺では,聞こえた人の割合が剣ヶ峰のそれより減少し,それぞれのエリアで4.5%および25.0%の人は全く聞こえなかったと答えている.また同じ登山道でも,防災行政無線が設置された8〜9合目登山道では54.3%が聞こえたとして,9合目より高かった.なお黒沢口ルートにある4つの山小屋の中では,サイレン音は全く聞こえなかったことが確認された.
エリア別に避難行動は,剣ヶ峰にいた人の76%がシェルターに避難し,12.5%は建物の陰に隠れた.登山道エリアの避難行動は様々であり,岩の陰に隠れた人29.9%,何をしたら良いかがわからなかった人14.9%,何もしなかった人13.4%,下山を開始した人13.4%であった.