日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2023年5月23日(火) 13:45 〜 15:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

14:00 〜 14:15

[HDS08-02] 1923年関東地震の木造住家被害データのデジタル化

*石瀬 素子1中村 亮一2諸井 孝文3 (1.東京大学地震研究所、2.中村地震調査技術士事務所、3.株式会社J-POWER設計コンサルタント)

キーワード:1923年関東地震、地震被害のデジタルデータ

【はじめに】
  1923年関東地震の家屋被害を網羅した代表的な資料として,震災予防調査会報告第百号(甲)に掲載された松沢武雄(1925)による木造建造物の被害データ(松沢データ),および内務省社会局(1926)が刊行した大正震災志による被害データ(内務省データ)が挙げられる.これらの全壊率や半壊率は,当時の震度を推定する上で重要なデータである.しかし,次項で述べるように,被害数がデータセットごとに異なっている.そこで,諸井・武村(2002)はこれらの統計量を再吟味し,市町村ごとの震度を推定した.このデータは,中央防災会議災害教訓の継承に関する専門委員会(2006)などの国の防災情報としても示されてきており,関東大震災の被害を語る際の欠かせないデータである.
 一方で,地震学的な解析を行うことを考えると(例えば,距離減衰式などを用いた予測や地盤増幅率との比較など),市町村ごとに与えられた面的な広がりのあるデータは扱いが難しい.そこで,我々は,諸井・武村(2002)による市町村ごとの木造住家被害データについて,市町村名に加え,各々の代表点の経緯度を加えたデータセットを作成した.

【諸井・武村(2002)による木造住家被害データ】
 松沢データと内務省データを比較すると,地域によっては被害数に相当のくい違いが認められる.諸井・武村(2002)は地方史誌などの別の資料を調査に加え,このようなデータ間の矛盾は①集計単位が建物棟数のデータと戸数のデータが混在すること,②都市部ではさらに長屋などの集合住宅が存在したこと,③全潰・半潰後に焼失した家屋の分類が曖昧であること,などが原因であるとした.諸井・武村(2002)による住家被害データは,既往の資料に内在するこのような原因をできるだけ取り除き,被害数の単位を住家棟数に統一し,かつ,全潰棟数や半潰棟数を焼失・非焼失に分けて集計した統計資料となっている.

【作成したデータセットの内容】
 今回作成したデータセットには,当時の府県名,郡名・市区町村名,松沢データと内務省データの全潰棟数・半潰棟数・焼失棟数・戸数,諸井・武村(2002)で統合されたデータの住家全潰棟数(非焼失)・住家全潰棟数(焼失)・全潰戸数・住家半潰棟数(非焼失)・住家半潰棟数(焼失)・半潰戸数・焼失流出埋没数・全潰率・半潰率・焼失流出埋没率に加えて,代表地点の緯経度,現在の郵便番号と住所が収録されている.
代表地点の経緯度の与え方については,「歴史的行政区域データセットβ版 」の「 市区町村ID インデックス」を利用し,その代表点としている経緯度を採用した.代表点の決め方として市町村のポリゴンの中心を与える方法もあるが,この方法では,人があまり住んでいない場所に代表地点が決まることがあるため被害分布を考える際には適当でないと考えた.一方,「市区町村ID インデックス」による代表地点は,例外を除き,人が多く住んでいるところに位置する公共施設が採用されている傾向が見られ,より適切だと判断した.
 現在の地名については,GoogleMapを用い,与えられた経緯度に対する地名を調べた.なお,市町村合併等の影響で代表点が関東地震当時の市町村と異なる場所にあたるときには,当時の市町村区域の中で新たに地点を読み取った(たとえば,埼玉県菅谷村の場合など).この場合,読み取った地点を括弧書きで(嵐山郵便局の位置)などと記入した.

【おわりに】
 今回作成したデータベースは,地震研究所の共同利用データ「むかしの地震の被害のデジタルデータ」のひとつとして公開予定である.同じ枠組みで,すでに,東南海地震の遠江地方の家屋被害が公開されており,今後,1872年浜田地震,1889年熊本地震,1894年庄内地震,1896年陸羽地震,1909年江濃(姉川)地震,1914年秋田仙北地震,1948年福井地震に関する被害のデジタルデータについても,順次,公開予定である.

【参考文献】
「歴史的行政区域データセットβ版」:https://geoshape.ex.nii.ac.jp/city/
諸井・武村(2002):関東地震(1923年9月1日)による木造住家被害データの整理と震度分布の推定,日本地震工学会論文集,第2巻,第3号