日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:畑山 満則(京都大学防災研究所)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

15:45 〜 16:00

[HDS08-07] 低地の微地形の内部構造は非破壊でどこまで分かるか―GPR探査の適用事例

*中埜 貴元1松多 信尚2 (1.国土交通省国土地理院、2.岡山大学)

キーワード:地形分類、微地形、GPR探査、浜堤、自然堤防、トンボロ

1.はじめに
 地形分類情報は,その地域の土地の成り立ちを理解するとともに,その地域で起こり得る自然災害リスクを予め想定することに役立つ有用な情報である.地形分類は,地形図や空中写真,デジタル標高モデル(DEM)を用いて,地形の形態や成因等の特徴が類似する地域を同一の地形種領域として判読・分類するものである.地形判読においては地形の形態や成因,形成順序等を考察し,その成り立ち(地形発達史)を明らかにするが,空中写真やDEMから判読できるのは基本的に地表面の形態であり,成因や形成順序の解釈に有用な土質や堆積構造等の地下構造の情報は得られない.そのため,地形分類作業においては,検土杖などを用いた簡易ボーリング調査なども併用されるが,これは点情報であるうえ,実施可能な地点も限られる.
そこで本研究では,非破壊探査法の一つである地中レーダ(GPR)探査により,浜堤や自然堤防等の低地の微地形の内部構造がどの程度捉えられるか,また,その内部構造から地形種の違いを識別できるかを検討した.

2.調査概要
 調査地域は,静岡県掛川市の菊川下流域の谷底平野や海岸平野で,主に浜堤や自然堤防などの微高地地形を対象とした.浜堤を対象とした探査結果の一部については,これまで中埜ほか(2022)等で報告しているが,今回は主に菊川と下小笠川及び亀惣川に挟まれた場所に位置し,基盤岩のシルト岩で構成された丘陵地の脇に分布する自然堤防(中サイト)での探査結果を検討した.この自然堤防は主に南北方向と東西方向に伸びる軸を持つV字状を呈しており,国土地理院の地形分類図(土地条件図,治水地形分類図)では自然堤防とされているが,丘陵地と孤立丘の間に形成された自然堤防はトンボロ(陸繋砂州)の可能性もある.本研究では,その違いがGPR探査で検出された内部構造から識別できるか検討した.
 GPR探査にはSensors & Software社製Noggin Plusを用い,アンテナ中心周波数は250MHzとした.データ解析には同社製EKKO_Project5を用いた.解析において,往復走時を絶対深度に変換するための電磁波の伝搬速度はhyperbola fitting法により推定した.

3.結果・考察
 南北方向に伸びる自然堤防を縦断したGPR探査断面では,基本的に地下2~5mまでにおいて水平の層構造が検出され,測線北部においては北側に傾く反射構造が一部見られた.東西方向に伸びる自然堤防を横断したGPR探査断面では,地下2~4mまでにおいて横断形状に沿うような概ね水平でやや凸形状の層構造が検出され,自然堤防の南部においては水平層の下位に北下がりの弱い反射面が確認された.
 中サイトの地形が自然堤防の場合,南北方向に伸びる部分の縦断面では河川の流下方向である南に傾くような層構造が期待されるが,探査断面ではそのような構造は確認できず,測線北部では逆に北側に傾く構造が見られた.東西方向に伸びる部分の横断面では河川と反対側の北側に傾く堆積構造が期待されるが,探査断面では基本的に横断形状に沿った層構造が見られ,その下位の一部に北下がりの弱い反射面が確認されるに留まった.
 一方,この地形がトンボロの場合,東西方向の地形の横断面ではその横断形に沿った堆積構造が期待されるが,横断探査断面ではそのような堆積構造が検出された.また,南北方向に伸びる地形が,形成当時の内湾に向かうような流れにより形成されたと仮定すると,縦断探査断面における北側に傾く構造も説明できる.
以上から,仮定は多いものの,中サイトの地形はトンボロの可能性もあることが示唆される.ただし,東西方向に伸びる地形の横断探査断面においては,一部で自然堤防を示唆するような構造も見られるため,堆積環境の変化に応じてトンボロと自然堤防が複合している可能性もある.

4.まとめ
 GPR探査による低地の微地形の内部構造の検出及びその結果からの地形種の違いの識別を試みた.その結果,地形分類により自然堤防とされる地形の内部構造を検出するとともに,同地形がトンボロまたは自然堤防とトンボロの複合地形である可能性を示した.これは,非破壊での浅部地下構造情報が,地形分類作業時の支援につながる可能性を示唆する.

謝辞:本研究はJSPS科研費 JP18H00765の一部を使用しました.調査に使用したGPR探査装置は名古屋大学の鈴木康弘教授よりお借りしました.ここに記して感謝申し上げます.

引用文献:
中埜ほか(2022):JpGU 2022,HGM03-05.