日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:畑山 満則(京都大学防災研究所)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

16:00 〜 16:15

[HDS08-08] 歴史資料を用いて復元した埼玉県行田市周辺地域の近世以降の洪水における洪水氾濫特性と地形との関係

米田 夕夏1、*小荒井 衛1 (1.茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)

キーワード:洪水、地形、歴史資料、利根川、行田市

埼玉県行田市周辺地域は、関東造盆地運動と呼ばれる、関東平野中央に向けて地盤が沈降する運動により、平野中央部において利根川や荒川の流れが停滞し、氾濫が起きやすい地形条件となっており、水害の常襲地域であり、江戸時代の利根川治水の要所である中条堤があった。明治以降の近代治水事業により、洪水に対する流域の安全性が高まったため、越流・決壊による洪水氾濫による被害は一度も発生していない。しかし、近年の気候変動の進行による海面水位の上昇、大雨の強度の増加等により、中長期的な将来において、水災害の激甚化・頻発化が懸念されている。実際、洪水により決壊等の災害や浸水被害の恐れがある氾濫危険水位を超過した河川数は増加傾向であり、治水施設能力を大きく上回るような洪水発生は不可避であると警鐘が鳴らされている。
過去の洪水被害の実態を周知し、洪水に対する危機意識を高めることで、治水施設能力を超過する洪水が発生した場合の被害を最小限に抑えられると考え、本研究の目的を、利根川・荒川の堤防決壊により、甚大な被害をもたらした明治43(1910)年利根川洪水と寛保2(1742)年洪水について、歴史史料から収集した地名と被害・時間情報を地理空間情報化し、地形との重ね合わせ解析を行い、被害・氾濫状況と地形との関係を検討し、また、明治43年利根川洪水と寛保2年洪水の被害・氾濫状況を比較することで、行田市周辺地域の洪水氾濫特性について明らかにすることとした。
その結果、明治43年利根川洪水では氾濫水は南流し、星川、元荒川、綾瀬川を流下したものと、会の川や古利根川(現大落古利根川)、庄内古川(現中川)を流下しするものに分流したことが明らかとなった。中川低地南部での氾濫水到達時間を比べると河床勾配が急であった前者の方が早いと分かった。
また、行田市中心部は8世紀初頭までの利根川本川の旧流路上および荒川新扇状地の末端に位置しており、旧流路を辿ってきた氾濫水が集中するため、明治43年利根川洪水では甚大な被害を受けたと考えられる。また、自然堤防や河畔砂丘は氾濫水の流路を妨げ、浸水被害を減少させる一方、関東造盆地運動の影響により地盤が低くなっている地域では妨げられた氾濫水が滞留し浸水被害を増加させること、決壊地点から離れていても台地で狭窄された後背湿地で家屋の流失被害が大きいこと、利根川中流低地の台地は関東造盆地運動の影響により沖積層に埋没し、低地との比高が小さいことで、一般的に浸水リスクがないと言われている台地上でも浸水被害が発生していることが分かった。
寛保2年洪水と明治43年利根川洪水の比較から、主な氾濫水の挙動に違いはなく、将来この地域で洪水が発生した場合も過去の洪水と同様になると考えられるが、利根川からの氾濫水を遊水させることで下流地域を守っていた中条堤が廃止されたことで、将来このような洪水が発生した場合、短時間で氾濫が下流へと拡大すると考えられる。