日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:畑山 満則(京都大学防災研究所)、佐藤 浩(日本大学文理学部)

16:30 〜 16:45

[HDS08-10] iRICとBlenderの連携を通じたiRICの計算結果等のデータの3次元モデル化によるデータ利活用の高度化手法について

*田中 甫幸1、旭 一岳2、清水 康行3 (1.厚生労働省、2.(一社)iRIC-UC、3.北海道大学)

キーワード:iRIC、Blender、可視化、氾濫計算、3次元モデル

【背景】
iRICソフトウェアは、水工学に係る数値シミュレーションのプラットフォームで、無償で利用することができる。Nays2DHやNays2DFloodなどの各種ソルバーを活用し、国内外の地形データ等を活用することで、世界中の氾濫計算を再現を実施することが可能であり、それらの計算結果をiRIC上に表示し、計算結果をGoogle Mapや国土地理院の地図や衛星画像等と重ね合わせることが可能である。Google Earthへの画像やKMLでの出力をサポートしているが、ベクトル化された3次元モデルの生成や、CADのSTLやFBX等のファイル形式との連携が十分に行えない状況である。
一方、現在、仮想空間の活用や、3Dプリンター等において3次元モデルが広く活用され、また土木分野においても、BIM/CIMに代表されるように、計画、調査、設計段階から3次元モデルを導入することが進みつつあり、今後さらなる利活用が期待されるところである。
しかしながら、3次元モデリングソフトにおいては、有償のソフトウェアが多くあるが、iRICが無償のオープンソフトウェアであることから、iRICとの連携においては、極力コストがかからない手法が期待される。そのため、iRICのデータの3次元モデル化にあたっては、如何に容易かつ誰もがアクセス可能な手法で3次元モデルの作成を行っていくかということが重要となる。

【目的】
3次元モデルの利活用促進の流れを受けて、iRICの地図や地形や、建物、植生、氾濫計算の計算結果等のデータをベクトル化された3次元モデルに変換を行うアドインを開発することで、よりリアルに流況や氾濫状況を想像できるように、iRIC上のデータを3次元的な重ね合わせや利活用が可能となる可視化手法の検討を行った。

【手法】
今回、連携を行う3Dモデリングソフトとして、Blenderに着目した。Blenderは3DCGアニメーションを作成するための統合環境アプリケーションであり、無償のオープンソースのフリーウェアとして利用することができる。無償ながらも機能面もモデリング、アニメーション、レンダリング、デジタル合成等のひと通りの作業が可能である。
今回行ったiRICの地形や、氾濫計算結果、植生等の各種データをBlender上に読み込むことで、3次元モデルの生成を自動で行い、データの可視化やそれらの重ね合わせを行う手法について検討を行った。iRIC上の地形データや、時間毎の計算結果をCSV形式で出力し、それらをBlender上で3次元メッシュを作成した。メッシュの作成においては、BlenderのPython API (以降、BPYモジュールと称す)を活用し、iRICの計算結果をBlender上で3次元のメッシュデータに変換した。BPYモジュールのメッシュ作成においては、頂点の定義と面の定義の2つが必要となる。それらを入力規則に沿って変換を行った。また、氾濫計算データは時間変化で氾濫域の表示が変わるように、時間毎でモデルの表示と非表示を制御した。地形データに対応したタイル画像をGoogle Mapや国土地理院よりダウンロードし、3次元の地形モデルと重ね合わせ工程も自動化した。
Nays2DHで設定された植生データについても、それらの植生の高さや密度を反映した形で、3次元的に植生データを表現できるような工夫をおこなったり、建物データについても、国土交通省のPlataueの建物データだけでなく、世界の3D建物データをJSON形式で提供しているOSM Buildingsのデータを読み込み、Blenderで3次元モデル化することで、日本以外の建物データも活用することもできるようにした。
各データの変換を行う可視化ライブラリの実行や、それらの変換にあたっての条件設定が容易にできるように、変換の実行にあたっては、BlenderのGUI上のツールバーから呼び出して実行、または設定が行えるようなインターフェイスとした。また、一式の可視化ライブラリをアドオン化(iRIC2Blender)した。

【結果】
iRICのデータは今回作成したアドオンを通じて、Blender上で3次元モデル化され、Blenderの強力なレンダリングエンジンによる可視化や、STLやFBX等の汎用3Dモデルファイルへの出力、360度動画等の出力が可能になった。水深に応じたカラーコンター表示だけでなく、iRIC上ではできない、水の反射や透明感など、マテリアルの設定を詳細に定義することで、リアルな水の表現や設定を考慮できるようになった。これまでiRIC上では平面的な数値上の表現にとどまっていた、植生密度や高さについても直感的な視覚表現が可能となった。なお、地形データ等含め、オープンソースのデータやソフトを活用することで無償でこれらのモデルを作成することができるようになった。
なお、アドオンは現在プレビュー版としてテスト中であるが、GPL Licenseとして、オープンソースのアドオンとして活用することを想定している。それにより、本アドオンを活用することで、国内外問わず、iRICで作成された氾濫リスクをよりリアルに想像できるような情報の見える化に活用されることが期待される。