日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS08] 人間環境と災害リスク

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、畑山 満則(京都大学防災研究所)、中埜 貴元(国土交通省国土地理院)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HDS08-P03] 南海トラフ地震の多様な地震発生シナリオの防災訓練における利活用と課題の抽出

*水井 良暢1,2、早川 雅朗3時実 良典4中村 洋光1藤原 広行1,2 (1.国立研究開発法人防災科学技術研究所、2.筑波大学、3.イオン株式会社、4.応用アール・エム・エス株式会社)

キーワード:南海トラフ、地震、発生シナリオ、多様性、防災訓練、イオン

1.はじめに
防災科研では、将来の発生が確実視されている南海トラフ沿いの巨大地震に対して、「通常と異なる現象」発生後の時間推移についてもその地震発生の時空間的な多様性の一例として取り込み、地震や津波のハザードやそれによって引き起こされるリスク情報を提供可能とする地震防災基盤シミュレータの開発を行っている。
これまでの企業等の防災対策においては、南海トラフ地震の公開されている強震動や津波、それによる被害等の情報が、想定される震源域全体が一時に破壊するいわゆる最大クラスに対する情報であることから、それ以外の地震発生シナリオが想定されない傾向にあった。一方、南海トラフ沿いで異常な現象が観測され場合には「南海トラフ地震臨時情報」が発表されることになっており、対策を考える上で、多様な地震発生シナリオを想定することの今後の重要性は増していると考える。
そこで本研究では、南海トラフ地震の活動を把握・予測する研究にから生成される発生シナリオ情報の利活用手法と課題の抽出を行った。小売業界の大手企業であるイオングループに多様性のある地震発生シナリオを災害発生の基礎情報として提供し、令和4年6月1日と11月16日の防災訓練を実施した。

2.発生シナリオの抽出
地震発生のシナリオはさまざまなケースが想定される。今回は半割れケースを想定し、震源域セットの作成を行った。なお、先発地震の後に発生する後発地震としての半割れの震源域セットはその時点でまだ破壊されていない部分のみで作成した。
先発地震発生後の条件付きハザード評価試算としては、発生した後の条件付きハザードを試算した。また、長期評価や確率論的津波ハザード評価の考え方を踏まえて、先発地震発生後に起こりうる地震の組み合わせを整理するとともに、組み合わせ毎の重みを評価した。また、先発地震発生後の事前避難を考慮したリスク評価として、臨時情報および対応ガイドラインが制定された半割れケースを対象としたケーススタディを参考にし、事前避難を考慮した暴露人口モデルや、半割れケースでのリスク評価を実施している。地震発生シナリオ選定の流れは以下である。
①確率論的津波ハザードで最も大きい重みが付与されている震源域セットを抽出
②地震動被害の類型化結果をもとに震源域セットを抽出
③抽出されたセットの避難困難者数を特徴量(2地震の単純合計)として類型化
④被害が出やすい2類型それぞれの避難困難者数が最大となる地震セットを候補として抽出
結果的に利用された震源域は、6月の防災訓練ではABm・CEmの領域で発生する地震、11月の防災訓練では日向灘の領域を含むZBm・CEmである。想定情報として被害地域における地震動と津波浸水深を250mメッシュで生成した。

3.情報利活用手法と課題の抽出
6月の防災訓練では、東側半割れ(CEm)が発生したことによる被災現地での災害対応と事業継続について検証され、その後、南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)が発表され西側半割れ(ABm)が起こる可能性がある中での西側地域の対応について検討が行われた。また11月の防災訓練は6月の防災訓練とは地震発生順を逆にして実施した。実際の防災訓練では、災害対策本部の大型スクリーンや各オンライン会議の画面にて地震動と津波浸水深の想定情報が表示されたWebGISマップを利用し、各参加者が被害状況に関して共通認識を持ちながら訓練が進められた。
多様性のある地震発生シナリオを考慮し、最大規模とは異なる半割れケースでの防災訓練を科学的裏付けのあるデータを利用したことにより、現実的な計画立案と訓練の実施が可能となった。防災訓練による検証により、臨時情報が発表された後に後発地震が発生するまでに何をいつまでにすべきか、いつまで継続すべきなのかについての取り決めに役立てられる想定情報が不足していることが課題としてあげられた。

謝辞:本研究は文部科学省科学技術試験研究委託事業である防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクトの一環として実施しました。関係各所の方々に心より感謝いたします。