日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、内田 太郎(筑波大学)、西井 稜子(新潟大学)、座長:西井 稜子(新潟大学)、内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

14:15 〜 14:30

[HDS10-03] 特徴的な変形作用を受けた結晶片岩で発生する四国山地の深層崩壊

*山崎 新太郎1 (1.京都大学防災研究所)

キーワード:深層崩壊、地すべり、結晶片岩、三波川変成コンプレックス、フォリエーション、褶曲

片理や劈開といったフォリエーションは結晶片岩をはじめとする変成岩の主要な構造であるだけでなく,岩盤すべりの鍵となる要因である.フォリエーションは岩石に顕著な強度異方性をもたらしている.そして,斜面においてそのような岩石は重力の影響を受けやすい.重力によるストレスはフォリエーションに沿って破壊面を形成し,それを伸展させる.さらに重力によるストレスは,曲げ変形に伴うフレクシュラルスリップをフォリエーションのある岩石に発生させる.結果として重力斜面変形はフォリエーションを含む岩石において多発する.英文の深層重力斜面変形(DGSD: Deep-seated Gravitational Slope Deformation)は山体を横断する連続的なすべり面を持った岩盤すべりの影響下にある斜面と明確なすべり面を持たないゆっくりとした変形作用の影響下の斜面の双方で使われている.後者が岩盤すべりに進化するという直接証拠は少ないが,その進化は合理的に推定できる.岩盤すべりの多くは流れ盤上で発生している.それは重力変形発達中のフォリエーション面へのせん断の集中の結果と考えると合理的である.緩慢な岩盤すべりは厚いすべり層を持っている.一旦,せん断の集中で厚いすべり層が形成されると,定常すべりに移行し,上載する岩盤すべりの分解は弱くなる.四国山地・結晶片岩の岩盤すべりの斜面は25~30度の急斜面であるが巨角礫で覆われるようなものは少なく土地利用がされているのはこのようなプロセスで形成されたためと思われる.
 一方で急速な運動を伴う深層岩盤すべり,岩なだれに関しても深層重力斜面変形との関係が考えられている.そのような急速な岩盤すべりは必ずしも厚いすべり層をもたない.条件としては,30度を超えるような急な分離面やすべり面を持ち,移動体と不動面との間の結合性が小さいことや,そこに極端に材料的に弱い物質が存在していること,そして降雨で崩壊するような斜面の場合は雨を蓄えやすい構造が必要であると思われる.これまで,崩壊に関係する構造として,流れ盤斜面の下方での重力斜面変形におる座屈の発生,透水性の小さな厚い断層破砕帯の存在などが指摘されてきた.これらは,四国の変成岩地域においても存在している可能性があるが,これまでに知られている同地域の深層崩壊地を検討したところ必ずしも発見できなかった.
 ところで,変成作用は鉱物の再結晶作用だけでなく,延性変形ももたらしている.褶曲とそれに関係する二次的なフォリエーションである劈開は,その波長によっては複数方向の強度異方性を岩石にもたらしている.例えば露頭スケール(波長10 mより小さなスケール)の褶曲(メソスコピック褶曲)はその場での岩石の強度に大きな影響を与えている.三波川変成コンプレックスは典型的な高圧低温型の変成帯であり,結晶片岩からなるが,多段階の変成ステージを経験している.そして,メソスコピック褶曲を含む地域が三波川変成コンプレックスの中では一定の広がりをもって存在する.
 本報告では,上記のメソスコピック褶曲・劈開が,特に四国吉野川流域・大歩危南方地域の1970年代以降から進行している深層崩壊の発生に関係していることを,観察事実と1-mDEMを元にした精密地形表現図の分析を元に報告する.また,これらの深層崩壊の発生には地質構造に加え,河川侵食が重要であることも推定できた.