日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2023年5月25日(木) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、内田 太郎(筑波大学)、西井 稜子(新潟大学)、座長:内田 太郎(筑波大学)、西井 稜子(新潟大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

15:45 〜 16:00

[HDS10-07] SAR衛星データを用いた斜面崩壊による地表変化状況のモニタリング

*王 雪琛1、谷口 寿俊2、本田 博之2、潘 若琳1、三谷 泰浩2 (1.九州大学大学院 工学府 土木工学専攻、2.九州大学大学院 工学研究院 附属アジア防災研究センター)

キーワード:PS-InSAR、SBAS-InSAR、斜面崩壊、地表変化、ALOS-2/PALSAR-2

近年,気候変動などにより,世界的に土砂災害が頻発している。土砂災害は常に社会発展と経済発展に影響を及ぼすとともに,社会の持続可能な発展を制限することに繋がる。そのために,土砂災害の発生率の高い地域に関して災害の予防と管理方法を検討することは非常に重要となっている。一方で,大規模な情報を現地調査にて入手することは人手,所要時間,リスクの観点から難しいである。そのために,広域性,周期性や全天候性などに優れる人工衛星リモートセンシングを斜面災害でより活用できるような取り組みが注目されている。光学衛星は、雲を通して地表面の画像を取得できず、太陽光がないと観測できないという既知の限界がある。そのため、光学衛星画像に代わって、SAR(合成開口レーダ)衛星はマイクロ波を用いた観測により、昼夜天候問わず地表面を観測できる点、一度に広い範囲を観測できる点、観測範囲内ならば高密度で面的な観測が可能 である点、また、一定の周期で時系列のデータを取得可能であるという点で優れている。
 斜面崩壊は、地球物理学的および気象学的要因によって引き起こされる地形変化プロセスであり、その原因には、大雨または長期降雨、地震、その他の災害が含まれる。斜面崩壊は山岳地帯で多く発生し、危険な集団運動である。また、道路、橋、人間の居住地などの主要なインフラに即時的および長期的な物理的影響を与える可能性があり、地域のインフラ開発と土地利用管理に深刻な影響を与える可能性がある。災害の防止と災害発生した際による被害を軽減するために、広域の地表変化状況を把握することが重要となる。
 日本は山岳地帯と亜熱帯モンスーン気候のため、夏季の降水量が多く、近年、豪雨災害による斜面崩壊が発生している。2017年7月5日から6日にかけて、日本の九州地方北部は大雨に見舞われ、災害の中心に位置する福岡県朝倉市の24時間降水量は829mmに達した。今回の災害では、斜面崩壊により多量の土砂や流木が洪水に流され、川が土砂や流木であふれ、多くの家屋が被害を受けた。そのため、斜面崩壊は今回の大雨による大きな災害の1つとなった。
 斜面崩壊の時間的と空間的変化を理解することは、災害のハザード評価とリスク管理、および効果的な防災に重要である。斜面崩壊に関連する時系列と長期間にわたる地盤変位測定により、斜面変動の履歴を調査し、効果的な緩和策を決定することができる。そこで、SAR衛星データを活用し、斜面被害が発生した地域の時系列解析を行い、地盤変動をモニタリングすることで、災害前の小さな地盤変動状況を検討する。このようにして、斜面崩壊が発生しやすい斜面が特定される。
 SAR衛星データを用いたInSAR(InterferometricSAR:干渉SAR)とは、2つの衛星データの位相差に基づいて変動量を推定する方法である。InSAR干渉解析に基づいて, PS-InSAR(Persistent Scatterer InSAR)とSBAS-InSAR(the small baseline subset InSAR)解析手法が提案され,小さな地盤変動をモニタリングするために用いられる時系列解析手法である。PSとSBASがInSAR解析の精度を効果的に向上させた。
 本研究は北九州豪雨災害を受けた福岡県の面積10km2の領域とする。2017年3月から2020年3月のALOS-2データに対して、PS-InSARとSBAS-InSARの解析を行った。斜面崩壊の典型的な特徴は、その変位が垂直方向と水平方向の両方に発生することであるが、InSAR干渉解析では、衛星視線(LOS)方向の1次元(1-D)変位しか測定できなかった。また、衛星観測方法の特性上,衛星データには観測不可能な領域が存在する。しかしながら、異なる軌道、観測方向と観測角度の衛星データによって解析可能地域が増えることを考えられる。そのために、ALOS-2の解析結果を分析の上で、本研究では、Sentinel-1の衛星データによる解析を実施し、斜面崩壊に伴う地表変化のモニタリングを行う。