日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2023年5月25日(木) 15:30 〜 17:00 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、内田 太郎(筑波大学)、西井 稜子(新潟大学)、座長:内田 太郎(筑波大学)、西井 稜子(新潟大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)

16:35 〜 16:55

[HDS10-10] 私の地すべり研究:これまでとこれから

★招待講演

*小嶋 智1 (1.岐阜大学工学部社会基盤工学科)

キーワード:地すべり、地質、山体重力変形地形

私は2023年3月をもって岐阜大学を定年退職する.これを機に,私の地すべり(広義)研究のこれまでとこれからについて述べたい.
地すべりと地質の関係:地すべりは斜面があればどこでも発生するわけではない.地すべりの発生場所を決める重要な素因のひとつに地質がある.紀伊半島東部の秩父帯の地すべりは,その大部分が北斜面で発生している.これは秩父帯を構成するジュラ紀付加体が,北傾斜の地質構造を持ち,多くの地すべりが流れ盤で発生しているためである.また,ジュラ紀付加体を構成する地層の中には,硬いチャート中にすべりやすい古生代・中生代境界の黒色頁岩が挟まれている場合や,付加時に形成されたユニット境界断層がみられるが,これらも北傾斜である.付加体特有の地質構造が地すべり発生場を規定している.
地すべりと地震の関係:富山市南部の桐谷・小井波は,地すべりによって形成された天然ダムが河川をせき止め,その結果できたダム湖が埋め立てられてできた山間盆地である.せきとめ湖堆積物中の根株や地すべり移動体中の木片の14C年代は約2500年前に集中し,この頃に本地域の地すべりの誘引が発生したことを示唆する.この誘引はトレンチ調査では検出できなかった跡津川断層の飛越地震(1858)のひとつ前のイベントである可能性が高い.
地すべりと山体重力変形地形(DSGSD)の関係:近年の航空レーザ測量技術の進歩によって,植生の発達した低山にも多数の大規模DSGSDがあることが明らかになった.DSGSDは,現在,深層崩壊の前兆現象であると考えられている.しかし,奥美濃の岐阜福井県境稜線に分布する多くの大規模DSGSDの形成年代は約10,000年前に集中する.このことは,最終氷期後の湿潤温暖気候下で多数のDSGSDが形成され,その多くは崩壊に至ったにせよ,現在みられる大規模DSGSDはその崩れ残りであり,現在は安定していることを示唆している.
私が最後に取り組んだDSGSDの研究には,大規模深層崩壊の予知に利用するためには何が必要なのかなど,やり残したことが多くある.また,最終氷期に厚い氷河が発達した地域のDSGSDにも興味がある.退職後はこれまでのように研究はできないだろうが,今後はそんな問題にチャレンジしたい.