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[HDS10-P02] 津軽平野,中里川における令和4年8月前線大雨に伴う破堤堆積物
キーワード:破堤堆積物、令和4年8月大雨、中里川
中里川は青森県北津軽郡中泊町に位置する袴腰岳中腹を源流とし,津軽平野を西流して宮野沢川と合流する.流路長は10.5 km,流域面積は9.4 km2である.今回の災害の起因である大雨を降らせた前線は,2022年8月8日から13日にかけて華北から日本海を通って北日本へのび,停滞した.前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込み,大気の状態が非常に不安定となり大雨に至る.青森県では8日昼過ぎから雨が降り始まり,9日朝から昼過ぎにかけて,津軽を中心に激しい雨が降った.8月8日13時から13日14時までの総雨量に関して,中里川近辺の観測点では,五所川原市市浦では361 mm,五所川原では246.5 mmであった.中里川に設定されている氾濫注意水位は4.6 mT.P.であるが,今回観測された最大水位は8月9日18時に観測された5.75 mT.P.であり,氾濫注意水位を大幅に超過していることが分かる.しかしながら,破堤したのは8月10日4時頃であり,河川水位も4.27 mT.P.まで低下していた.すなわち,今回の中里川の破堤は越水していないことから,河川水が浸透し,川裏の法面が崩壊した浸透破堤と考えられる.浸水した面積は約100 haであり,人家への浸水はなく主に田畑が浸水した.今回の中里川の破堤幅は約30 mである.破堤箇所にはクレバス・スプレーが形成され,押堀とクレバス・チャネルの侵食地形と押堀から放射状に広がる3条の舌状に伸びる高まり(ローブ)が認められた.8月21日,27日,28日に,このローブを形成する破堤堆積物について層序や堆積構造などの観察・記載を行ったので,それについて報告する.
図は9月9日にUAVによる空中写真撮影を879枚撮影し,SfM多視点ステレオ写真測量によって作成したオルソ画像である.図に示したように押堀から放射状に伸びるローブ上に東側からA~Cの3測線を設定した.各測線上では4~5 m間隔で幅1 m × 1 m,深さ80㎝程度のピットをシャベルおよびポストホールディガーを用いて掘削し,その壁面において堆積物の層相観察・記載を行った.なお,掘削中に地下水が湧出してきた場合には,水中ポンプで排水作業を行いながら掘削および観察を行った.層相観察の結果,下位から中礫混じりの粗粒砂層(ユニット1),青灰色の細~中粒砂層(ユニット2),淡褐色の泥混じりの中~粗粒砂層(ユニット3),淡黄色の中粒砂層(ユニット4)に区分され,これらが耕作土を覆っている.ユニット1は多量の現世の植物片を含む中礫混じりの粗粒砂であり,人工堤防の法面を構成するものと極めて良く似ている.また,ユニット1は耕作土を直接覆うこと,その分布が押堀から約15m以内に限定されることから,河川水位の上昇に伴って堤防内に浸透してきた河川水によって川裏の法面が崩壊し,一部は洗掘して押堀を形成するとともに,その周辺に堆積したものと考えられる.ユニット2は比較的淘汰の良い細粒砂であり,青灰色を呈することから,嫌気環境で堆積していたことを示唆する.中里川は通常は低水位で流れも遅く,河床の堆砂が進行しているらしい.このことから,ユニット2の堆積物は,河床に停滞していた砂が破堤に伴って流出したものと考えられる.また,堤防と直交するB測線ではユニット2の上にユニット1が認められるピットが存在する.ユニット3は波状の平行層理が発達する泥混じりの中~粗粒砂層,トラクションカーペット(多重逆級化層)を特徴とする.これらは多量の粒子を含んだ高濃度の流れから堆積したと考えられる.洪水で運ばれたウォッシュロード,浮遊砂,掃流砂が高水流領域の氾濫流でもたらされたものと考えられる.ユニット3の最上位にはマッドドレイプが形成されており,破堤箇所の応急締切によって,氾濫流は一旦,停滞したことを示唆する.ユニット4は,フォーセット面を示すトラフ型斜交葉理が発達する淘汰の良い中粒砂層であり,ローブの平坦面に薄く分布するが,場所によってはユニット3の境界に侵食面が認められ,ローブ上に形成されたチャネルを40 cm以上埋積している.8月10日の破堤後,8月12日7時には4.57 mT.P.まで水位が上昇した.ユニット4は,ユニット3の形成後,流速がやや遅くなった氾濫水によって形成されたことを示唆する.
図は9月9日にUAVによる空中写真撮影を879枚撮影し,SfM多視点ステレオ写真測量によって作成したオルソ画像である.図に示したように押堀から放射状に伸びるローブ上に東側からA~Cの3測線を設定した.各測線上では4~5 m間隔で幅1 m × 1 m,深さ80㎝程度のピットをシャベルおよびポストホールディガーを用いて掘削し,その壁面において堆積物の層相観察・記載を行った.なお,掘削中に地下水が湧出してきた場合には,水中ポンプで排水作業を行いながら掘削および観察を行った.層相観察の結果,下位から中礫混じりの粗粒砂層(ユニット1),青灰色の細~中粒砂層(ユニット2),淡褐色の泥混じりの中~粗粒砂層(ユニット3),淡黄色の中粒砂層(ユニット4)に区分され,これらが耕作土を覆っている.ユニット1は多量の現世の植物片を含む中礫混じりの粗粒砂であり,人工堤防の法面を構成するものと極めて良く似ている.また,ユニット1は耕作土を直接覆うこと,その分布が押堀から約15m以内に限定されることから,河川水位の上昇に伴って堤防内に浸透してきた河川水によって川裏の法面が崩壊し,一部は洗掘して押堀を形成するとともに,その周辺に堆積したものと考えられる.ユニット2は比較的淘汰の良い細粒砂であり,青灰色を呈することから,嫌気環境で堆積していたことを示唆する.中里川は通常は低水位で流れも遅く,河床の堆砂が進行しているらしい.このことから,ユニット2の堆積物は,河床に停滞していた砂が破堤に伴って流出したものと考えられる.また,堤防と直交するB測線ではユニット2の上にユニット1が認められるピットが存在する.ユニット3は波状の平行層理が発達する泥混じりの中~粗粒砂層,トラクションカーペット(多重逆級化層)を特徴とする.これらは多量の粒子を含んだ高濃度の流れから堆積したと考えられる.洪水で運ばれたウォッシュロード,浮遊砂,掃流砂が高水流領域の氾濫流でもたらされたものと考えられる.ユニット3の最上位にはマッドドレイプが形成されており,破堤箇所の応急締切によって,氾濫流は一旦,停滞したことを示唆する.ユニット4は,フォーセット面を示すトラフ型斜交葉理が発達する淘汰の良い中粒砂層であり,ローブの平坦面に薄く分布するが,場所によってはユニット3の境界に侵食面が認められ,ローブ上に形成されたチャネルを40 cm以上埋積している.8月10日の破堤後,8月12日7時には4.57 mT.P.まで水位が上昇した.ユニット4は,ユニット3の形成後,流速がやや遅くなった氾濫水によって形成されたことを示唆する.