15:30 〜 17:00
[HDS10-P03] 未崩落盛土のボーリングコアを用いた熱海土石流の研究
キーワード:土石流、盛土
2021年7月3日に,静岡県熱海市の逢初川源頭部の盛土が崩壊して発生した土石流は,死者28人,全・半壊家屋64棟の被害を出した.これを踏まえ国土交通省は全国の盛土を調査し,約36,000箇所の要点検箇所を報告した.さらに,政府は2022年5月に「盛土規制法」を公布し,その第四条(基礎調査)に「(略),宅地造成,特定盛土等又は土石の堆積に伴う崖崩れ又は土砂の流出のおそれがある土地に関する地形,地質の状況その他主務省令で定める事項に関する調査を行うものとする。」とした.だが,地形・地質の状況を評価する具体的基準は示していない.伊豆周辺で2021年7月1日からの大雨で崩壊した盛土は逢初川源頭部の盛土のみである.これは,この盛土の災害危険性が最大であったことを示しており,その崩壊原因の究明から「盛土規制法」の実効性の確保と「既存の盛土の災害危険性の評価基準」の策定に必須の情報を得れる.そこで,著者らは逢初川源頭部の未崩落の盛土で静岡県が行ったボーリングコア試料を調査したので報告する.
静岡県は2021年8月下旬に未崩落の盛土とその周辺の5カ所でボーリングコアを掘削し,今回調査したコアはそのうちの3本(No. 3,4,5コア)である.堆積相を記載し,0.4–0.5 mの間隔で堆積物を採取した.粒度分析は,-4φから5φの粒子について目開き0.5φごとにふるいで水洗し,残渣の乾燥重量を測定した.5φ以下の粒径を5.5φとして,試料の算術平均粒径と標準偏差を算出した.
No. 3コアは主に含礫泥質砂からなるが,深度9.00–9.04 m,8.46–8.65 m,5.00–5.08 m,3.23–3.34 mには淘汰の良い砂層があり,それらの平均粒径・標準偏差・含泥率は,0.37–1.68φ,1.34–2.25φ,3.0–11.4%で,一峰性を示す.直下の堆積物に比べ,平均粒径は若干大きく,標準偏差は0.2–0.5φ小さくなり,含泥率は38–58%減少する.
No. 4コアも主に含礫泥質砂からなるが,深度10.80–10.57 mと4.72–4.60 mに淘汰の良い砂層と礫層の互層がある.砂層の平均粒径,・準偏差・含泥率は0.6-1.9φ,1.2-2.8φ,1.8–8.5%で,粒度組成は一峰性を示す.
No. 5コアは塊状の含礫泥質砂~砂質泥層からなり,平均粒径・標準偏差・含泥率の範囲は2.5–3.5φ,2.4–3.3φ,33.8–54.6%で,他の未崩落の盛土よりも細粒で,淘汰の良い砂層は見られない.
No. 4コアはNo. 3コアよりも9.6 m海側に位置するので,淘汰の良い砂層は水平方向に9.6 m連続する可能性がある.また,No. 4コアでは砂層に随伴した礫層があることから,海側に向かうと粗粒化する可能性がある.
既に,北村ほか(2022; 静大地研報, 49, 61–72)が盛土最下端の未崩落の盛土から,中礫サイズの亜円礫層(層厚0.4 m)を確認し,礫間の砂質堆積物の含泥率は10%程度であることを報告している.これに加え,本調査で淘汰の良い砂層も確認され,このような層は逢初川源頭部の盛土内に5層以上存在することが分かった.
新藤(1993; 第四紀研究, 32, 315–322)によると,透水性の異なる地層の境界には,斜面地中水が集中し,斜面物質を排出することにより, パイプなどの大間隙の発達をもたらす.No. 3,4コアの淘汰の良い砂層は含泥率が低く,直上直下の堆積物と比べ高い透水性を有するので,斜面地中水により部分的に大間隙が形成される可能性がある.静岡県は2019年に「盛土下端部の小段で小崩落」を報告しており,これは亜円礫層や淘汰の良い砂層と同様の高透水性層に作られた空洞による可能性は十分ある.
北村(2023; 環境と測定技術, 50, 33–42)は,土石流の発生過程について,「2012年頃までに盛土は崩壊前の規模になっており,その後の10年間に,盛土内に空洞や崩落土砂体が形成され,盛土内への地下水・地表水の供給速度が増加していった.そして,2021年7月1日~3日の豪雨で,高透水性層に地下水が集中し,排水システムの許容量超過による間隙水圧の上昇で盛土が崩壊し,土石流が発生した.この盛土崩壊で高透水性層が遮断され,新たな間隙水圧上昇が起き,再び盛土崩壊で土石流が発生することが繰り返された」と推定している.したがって,静岡県の報告した「盛土の小崩落」は盛土全体の崩壊の前兆現象であり,また盛土内における高透水性層の有無が既存の盛土の安全性の評価指標になる.
静岡県は2021年8月下旬に未崩落の盛土とその周辺の5カ所でボーリングコアを掘削し,今回調査したコアはそのうちの3本(No. 3,4,5コア)である.堆積相を記載し,0.4–0.5 mの間隔で堆積物を採取した.粒度分析は,-4φから5φの粒子について目開き0.5φごとにふるいで水洗し,残渣の乾燥重量を測定した.5φ以下の粒径を5.5φとして,試料の算術平均粒径と標準偏差を算出した.
No. 3コアは主に含礫泥質砂からなるが,深度9.00–9.04 m,8.46–8.65 m,5.00–5.08 m,3.23–3.34 mには淘汰の良い砂層があり,それらの平均粒径・標準偏差・含泥率は,0.37–1.68φ,1.34–2.25φ,3.0–11.4%で,一峰性を示す.直下の堆積物に比べ,平均粒径は若干大きく,標準偏差は0.2–0.5φ小さくなり,含泥率は38–58%減少する.
No. 4コアも主に含礫泥質砂からなるが,深度10.80–10.57 mと4.72–4.60 mに淘汰の良い砂層と礫層の互層がある.砂層の平均粒径,・準偏差・含泥率は0.6-1.9φ,1.2-2.8φ,1.8–8.5%で,粒度組成は一峰性を示す.
No. 5コアは塊状の含礫泥質砂~砂質泥層からなり,平均粒径・標準偏差・含泥率の範囲は2.5–3.5φ,2.4–3.3φ,33.8–54.6%で,他の未崩落の盛土よりも細粒で,淘汰の良い砂層は見られない.
No. 4コアはNo. 3コアよりも9.6 m海側に位置するので,淘汰の良い砂層は水平方向に9.6 m連続する可能性がある.また,No. 4コアでは砂層に随伴した礫層があることから,海側に向かうと粗粒化する可能性がある.
既に,北村ほか(2022; 静大地研報, 49, 61–72)が盛土最下端の未崩落の盛土から,中礫サイズの亜円礫層(層厚0.4 m)を確認し,礫間の砂質堆積物の含泥率は10%程度であることを報告している.これに加え,本調査で淘汰の良い砂層も確認され,このような層は逢初川源頭部の盛土内に5層以上存在することが分かった.
新藤(1993; 第四紀研究, 32, 315–322)によると,透水性の異なる地層の境界には,斜面地中水が集中し,斜面物質を排出することにより, パイプなどの大間隙の発達をもたらす.No. 3,4コアの淘汰の良い砂層は含泥率が低く,直上直下の堆積物と比べ高い透水性を有するので,斜面地中水により部分的に大間隙が形成される可能性がある.静岡県は2019年に「盛土下端部の小段で小崩落」を報告しており,これは亜円礫層や淘汰の良い砂層と同様の高透水性層に作られた空洞による可能性は十分ある.
北村(2023; 環境と測定技術, 50, 33–42)は,土石流の発生過程について,「2012年頃までに盛土は崩壊前の規模になっており,その後の10年間に,盛土内に空洞や崩落土砂体が形成され,盛土内への地下水・地表水の供給速度が増加していった.そして,2021年7月1日~3日の豪雨で,高透水性層に地下水が集中し,排水システムの許容量超過による間隙水圧の上昇で盛土が崩壊し,土石流が発生した.この盛土崩壊で高透水性層が遮断され,新たな間隙水圧上昇が起き,再び盛土崩壊で土石流が発生することが繰り返された」と推定している.したがって,静岡県の報告した「盛土の小崩落」は盛土全体の崩壊の前兆現象であり,また盛土内における高透水性層の有無が既存の盛土の安全性の評価指標になる.