15:30 〜 17:00
[HDS10-P05] 空中電磁探査等を用いた紀伊山地における深層崩壊発生危険度評価手法の信頼性の向上に向けた検討
キーワード:深層崩壊、ヘリコプター空中電磁探査、ドローン空中電磁探査、電気探査、断層、地下水
著者らは、2011年台風第12号で深層崩壊が発生した和歌山県田辺市の熊野地区の斜面において、ヘリコプターによる空中電磁探査やドローンによる2時期の空中電磁探査、電気探査を行い、深層崩壊メカニズムに支配的な地盤内部状況を調査した。この結果、断層を通って周辺から地下水が斜面に集まっていた可能性や、断層による斜面内での地下水の堰き止めが崩壊原因の一つになった可能性があることが分かった。また、今後深層崩壊が発生しそうな斜面の抽出を目的として、空中電磁探査や、電気探査等の物理探査技術を活用して、紀伊山地の広いエリアで多数存在する岩盤クリープ斜面の中から特に崩壊危険性が高い斜面の抽出手法についてこれまで検討してきた。本研究では、これまで検討してきた深層崩壊危険度評価手法の信頼性の向上を目的として、ヘリコプターによる広域の空中電磁探査、ドローンによる空中電磁探査、地上電気探査の成果から斜面内部構造の調査への適用性について検討した。
国土交通省では、2011年の災害直後から奈良県南部や和歌山県で定期的にレーザプロファイラによって詳細な斜面地形データを取得している。また、2012年~2014年にかけて、ヘリコプターによる空中電磁探査を実施している。レーザプロファイラを実施し、かつ空中電磁探査を実施した奈良県内の約280km2の範囲において、これまで検討してきた以下の手法に基づいて深層崩壊の恐れのある斜面を抽出した。
①レーザプロファイラによる地形図と航空写真を基に、上部尾根線付近に線状凹地や二重山稜などの変形が見られる斜面を抽出した。
②変形が生じている斜面の中心付近に測線を設定し、その測線に沿ったヘリコプターによる空中電磁探査の結果を基にした比抵抗縦断面図を作成した。
③①・②の結果を基に、変形が生じている斜面をリスクレベル1~3に分類した。レベル1は、ひずみ率が5%以上とした。レベル2は、レベル1の条件を満たし、かつ、すべり面と考えられる等比抵抗線の集中帯が斜面方向に存在していることを条件とした。レベル3は、レベル2の条件を満たし、かつ、斜面を横断する断層破砕帯と考えられる等比抵抗線集中帯が鉛直方向に存在することを条件とした。上記の手法によって検討した結果、レベル3の箇所は14斜面となった。
14斜面のうち、地上からのアクセスを考慮し、奈良県吉野郡天川村の栃尾地区の岩盤クリープ斜面で調査を実施した。対象斜面の大きさは約14.7haで、ひずみ率は約5.5%である。栃尾地区の斜面のヘリコプターによる空中電磁探査の比抵抗縦断図からは、重力変形が見られ、かつすべり面と見られる斜面方向の等比抵抗線集中帯が存在し、斜面を横断する断層とみられる鉛直方向の等比抵抗線集中帯が2箇所見られた。
断層による地下水への影響を確認する目的で、栃尾地区においてドローン空中電磁探査を2021年10月期(10月22日測定、28日先行累積雨量23.5mm 、90日先行累積雨量596mm)、2021年12月期(12月9日測定、28日先行累積雨量119mm 、90日先行累積雨量293mm)、2022年9月期(9月7日測定、28日先行累積雨量143.5mm 、90日先行累積雨量480.5mm)の3時期で実施した。3時期のうちの2時期の組み合わせ毎に比抵抗変化率を算出し、斜面内部構造の調査への適用性について検証した。斜面上部の等比抵抗線集中帯には、出水期(2021年10月期、2022年9月期)に低比抵抗化しており、地下水が流入、もしくは溜まったと考えられる。斜面下部の等比抵抗線集中帯は、上部ほど低比抵抗化しておらず、上部ほどは地下水が流入せず、継続的にも溜まる傾向にはないエリアと考えられる。また、28日先行累積雨量の多い2022年9月期と2021年12月期の比抵抗変化率は、2021年10月期と2021年12月期の比抵抗変化率と比較して、比抵抗が低くなる箇所が表層付近まで確認でき、直近の降雨による地下水分布への影響が表現されていると考えられる。
次に、ドローンによる空中電磁探査と同じ測線において、電気探査を2021年12月期(12月15日測定、28日先行累積雨量119mm 、90日先行累積雨量269.5mm) 、2022年9月期(9月13日測定、28日先行累積雨量159.5mm 、90日先行累積雨量460mm)の2時期で実施した。両時期ともに斜面上部と末端に低比抵抗部分が確認された。また、2時期の比抵抗変化について9月期比抵抗を12月期比抵抗で除した値として表したところ、斜面上部内部に出水期の比抵抗が低くなる箇所が確認でき、地下水が流入、もしくは溜まったと考えられる。
以上のように、物理探査により、断層が地下水の挙動に及ぼす影響を可視化することができるため、斜面内部の構造調査への適用性が高いことが分かった。また、出水期と非出水期において先行累積雨量の異なる2時期のデータを活用することにより、降雨後の斜面内部の地下水分布状況を推定できると考えられる。
国土交通省では、2011年の災害直後から奈良県南部や和歌山県で定期的にレーザプロファイラによって詳細な斜面地形データを取得している。また、2012年~2014年にかけて、ヘリコプターによる空中電磁探査を実施している。レーザプロファイラを実施し、かつ空中電磁探査を実施した奈良県内の約280km2の範囲において、これまで検討してきた以下の手法に基づいて深層崩壊の恐れのある斜面を抽出した。
①レーザプロファイラによる地形図と航空写真を基に、上部尾根線付近に線状凹地や二重山稜などの変形が見られる斜面を抽出した。
②変形が生じている斜面の中心付近に測線を設定し、その測線に沿ったヘリコプターによる空中電磁探査の結果を基にした比抵抗縦断面図を作成した。
③①・②の結果を基に、変形が生じている斜面をリスクレベル1~3に分類した。レベル1は、ひずみ率が5%以上とした。レベル2は、レベル1の条件を満たし、かつ、すべり面と考えられる等比抵抗線の集中帯が斜面方向に存在していることを条件とした。レベル3は、レベル2の条件を満たし、かつ、斜面を横断する断層破砕帯と考えられる等比抵抗線集中帯が鉛直方向に存在することを条件とした。上記の手法によって検討した結果、レベル3の箇所は14斜面となった。
14斜面のうち、地上からのアクセスを考慮し、奈良県吉野郡天川村の栃尾地区の岩盤クリープ斜面で調査を実施した。対象斜面の大きさは約14.7haで、ひずみ率は約5.5%である。栃尾地区の斜面のヘリコプターによる空中電磁探査の比抵抗縦断図からは、重力変形が見られ、かつすべり面と見られる斜面方向の等比抵抗線集中帯が存在し、斜面を横断する断層とみられる鉛直方向の等比抵抗線集中帯が2箇所見られた。
断層による地下水への影響を確認する目的で、栃尾地区においてドローン空中電磁探査を2021年10月期(10月22日測定、28日先行累積雨量23.5mm 、90日先行累積雨量596mm)、2021年12月期(12月9日測定、28日先行累積雨量119mm 、90日先行累積雨量293mm)、2022年9月期(9月7日測定、28日先行累積雨量143.5mm 、90日先行累積雨量480.5mm)の3時期で実施した。3時期のうちの2時期の組み合わせ毎に比抵抗変化率を算出し、斜面内部構造の調査への適用性について検証した。斜面上部の等比抵抗線集中帯には、出水期(2021年10月期、2022年9月期)に低比抵抗化しており、地下水が流入、もしくは溜まったと考えられる。斜面下部の等比抵抗線集中帯は、上部ほど低比抵抗化しておらず、上部ほどは地下水が流入せず、継続的にも溜まる傾向にはないエリアと考えられる。また、28日先行累積雨量の多い2022年9月期と2021年12月期の比抵抗変化率は、2021年10月期と2021年12月期の比抵抗変化率と比較して、比抵抗が低くなる箇所が表層付近まで確認でき、直近の降雨による地下水分布への影響が表現されていると考えられる。
次に、ドローンによる空中電磁探査と同じ測線において、電気探査を2021年12月期(12月15日測定、28日先行累積雨量119mm 、90日先行累積雨量269.5mm) 、2022年9月期(9月13日測定、28日先行累積雨量159.5mm 、90日先行累積雨量460mm)の2時期で実施した。両時期ともに斜面上部と末端に低比抵抗部分が確認された。また、2時期の比抵抗変化について9月期比抵抗を12月期比抵抗で除した値として表したところ、斜面上部内部に出水期の比抵抗が低くなる箇所が確認でき、地下水が流入、もしくは溜まったと考えられる。
以上のように、物理探査により、断層が地下水の挙動に及ぼす影響を可視化することができるため、斜面内部の構造調査への適用性が高いことが分かった。また、出水期と非出水期において先行累積雨量の異なる2時期のデータを活用することにより、降雨後の斜面内部の地下水分布状況を推定できると考えられる。