日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS10] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2023年5月26日(金) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (8) (オンラインポスター)

コンビーナ:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、内田 太郎(筑波大学)、西井 稜子(新潟大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[HDS10-P08] 航空レーザー測量データを用いた斜面崩壊深の規定要因の検討

*工藤 優葵1内田 太郎2、對馬 美沙2 (1.筑波大学大学院理工情報生命学術院生命地球科学研究群環境科学学位プログラム博士前期課程、2.筑波大学)


近年の雨の激甚化に伴い、甚大な土砂災害被害が増えている。とくに斜面崩壊による生産土砂は人々の生活圏に被害を及ぼす可能性があり、また、崩壊土砂が斜面に残留することにより、二次的な土石流等の災害が発生する可能性もある。生産された土砂量の把握・予測は対策立案(ハザードマップ作成、施設整備、2次災害の防止)のために最も基本的で重要な要素の一つである。
従来より広く用いられている写真測量は崩壊地の面積は精度よく計測できる一方で、崩壊深や崩壊土砂量を正確に推測することは困難であった。これに対して、レーザー測量技術の発達により災害前後の地形の比較が可能になり、崩壊面積のみならず崩壊深、崩壊土砂量の正確な推定が可能になってきた。
従来から、崩壊土砂量は崩壊面積に応じて、指数関数的に大きくなることが多くの事例で示されてきた(例えばLarsenら、2010)。一方で、崩壊深は崩壊面積に応じた増加傾向がみられるものの、その値にはばらつきが存在しており、崩壊深の規定要因については十分に明らかになったとは言い難い(例えば秋田ら、2023)。そこで本研究では、航空レーザー測量データを用いて、災害前斜面の地形が斜面崩壊深に及ぼす影響について検討および考察を行った。
研究対象地は新潟県南魚沼市に位置する登川流域とした。数値標高モデル(以下DEM)は国土交通省北陸地方整備局湯沢砂防事務所によって作成されたものを用いた。計測期間は、災害前のものが2009年10月から12月、2010年7月から12月、災害後のものは2011年8月から9月 であった(航空レーザー測量データポータルサイト)。地質図は産業総合研究所によって作成された、20万分の一シームレス地質図を用いた。
崩壊地の判読はArcGIS Pro(ver.3.0.3)、解析はExcelおよびPythonを用いた。まず、空中写真と1 mメッシュのDEMを用いて作成したCS立体図(戸田、2014)、1 m間隔の等高線、差分図、から崩壊地を判読した。本研究では斜面崩壊の崩壊発生域のみに着目するために、空中写真等から土砂が堆積したと考えられる範囲は崩壊地ポリゴンに含めなかった。また、判読した崩壊地から火成岩を基岩とし、新規に発生した崩壊であること、集水面積が10000 m²以下の斜面に存在することを条件に解析対象を抽出した。
次に崩壊地の分類には災害前斜面の傾斜角度および断面曲率を用いた。崩壊地内の平均傾斜角度θを計算し、0°≦θ<30°、30°≦θ<35°、35°≦θ<40°、40°≦θ<60°ごとに崩壊地を分類した。次に崩壊地内の平均断面曲率Kを計算し、K<-0.5、-0.5≦K≦0.5、0.5 崩壊地の崩壊深を評価する指標は、各崩壊地の崩壊深を昇順に並べ、90 %値、平均値、20 %値を算出した値を用いた。
解析は147箇所の判読した崩壊地で行った。全崩壊地の平均崩壊深は2.14 m、平均崩壊面積は273.00 m²であった。崩壊面積200 m²以下の崩壊地が全体約6割を占める。平均傾斜角度別にみると、30°≦θ<35°に属する崩壊地の崩壊面積が415.46 m²、平均崩壊深が2.69 mでそれぞれ最大の値を示した。平均断面曲率別にみると、-0.5≦K≦0.5に属する崩壊地の崩壊面積が399.56 m²、平均崩壊深が2.39 mでそれぞれ最大の値を示した。
 次に、崩壊地のデータに対して近似式D=mA^n(秋田ら、2023)へのフィッティングを行い、パラメータnを用いた評価を行った。ここでDは平均崩壊深(m)、Aは崩壊面積(m²)、m、nはパラメータである。その結果、30°≦θ<35°、0.5 結果より、崩壊面積、崩壊深ともに災害前斜面の地形によって傾向が異なることが明らかになった。したがって、傾斜角度および断面曲率はともに崩壊深の規定に影響を及ぼす要因であると示唆された。

Larsen, I.J.・ D.R. Montgomery ・ O. Korup、Landslide erosion controlled by hillslope material、Nature Geoscience、2010
秋田寛己・若月強、崩壊生産土砂量推定式のパラメータ α 値・γ 値に及ぼす崩壊深や地質の影響 -2014年8月豪雨で発生した丹波地域と広島地域の土砂災害の事例-、砂防学会誌 vol.75 No.5、p2-14、2023
戸田堅一郎、曲率と傾斜による立体図法(CS立体図)を用いた地形判読、森林立地56(2)、p.75-79、2014