日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境に関する地球科学と社会科学の対話

2023年5月22日(月) 09:00 〜 10:15 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、古市 剛久(森林総合研究所)、佐々木 達(法政大学)、座長:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)

10:00 〜 10:15

[HGG01-05] 途上国における山地減災・防災での自然を基盤とした解決策と国際機関プロジェクトへの日本の参画における課題

*瀧永 佐知子1、トマ コシェール1古市 剛久2,3、稲田 徹1 (1.アジア航測株式会社、2.森林総合研究所、3.サンシャインコースト大学)

キーワード:気候変動、自然災害、減災・防災、国際協力

1.はじめに
近年、開発途上国では経済の発展とともに山岳地域や沿岸域における森林から農地への土地転換等の土地利用改変が進んでおり、その影響が気候変動に伴う極端現象の頻発化及び強化と相まって山地災害をより頻発化,激甚化させている可能性が指摘されている。我が国では山地地域において、森林生態系の持つ減災機能を活用した斜面崩壊リスクの削減,すなわち治山技術を蓄積してきた歴史があり,その技術を二国間ベースでの途上国援助において活用する取り組みもなされてきた.一方,日本は持続的な開発や気候変動対策へ向けた国際的な取り組みに対して多額の資金を拠出してきたが,国際資金プロジェクトでも治山技術を適用する試みを積極的に行ってきたのか,治山技術を蓄積してきた日本企業は国際資金プロジェクトに積極的に関わってきたのかなどに関して現状が十分に把握されていないという指摘がある.そこで本調査では,資料調査を通じて日本政府の国際資金への拠出状況と国際資金プロジェクトの日本企業による落札割合を調べ,聞き取り調査を通じてその現状に関する要因を分析し,日本企業が国際機関案件へより参画していくための課題を考察した.

2.自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions:NbS)
近年,国際開発の舞台では,生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based Disaster Risk Reduction:Eco-DRR)や自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions:NbS)が注目されている。特に世界銀行は「気候変動へのレジリエンス強化へ向けた自然を基盤とした解決策(Nature-based Solutions for Climate Resilience)」 をテーマにしたプログラムを立ち上げて組織的な対応を強力に進めており,また,世界食糧機関(FAO)の森林部門でもNbSについては活発に議論されている状況にある.山地の緑化と補助的な構造物を組合わせ,中長期的な土地利用計画の下で実施されることを基本的なアプローチとする日本の治山技術は,世界銀行やFAOなどで進むこうした取り組みや議論への親和性がとても強いと考えられる.

3.調査結果
(1) 2016~2020年にかけて、調査の対象とした気候変動資金を持つ8機関のうち7機関ではいずれも日本の拠出額が開発援助委員会内で上位5か国以内であり、アジア開発銀行、緑の気候基金、地球環境ファシリティでは日本は拠出額第1位で世界銀行では第2位の拠出割合を占めている。
(2) 日本の民間企業の受注実績は世界銀行21位(2021)、アジア開発銀行31位(2021)であり,拠出額の規模に比べ受注額の割合は非常に少ない。
(3) 多国間資金の下で森林等自然生態系を活用した防災・減災(Forest-based Disaster Risk Reduction:F-DRR)に係るプロジェクト件数はわずかであり,その企画・実施は立ち遅れている.
(4)日本の民間コンサルティング企業の参入を困難としているのは、価格競争力、多様な国際的人材の不足、企業経営のグローバル化の遅れ、実績の不足等である。特に、中国やインド等、人件費コストを抑えられ技術力もある新興国が高い市場競争力を持っている。
(5)日本の民間製造企業の参入を困難としているのは、高品質ゆえの高コスト、開発途上国で必要とされている仕様や価格とのマッチング、海外での製造拠点づくりの初期投資、リスクの大きさである。

4.考察
調査から得られた結果は、特に国際機関の実施する事業に積極的に参加しようとする日本企業はまだ一部であり、案件へのアプローチ方法や調達面で流儀などが日本の二国間協力とは異なる面を多く持つ国際機関事業に対しての備えが未だ十分でないことを示している。国際金融機関,国連機関等の多くが気候変動対策予算を増大させており、将来的に、防災分野における自然を基盤とした解決策が世界的な潮流を受けて広がっており、この流れを活用し日本の本分野におけるプレゼンスを発揮するためには、政府、民間、学術機関等が一体となって取り組むことが不可欠である。政府においては、相手国政府との対話を通じF-DRR等の自然を基盤とした防災・減災の意義を打ち出し、メインストリーム化に貢献すること、民間企業においては、技術の積極的な発信、信頼できる海外現地企業や国際企業との良好な関係構築で競争力をあげること、学術機関においては、治山技術が持つ多様な機能について特に民間企業との情報交換や意見交換を深め,科学的知見の効果的な発信にも努めていくことが重要である。