10:45 〜 11:00
[HGG01-06] 採集林の成立環境とその変遷:沖縄県座間味島におけるヤマモモ林の事例
キーワード:採集林、採集活動、植物利用、ヤマモモ、座間味島
人間社会における自然資源を利用する活動は、生態系のなかで攪乱要因として作用し、地域の環境条件や攪乱強度に応じた多様な人為生態系(anthropogenic biomes)を世界各地で形成してきた。日本の人為生態系に関する研究では、刈敷や薪炭材の利用を通じて形成された里山や定期的な火入れで維持される草地などが主な研究対象とされてきた。他方、多くの地域では農業や漁業とともに植物の採集活動が行われており、果実などの採集の場として利用されてきた植生が存在する。このような、植物資源を採集するための植生を本研究では“採集林”と呼ぶ。採集林は、多くの地域で現在している可能性が高く、構成種はドングリ類やクリ、トチノキやヤマモモ、ソテツなど多様な種が存在するとみられる。このような植生は、地域によっては村誌や行政資料などに断片的に記載が認められるが、採集林という概念で包括的に検討した研究はなく、日本の植生地理学研究のなかではほとんど見落とされてきた。本研究では、採集林がどのような環境のもとで成立し、近年いかに変化しつつあるのかを検討するため、沖縄県座間味島にみられるヤマモモ林を採集林の一事例としてとりあげ、地域の人々とヤマモモとの関係やその変遷を明らかにする。
ヤマモモは、ヤマモモ科の常緑広葉樹で、南西諸島を含む西日本を中心に日本国内の広範囲に生育する。ヤマモモは、樹皮は茶色の染料として利用されるとともに、果実はホワイトリカーに漬けた果実酒やジャムの原料として用いられる、特に、熟れた実は甘く、生食も可能である。
調査地は沖縄島西部の慶良間諸島に位置する座間味島である。座間味島においても、ヤマモモの実の利用が昔から盛んであり、現在も結実の時期には島民が実を採集している。ヤマモモは島全体に点在しているが、特に、島の中央部に位置する山の山頂付近は、島民の間でヤマモモの生育地として広く認識され、採集の中心地となっている。本研究では、2022年3月から複数回現地でフィールドワークを実施し、島でヤマモモの実を利用している住民に対して聞き取り調査を実施した。
調査の結果、ヤマモモの採集場所となっている山は、もともとヤマモモが多く自生していたことに加え、行政が進めた植樹活動によってさらに数が増加してきたことが明らかとなった。植樹活動においてヤマモモの木を選定した理由については不明であるが、結果として多くのヤマモモの木が密に生育することとなり、住民の間ではヤマモモの採集地として知られるようになった。
ヤマモモの採集者は、結実状況や実の美味しさ(甘さ)を確認し、木までのアクセスのしやすさ、木の高さなども考慮しながら、具体的に採集する木を定めていた。また、採集林としてのヤマモモ林について、実の採集者は美味しい実をつける木が生育する場所を把握し、各自が優先的に実を採集する個別の木を認識していた。その際、果汁の多寡により、「イシモモ」「ミズモモ」というような区別をして木を認識する傾向が認められた。この点は、採集林が植生としての物理的な森林を意味するだけでなく、人々の認識としての採集林が採集者ごとに認識されている可能性が示唆された。
住民の話によると、島内のヤマモモの実の利用は衰退傾向にあるという。かつては多くの住民が、自家消費用に実を採集していたが、現在では採集する人の数は減っているという。他方、観光業に携わる飲食店の経営者のなかには、観光客向けに、ヤマモモのジャムを用いたデザートをメニューに導入している方もいた。また、座間味島では、2012年にヤマモモの果実酒「ざまみの山桃酒」が、座間味島の特産品として製造・販売されるようになり、その酒の原料として実の採集を実施するグループが作られた。「ざまみの山桃酒」は、座間味島内では、数軒ある売店のうち一軒のみで販売されている。当酒は、離島フェア2012年優良特産品優秀賞および産業まつり2012年特産品コンテスト県知事賞(最優秀賞)を受賞し、座間味島のヤマモモを広く宣伝する役割を果たしている。しかし、売り上げ状況により製造を控える年もあり、当酒の製造・販売に携わる島民たちにとって、製造・販売を継続するのか否か、継続する場合はどのように販売数を伸ばすのか、といったことが検討事項となっている。
ヤマモモは、ヤマモモ科の常緑広葉樹で、南西諸島を含む西日本を中心に日本国内の広範囲に生育する。ヤマモモは、樹皮は茶色の染料として利用されるとともに、果実はホワイトリカーに漬けた果実酒やジャムの原料として用いられる、特に、熟れた実は甘く、生食も可能である。
調査地は沖縄島西部の慶良間諸島に位置する座間味島である。座間味島においても、ヤマモモの実の利用が昔から盛んであり、現在も結実の時期には島民が実を採集している。ヤマモモは島全体に点在しているが、特に、島の中央部に位置する山の山頂付近は、島民の間でヤマモモの生育地として広く認識され、採集の中心地となっている。本研究では、2022年3月から複数回現地でフィールドワークを実施し、島でヤマモモの実を利用している住民に対して聞き取り調査を実施した。
調査の結果、ヤマモモの採集場所となっている山は、もともとヤマモモが多く自生していたことに加え、行政が進めた植樹活動によってさらに数が増加してきたことが明らかとなった。植樹活動においてヤマモモの木を選定した理由については不明であるが、結果として多くのヤマモモの木が密に生育することとなり、住民の間ではヤマモモの採集地として知られるようになった。
ヤマモモの採集者は、結実状況や実の美味しさ(甘さ)を確認し、木までのアクセスのしやすさ、木の高さなども考慮しながら、具体的に採集する木を定めていた。また、採集林としてのヤマモモ林について、実の採集者は美味しい実をつける木が生育する場所を把握し、各自が優先的に実を採集する個別の木を認識していた。その際、果汁の多寡により、「イシモモ」「ミズモモ」というような区別をして木を認識する傾向が認められた。この点は、採集林が植生としての物理的な森林を意味するだけでなく、人々の認識としての採集林が採集者ごとに認識されている可能性が示唆された。
住民の話によると、島内のヤマモモの実の利用は衰退傾向にあるという。かつては多くの住民が、自家消費用に実を採集していたが、現在では採集する人の数は減っているという。他方、観光業に携わる飲食店の経営者のなかには、観光客向けに、ヤマモモのジャムを用いたデザートをメニューに導入している方もいた。また、座間味島では、2012年にヤマモモの果実酒「ざまみの山桃酒」が、座間味島の特産品として製造・販売されるようになり、その酒の原料として実の採集を実施するグループが作られた。「ざまみの山桃酒」は、座間味島内では、数軒ある売店のうち一軒のみで販売されている。当酒は、離島フェア2012年優良特産品優秀賞および産業まつり2012年特産品コンテスト県知事賞(最優秀賞)を受賞し、座間味島のヤマモモを広く宣伝する役割を果たしている。しかし、売り上げ状況により製造を控える年もあり、当酒の製造・販売に携わる島民たちにとって、製造・販売を継続するのか否か、継続する場合はどのように販売数を伸ばすのか、といったことが検討事項となっている。