日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM02] 地形

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、岩橋 純子(国土地理院)、Parkner Thomas(University of Tsukuba, Graduate School of Life and Environmental Sciences)、高波 紳太郎(明治大学)、座長:岩橋 純子(国土地理院)、高波 紳太郎(明治大学)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)


09:45 〜 10:00

[HGM02-04] 近畿・中国・四国地方のリアス海岸の成因について

*深畑 幸俊1森 祐太朗2 (1.京都大学防災研究所、2.京都大学理学研究科)

キーワード:地形発達、リアス海岸、スラブ形状、変位の食い違いモデル、西日本

昨年の連合大会の本セッションで発表(深畑・森,2022)したように,沈み込み帯のdislocation modelに基づき,地殻の変形運動は沈み込むスラブの形状と密接な関係があることが理論的に予想され,観測とも整合である.即ち,海溝軸が島弧側に向かって凸に屈曲しているところ(例えば,千島海溝と日本海溝の接合部)や,スラブが尾根状に沈み込むところ(例えば,伊勢湾)では沈降が生じ,逆にスラブが谷状に沈み込むところ(例えば,紀伊山地)では隆起が生じる.
 ところで,海洋プレートは沈み込みに際して,その深さコンターが海溝軸とほぼ平行になるのが普通である.例えば,日本列島周辺を見ても,千島弧,東北日本弧,伊豆弧,琉球弧のいずれもほぼ平行になっている.そのような中で,西日本弧の下に沈み込むフィリピン海プレートは例外である.フィリピン海スラブは,伊勢湾〜若狭湾の下で明瞭な尾根を持つなど島弧走向方向に大きく変形している.その変形の重要な特徴は,沈み込む前はほぼ無変形である一方,沈み込みが進行するにつれて変形が大きくなることである.そういった特徴から,Fukahata (2019, PEPS)は,フィリピン海スラブの特異な変形は,鮮新世の末頃(約3Ma)に始まった日本列島の東西圧縮に起因することを主張した.
 鮮新世の西日本では、瀬戸内海の沈降域(中央低地帯)が濃尾平野の東まで広がっていたことが知られている。濃尾平野周辺では東海層群が、伊賀や滋賀県南部では古琵琶湖層群が、奈良・京都盆地から大阪湾に至る地域では大阪層群が堆積していた。それらの堆積物は一般に湖成あるいは河成であり、堆積が海域ではなく淡水環境下で生じたことを示している。即ち,これら内陸の低地帯は四国山地や紀伊山地が一続きとなった外帯山地により,かつては太平洋と隔てられていたと考えられる.
 前述のように,約3Maから日本列島は強い東西短縮場になった.そのことに起因して,西日本の大地形は以下のように発達したと考えられる.
 まず,内帯では東西短縮の直接的な影響として,逆断層運動による比較的短波長の山地と盆地が形成された(例えば,生駒山地,奈良盆地など).一方,フィリピン海スラブの起伏が増加することにより,尾根状のスラブ形状が発達した伊勢湾,紀伊水道,豊後水道では沈降が生じ,その間に位置する紀伊山地や四国山地では,谷状あるいはそれに類似したスラブ形状のためにこれまでよりも激しく隆起することとなった.志摩半島,阿南,宇和島などではリアス海岸が発達しているが,それらはほぼ一直線上に並び,かつての外帯山地が沈降したことによって形成されたと考えられる.また,若狭湾と広島湾はそれぞれ伊勢湾と豊後水道下にあるスラブ尾根の延長上に位置し,そこでも顕著な沈降が生じた.そして,舞鶴や呉などの良港を抱くに至ったのである.