日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM02] 地形

2023年5月25日(木) 09:00 〜 10:15 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、岩橋 純子(国土地理院)、Parkner Thomas(University of Tsukuba, Graduate School of Life and Environmental Sciences)、高波 紳太郎(明治大学)、座長:岩橋 純子(国土地理院)、高波 紳太郎(明治大学)、齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)


10:00 〜 10:15

[HGM02-05] 地震時斜面崩壊の傾斜・曲率を用いた推計へのDEMソースの影響について

*岩橋 純子1遠藤 涼1 (1.国土地理院)

キーワード:DEM、斜面崩壊、地震時斜面崩壊、インベントリ、PR-AUC

地震時の斜面崩壊の発生には微地形の寄与が大きいことがよく知られており、地理空間情報を用いる簡易的な推計手法としては、傾斜・曲率と最大加速度(PGA)を用いる六甲式(内田ほか,2004)、その改良版である修正六甲式(神谷ほか,2012)がある。傾斜・曲率の計算には、一般に、格子点の標高データである数値標高モデル(DEM)が用いられる。しかし、DEMのソースデータの品質・格子点間隔により、傾斜等の地形量の値は変動する事が良く知られている(いわゆるDEMのスケール問題)。本研究では、一般公開されている全国的なDEMである国土地理院の基盤地図情報数値標高モデルを用い、うちDEM10Bから求めた修正六甲式による崩壊危険度と、DEM5A等を取り入れた10mDEM(以後、再構成DEMという)による崩壊危険度について、実際の地震で起きた斜面崩壊のインベントリとの定量的な検証を行った。
再構成DEMの作成は次のように行った。国土地理院の基盤地図情報数値標高モデル(2022年8月に公開サイトからダウンロード;以下のカッコ内はデータソース)について、DEM5A(航空レーザ測量)>DEM5B(写真測量(地上画素寸法20㎝))>DEM5C(写真測量(地上画素寸法40㎝))>DEM10A(1/5千~1/1万分1火山基本図)>DEM10B(1/2.5万分1地形図)の優先順位で標高点を取りまとめ、構成したポイントデータからTINを作成して10mグリッドDEMを内挿補間した。
斜面崩壊の危険度は、神谷ほか(2012)に従い、DEM10Bあるいは再構成DEMから求めた修正六甲式の値を1/4地域メッシュ単位(通称5次メッシュ、約250m区画)等に取りまとめる方法で行った。
地震時斜面崩壊の分布図には様々な規格のデータが存在するが、岩橋ほか(2022)の手法で1/4地域メッシュデータに集計しインベントリとして用いた。これは、崩壊部を50m間隔のランダムポイントでサンプリングし、メッシュ内の集計用の点の数、集計用の点があるか無いか(existence)、1平方キロメートル当たりの点数等を属性として格納したデータである。本研究では2008年岩手・宮城内陸地震、2016年熊本地震、2018年北海道胆振東部地震等について資料・文献を元に斜面崩壊のインベントリデータを作成した。
定量的な検証は、インベントリデータのexistenceと崩壊危険度の比較で行った。崩壊セルと非崩壊セルの数の偏りが大きいことから適合率-再現率曲線(PR曲線)を用い、PR-AUCを求めた。崩壊セル数が1,000を超えたインベントリについては、非崩壊セルを同数ランダムサンプリングし、ROC-AUCも参考値として算出した。その結果、DEM10Bから再構成DEMへの差し替えにより、いずれもPR-AUCの明瞭な向上が見られ、実際に崩壊が起きたグリッドを崩壊と推計したケースが増えたことが明らかとなった。なおPR-AUCだけでは、過大に崩壊と推計した場合による向上と見分けられないが、ROC-AUCでもいずれのイベントでも向上が見られ、崩壊/非崩壊グリッドの推計共に向上していることが示唆された。
一方、全国均一な品質を擁するDEM10Bと異なり、再構成DEMでは、二次微分に相当しノイズ感受性の高い曲率で、DEMソースの品質の違いが顕在化する現象が起きている事も観察された。修正六甲式では曲率の寄与が傾斜と比較して小さいため、DEMの高精度化によるメリットが、不均一な品質のデメリットを上回り、PR-AUC・ROC-AUCの向上につながったと考えられる。しかし、全国的な危険度の算出には、曲率のようなDEMのスケール問題を増幅するパラメータの利用は、本来は避けた方が良いと考えられ、精度不均一なDEMと、それを利用する危険度算出手法について将来的な課題は残る。

引用文献
岩橋純子・遠藤涼・中埜貴元(2022)過去の地震時地盤災害発生箇所の4分の1地域メッシュデータ化,国土地理院時報,第135集.
神谷泉・乙井康成・中埜貴元・小荒井衛(2012)地震による斜面崩壊危険度評価判別式「六甲式」の改良と実時間運用,写真測量とリモートセンシング,51(6),381-386.
内田太郎・片岡正次郎・岩男忠明・松尾修・寺田秀樹・中野泰雄・杉浦信男・小山内信智(2004)地震による斜面崩壊危険度評価手法に関する研究,国土技術政策総合研究所資料,第204号,91p.