15:30 〜 17:00
[HGM02-P05] 赤石山地大井川上流部における地形の階層分類と土砂の生産・運搬・堆積過程
キーワード:山地河川、土砂移動プロセス、DEM、地形分類、円磨度
土砂の生産場である山地での土砂移動には不明な点が多く,とくに,斜面で生産された土砂が河川によって運搬されるプロセスの解明が必要である。近年,斜面・支流と本流河川との関係性が,本流沿いの段丘構成層を分析することで明らかにされつつある(小岩,2005;Takahashi and Sugai, 2018・2021)。しかしながら,これらの研究は本流による土砂運搬が卓越する山地河川を対象としており,支流による土砂供給が卓越する山地河川での土砂移動プロセスは未解明である。近年,航空レーザ測量が普及し,地表面の形態を数m単位で細密に捉えられるようになった。これにより,従来空中写真では判読困難であった,土石流ローブや尾根~斜面にかけて分布する重力性小崖などの微地形を観察できるようになった。このことは,土砂移動プロセスをより細かい時空間スケールで捕捉できる可能性を示唆し,土砂災害の軽減や自然環境保全にも寄与すると考えられる。そこで本研究では,日本屈指の起伏を誇り,土砂生産が活発であることが予見される大井川上流部の二軒小屋~椹島の10.2km区間を対象に,細密DEMを用いた土砂移動に関わる地形の階層分類,現河床堆積物および段丘・崖錐構成層の観察と分析,および支流集水域と地形面の計測を行い,斜面・支流から本流にかけての土砂の生産・運搬・堆積過程を解明する。なお,この本流区間に合流する支流は30である。
斜面地形は,山体重力変形地形,崩壊,地すべりに分類され,谷底に堆積した土砂が形成する地形面は,「本流性地形面」「支流性地形面」「崖錐」に分類された。本流性地形面は大井川本流の谷幅が広い区間に分布し,H面・M1・M2面・L1・L2面の5段に区分された。支流性地形面は主に支流と本流との合流点付近に分布しており,面上にローブ状微地形が発達するものや,扇端部が侵食され段丘化したもの(Toe-cut terrace; Larson et al., 2015)も存在した。崖錐は本流・支流沿いに高頻度で発達していた。
対象支流30中,29の河床勾配(Sp)は土石流停止勾配(8%)を上回る。支流の集水域面積(At)と支流性地形面の面積(Ad)は,ローブが発達している地形面において,強い正の相関が見られた。このことは,ローブの発達している地形面が新しいために,侵食が進んでいないことを示唆する。
本流現河床における礫の円磨度は支流現河床のそれに比べ高い値を示した。段丘礫層についても,層準によって円磨度に違いが見られ,円磨度の比較的高い(最頻値:0.5程度)層準を本流性堆積物,円磨度の比較的低い(最頻値:0.2~0.3程度)層準を支流性堆積物と解釈した。また礫層の間には細粒層が挟まれており,砂層は本流性堆積物,シルト層は支流性堆積物と解釈した。支流性地形面の露頭ではいずれも本流性の堆積物の上に,支流性の堆積物が載る堆積構造が観察できた。
以上より,対象地域での斜面から河川への土砂供給・運搬・堆積プロセスは以下のように説明できる。すなわち,崩壊に端を発して流下した土石流は,支流出口に堆積空間のある支流合流点付近で堆積し,支流性地形面が発達する。その後,一時貯留されていた支流性の堆積物は本流によって侵食・再運搬され,一部は本流沿いに再堆積する。本論で絶対年代の試料は得られていないが,少なくとも土石流が発生するような現在と同様の気候条件である,後氷期を通じて共通する土砂移動プロセスであると考えられる。
引用文献
小岩 (2005) 地理学評論, 78, 433–54.
Larson et al. (2015) Progress in Physical Geography 39, 417-439.
Schumm (1956) Bulletin of Geological Society of America 67, 597–646.
Takahashi and Sugai (2018) Quaternary International 471, 318-331.
Takahashi and Sugai (2021) Geomorphology 383, 1-18.
斜面地形は,山体重力変形地形,崩壊,地すべりに分類され,谷底に堆積した土砂が形成する地形面は,「本流性地形面」「支流性地形面」「崖錐」に分類された。本流性地形面は大井川本流の谷幅が広い区間に分布し,H面・M1・M2面・L1・L2面の5段に区分された。支流性地形面は主に支流と本流との合流点付近に分布しており,面上にローブ状微地形が発達するものや,扇端部が侵食され段丘化したもの(Toe-cut terrace; Larson et al., 2015)も存在した。崖錐は本流・支流沿いに高頻度で発達していた。
対象支流30中,29の河床勾配(Sp)は土石流停止勾配(8%)を上回る。支流の集水域面積(At)と支流性地形面の面積(Ad)は,ローブが発達している地形面において,強い正の相関が見られた。このことは,ローブの発達している地形面が新しいために,侵食が進んでいないことを示唆する。
本流現河床における礫の円磨度は支流現河床のそれに比べ高い値を示した。段丘礫層についても,層準によって円磨度に違いが見られ,円磨度の比較的高い(最頻値:0.5程度)層準を本流性堆積物,円磨度の比較的低い(最頻値:0.2~0.3程度)層準を支流性堆積物と解釈した。また礫層の間には細粒層が挟まれており,砂層は本流性堆積物,シルト層は支流性堆積物と解釈した。支流性地形面の露頭ではいずれも本流性の堆積物の上に,支流性の堆積物が載る堆積構造が観察できた。
以上より,対象地域での斜面から河川への土砂供給・運搬・堆積プロセスは以下のように説明できる。すなわち,崩壊に端を発して流下した土石流は,支流出口に堆積空間のある支流合流点付近で堆積し,支流性地形面が発達する。その後,一時貯留されていた支流性の堆積物は本流によって侵食・再運搬され,一部は本流沿いに再堆積する。本論で絶対年代の試料は得られていないが,少なくとも土石流が発生するような現在と同様の気候条件である,後氷期を通じて共通する土砂移動プロセスであると考えられる。
引用文献
小岩 (2005) 地理学評論, 78, 433–54.
Larson et al. (2015) Progress in Physical Geography 39, 417-439.
Schumm (1956) Bulletin of Geological Society of America 67, 597–646.
Takahashi and Sugai (2018) Quaternary International 471, 318-331.
Takahashi and Sugai (2021) Geomorphology 383, 1-18.