日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GM 地形学

[H-GM02] 地形

2023年5月26日(金) 15:30 〜 17:00 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:齋藤 仁(名古屋大学 大学院環境学研究科)、岩橋 純子(国土地理院)、Parkner Thomas(University of Tsukuba, Graduate School of Life and Environmental Sciences)、高波 紳太郎(明治大学)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

15:30 〜 17:00

[HGM02-P07] ストリームパワーモデルに基づく坪沼断層,円田断層の活動性評価

*山根 悠輝1遠田 晋次2高橋 直也1 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学災害科学国際研究所)

キーワード:活断層、岩盤河川、ストリームパワーモデル、第四紀

活断層の活動性評価や活動履歴調査は,一般に断層沿いに集中する.しかしながら,断層沿いのみの調査では,近年の衛星測地観測であきらかになっている地震時のオフフォールト(off-fault)変形など,断層周辺の長期地殻変動についての情報を得ることが難しい.また,活断層沿いでは断層変位地形の保存状態が良いとは限らず,累積変位量や年代に関するデータが得られないことの方が多い.以上のような問題点を解決し,既往の活動性評価の代替となる手法として,継続する鉛直変位への河川応答に着目する手法が発展してきている.
断層運動に伴う隆起によって侵食基準面が相対的に低下すると,侵食基準面の低下速度に応じて河川の侵食速度が大きくなる.そのため,岩盤強度や気候など,侵食速度に影響する他の条件が同じである場合,河川の侵食速度や,侵食速度を決める要素である侵食に使われるエネルギー量(以下,侵食力)は,活断層周辺の鉛直変位速度の指標になると考えられている.特に,侵食速度と隆起速度が釣り合う動的平衡状態を仮定できる場合,河川の侵食速度から活断層の鉛直変位速度を推定できる可能性がある.しかしながら,河川の侵食力を活断層の評価手法として用いた例は,日本ではほとんどない.
宮城県名取市から同柴田郡村田町にかけて,北西隆起の逆断層である坪沼断層,円田断層が分布する.坪沼断層,円田断層は,長町–利府線断層帯と福島盆地西縁断層帯にかけての連続性を探る上で重要な区間とされている.しかしながら,坪沼断層,円田断層沿いでは,活動性を評価できるような断層変位地形に乏しい.一方で,坪沼断層や円田断層と交差する河川が存在するため,坪沼断層や円田断層では侵食力分布に基づいて活動性を評価できる可能性がある.以上を踏まえて,本研究では,坪沼断層,円田断層周辺の侵食力を調査し,両断層の活動性を明らかにすることを目的とする.
坪沼断層,円田断層周辺の河川においてユニットストリームパワー(ω)を計算し,その空間分布に基づいて,両断層の鉛直変位速度を検討した.ωは単位河床面積当たりの流水のエネルギー損失速度であり,そのエネルギー損失量の一部が侵食に利用されると考えられている.そのため,ωは岩盤河川の侵食力の指標として用いられており,ωの値が大きいほど侵食力が強いとされている.坪沼断層,円田断層の上盤,下盤を流れる岩盤河川におけるωを求めるため,現地で流路幅,水深,河床勾配を計測した.計測には主にTruPulse 360 (Laser Technology社)を用いた.また,岩盤の受食性を検討するため,調査河川内で露出していた基盤岩の強度を,シュミットハンマー(型式:GS-2)を用いて測定した.
坪沼断層周辺の河川では,主に安山岩や玄武岩が露出し,調査区間全体として,シュミットハンマーの反発値は同程度であった.坪沼断層上盤におけるωは,下盤と比べて約2倍であり,坪沼断層上盤では,坪沼断層の活動に伴う継続的な鉛直変位によって侵食力が強まっている可能性がある.また,坪沼断層上盤では,断層から離れるほどωの値が低下するといった傾向は見られなかった.そのため,本流である名取川の下刻や河床礫の粒径など他の要素が坪沼断層上盤のωに影響を与えている可能性がある.円田断層周辺の河川では主に安山岩が露出しており,泥岩や凝灰岩が露出する区間を除いてシュミットハンマーの反発値は同程度であった.円田断層周辺の安山岩を基盤とする河川のωは,円田断層を境にして大きな差が見られなかった.このことから,調査河川周辺では円田断層の鉛直変位速度が坪沼断層と比べてあまり大きくないことが示唆される.また,岩盤強度とωの関係を検討するためにシュミットハンマーの反発値とωとの関係を検討した.その結果,反発値が大きいほどωが大きくなる傾向があったが,反発値が同程度であっても,ωのばらつきが大きかった.これは,河床礫の粒径や隆起速度など,岩盤強度以外の要素がωに影響していることを意味する.今後は,坪沼断層,円田断層周辺の河川において粒径などを測定し,河床礫の影響を検討し,隆起速度とωの関係をより詳細に検討する必要がある.