09:15 〜 09:30
[HQR03-02] 関東平野上総層群に含まれる約1.65 Maに降下した2枚の前期更新世テフラOb3-Kd31BとSYG-Kd29の認定とその意義
キーワード：関東平野、上総層群、テフラ、前期更新世、Kd31、Kd29
はじめに
関東平野に分布する上総層群は，模式的第四紀層序の確立，同平野形成過程の復元，第四紀古環境変遷解明に必要なデータバンクとしてその役割をはたしてきた．とくに上総層群が含む多数のテフラは年代指標であるとともに，関東各地の上総層群の厳密な対比のための等時間面となる．またその連続性と地理的位置から日本列島各地の火山におけるVEI 6-7クラスの巨大噴火の記録媒体でもある．そのテフラ層序研究は房総半島での研究をはじめ，関東平野西縁部の丘陵，三浦半島北部，関東平野地下，銚子地域など関東各地で進められてきた．2000年代以降，各地テフラの対比を試みられ，地域間で累層の対比が確立しつつある．
関東平野各地域を繋ぐテフラの代表例として，房総半島黄和田層中のKd39，Kd38，Kd25，Kd24が挙げられる．これらは多摩丘陵から東京地下，三浦半島北部，銚子地域で認定されたが，それぞれの噴出年代の間隔はおおよそ30-100 kyrであり，テフラが提供する単位時間あたりの等時間面数は後期更新世〜完新世に比べて格段に少ない．これに対し本研究ではKd38とKd25の間に2層のテフラを関東各地において認定した．これらをOb3-Kd31B，SYG-Kd29と呼ぶ．本講演ではこの2テフラを報告しその編年学的な意義について議論する．
Ob3-Kd31B：Ob3は銚子地域の犬吠層群小浜層中部でKd38（Ob2）とKd25（Ob4a）の中間付近にある（酒井，1990）．銚子市長塚町付近において層厚29cmで白色ガラス質火山灰層を主体とする．スポンジ状・繊維状軽石型火山ガラス（屈折率：1.505-1.507，SiO2：約75 wt%，K2O：約4.2 wt%）が卓越し，斜方輝石（γ: 1.724-1.728），単斜輝石を含む．すでに武蔵野台地地下からも報告されていた（鈴木，2015）が，今回あらたに多摩丘陵中部町田コア中のテフラ，黄和田層中のKd31B（宇都宮ほか，2019），三浦半島北部の大船層中のOFT-30（Nozaki et al., 2014）に対比できることが判明した．
SYG-Kd29：関東平野西部，狭山丘陵の上総層群狭山層に介在する白色ガラス質火山灰層で，正田ほか（2005）によりSYGと定義され，新潟地域の津池火山灰層に対比されている．繊維状軽石型火山ガラスに富み，少量のホルンブレンド，黒雲母を含む．火山ガラスの特性として，屈折率が1.508-1.511であり，SiO2が 75.6-75.9 wt%でK2Oに乏しい（約1.3 wt%）特徴をもつ．本テフラは武蔵野台地地下や多摩丘陵中部地下からも報告されていた（Suzuki et al., 2011）．また犬吠層群小浜層中ではKd38（Ob2）とKd25（Ob4a）の間でOb3-Kd31Bの上位にある．また房総半島では黄和田層中のKd29（宇都宮ほか，2019）に相当し，大船層中のOFT-38（Nozaki et al., 2014）と思われるテフラに対比される．
今回対象とした層準にあるKd39，Kd38，Kd25，Kd24はいずれも飛驒山脈の火山を給源としており，火山ガラスがK2Oに富むなど類似した性質をもつ．今回認定したテフラはこれらとは特性が大きく異なりそれぞれユニークな特徴を示し良好な指標テフラとなる．Nozaki et al. (2014)は石灰質ナノ化石，有孔虫の酸素同位体比などにもとづき，Ob3-Kd31B（OFT-30）を1.664 Ma（MIS 59〜58移行期），SYG-Kd29（OFT-38）を1.634 Ma（MIS 57ピーク付近） としている．すなわち両テフラの認定により，これまで最大で1.60-1.70 Maの年代幅（Kd38-Kd25間）に約30 kyr間隔で等時間面を得ることができた．またKd25とKd24に相当するSKT-11，SKT-12はそれぞれMIS 54〜53への移行期とMIS 53〜52への移行期に相当する（Nozaki et al., 2014）．テフラと酸素同位体ステージの関係が示されたことにより，氷河性海面変動に規制されて形成された多摩丘陵西部の上総層群各累層と同位体ステージの関係をより正確に議論できる．少なくとも小山田層の堆積サイクルはMIS 53の間氷期が，またその下位の平山層の堆積サイクルがMIS 57単独かMIS 55を含めた両間氷期と関係しそうである．この点については平山層に含まれる鑓水テフラの層位が鍵となりとくにSYG-Kd29との関係が重要である．予察的であるがSYG-Kd29のやや下位に鑓水テフラが存在する可能性があり，その場合，平山層の堆積サイクルはMIS 57〜55に相当する．
関東平野に分布する上総層群は，模式的第四紀層序の確立，同平野形成過程の復元，第四紀古環境変遷解明に必要なデータバンクとしてその役割をはたしてきた．とくに上総層群が含む多数のテフラは年代指標であるとともに，関東各地の上総層群の厳密な対比のための等時間面となる．またその連続性と地理的位置から日本列島各地の火山におけるVEI 6-7クラスの巨大噴火の記録媒体でもある．そのテフラ層序研究は房総半島での研究をはじめ，関東平野西縁部の丘陵，三浦半島北部，関東平野地下，銚子地域など関東各地で進められてきた．2000年代以降，各地テフラの対比を試みられ，地域間で累層の対比が確立しつつある．
関東平野各地域を繋ぐテフラの代表例として，房総半島黄和田層中のKd39，Kd38，Kd25，Kd24が挙げられる．これらは多摩丘陵から東京地下，三浦半島北部，銚子地域で認定されたが，それぞれの噴出年代の間隔はおおよそ30-100 kyrであり，テフラが提供する単位時間あたりの等時間面数は後期更新世〜完新世に比べて格段に少ない．これに対し本研究ではKd38とKd25の間に2層のテフラを関東各地において認定した．これらをOb3-Kd31B，SYG-Kd29と呼ぶ．本講演ではこの2テフラを報告しその編年学的な意義について議論する．
Ob3-Kd31B：Ob3は銚子地域の犬吠層群小浜層中部でKd38（Ob2）とKd25（Ob4a）の中間付近にある（酒井，1990）．銚子市長塚町付近において層厚29cmで白色ガラス質火山灰層を主体とする．スポンジ状・繊維状軽石型火山ガラス（屈折率：1.505-1.507，SiO2：約75 wt%，K2O：約4.2 wt%）が卓越し，斜方輝石（γ: 1.724-1.728），単斜輝石を含む．すでに武蔵野台地地下からも報告されていた（鈴木，2015）が，今回あらたに多摩丘陵中部町田コア中のテフラ，黄和田層中のKd31B（宇都宮ほか，2019），三浦半島北部の大船層中のOFT-30（Nozaki et al., 2014）に対比できることが判明した．
SYG-Kd29：関東平野西部，狭山丘陵の上総層群狭山層に介在する白色ガラス質火山灰層で，正田ほか（2005）によりSYGと定義され，新潟地域の津池火山灰層に対比されている．繊維状軽石型火山ガラスに富み，少量のホルンブレンド，黒雲母を含む．火山ガラスの特性として，屈折率が1.508-1.511であり，SiO2が 75.6-75.9 wt%でK2Oに乏しい（約1.3 wt%）特徴をもつ．本テフラは武蔵野台地地下や多摩丘陵中部地下からも報告されていた（Suzuki et al., 2011）．また犬吠層群小浜層中ではKd38（Ob2）とKd25（Ob4a）の間でOb3-Kd31Bの上位にある．また房総半島では黄和田層中のKd29（宇都宮ほか，2019）に相当し，大船層中のOFT-38（Nozaki et al., 2014）と思われるテフラに対比される．
今回対象とした層準にあるKd39，Kd38，Kd25，Kd24はいずれも飛驒山脈の火山を給源としており，火山ガラスがK2Oに富むなど類似した性質をもつ．今回認定したテフラはこれらとは特性が大きく異なりそれぞれユニークな特徴を示し良好な指標テフラとなる．Nozaki et al. (2014)は石灰質ナノ化石，有孔虫の酸素同位体比などにもとづき，Ob3-Kd31B（OFT-30）を1.664 Ma（MIS 59〜58移行期），SYG-Kd29（OFT-38）を1.634 Ma（MIS 57ピーク付近） としている．すなわち両テフラの認定により，これまで最大で1.60-1.70 Maの年代幅（Kd38-Kd25間）に約30 kyr間隔で等時間面を得ることができた．またKd25とKd24に相当するSKT-11，SKT-12はそれぞれMIS 54〜53への移行期とMIS 53〜52への移行期に相当する（Nozaki et al., 2014）．テフラと酸素同位体ステージの関係が示されたことにより，氷河性海面変動に規制されて形成された多摩丘陵西部の上総層群各累層と同位体ステージの関係をより正確に議論できる．少なくとも小山田層の堆積サイクルはMIS 53の間氷期が，またその下位の平山層の堆積サイクルがMIS 57単独かMIS 55を含めた両間氷期と関係しそうである．この点については平山層に含まれる鑓水テフラの層位が鍵となりとくにSYG-Kd29との関係が重要である．予察的であるがSYG-Kd29のやや下位に鑓水テフラが存在する可能性があり，その場合，平山層の堆積サイクルはMIS 57〜55に相当する．