11:15 〜 11:30
[HQR03-09] アナトリア中部カマン・カレホユック遺跡における前期青銅器時代のゴミ堆積物の層序復元
中近東アナトリア地域は、アジアとヨーロッパの接点に位置し、農耕牧畜の開始、金属精錬技術の発達、都市の発展といった変化がいち早く起こった地域である。この地域には、丘状の遺跡(遺丘)が数多く存在する。遺丘内部は各時代の建築遺構(建築層)が成層して埋積しており、その層序を編むことで、その場所における遺構や遺物の時代的な変遷を追うことができる。アナトリアの中心に位置するカマン・カレホユック遺跡はそのような遺丘の一つであり、これまでの発掘から、少なくともおよそ5000年前の前期青銅器時代から近世オスマン帝国時代までの建築層が存在することが分かっており、今後の発掘で銅石器時代あるいは新石器時代までさかのぼる可能性が高い(e.g., Omura 2011)。カマン・カレホユック遺跡は、厳密な建築層の層序が組み立てられている点、出土したすべての遺構・遺物がその層序の中に紐づけられて記録・保管されているという点で他の遺跡とは一線を画しており、この地域の文化的変遷を探る上で極めて重要な遺跡である。
しかし、土器片などの遺物の大半は小さな破片として出土し、考古学的な研究対象とされる保存状態の良い遺物はごく一部である。また、この地域の日干しレンガ造りの建築物は非常にもろく、ほとんどの建築層では建築物の基礎しか残されていない。
一方で、遺跡内で廃棄物が堆積して形成される堆積物(ミドゥン堆積物)は、日常的に排出される灰や炭、骨、糞、しっくいや日干しレンガの破片などが含まれており、当時の人々の食生活、金属精錬技術、建築技術に関する情報などが記録されていると考えられる。ミドゥン堆積物間およびミドゥン堆積物内の層序を復元できれば、層序方向に連続的に試料を採取・分析することで、生活様式や技術の時代変化を連続的に復元できると期待される。
カマン・カレホユック遺跡では、各建築層にピットと呼ばれる直径1m程度, 深さ数十cm程度の穴が多数存在し、ミドゥン堆積物がピットを充填して堆積している。ピットの多くは、後から掘られたピットによって切断されているため、ピット相互の切断関係からそれらの前後関係を推定することができる。本研究では、前期青銅器時代の建築層(建築層Ⅳ)に特に着目し、各ピットを充填しているミドゥン堆積物の層序をそれぞれ記載し、ピット相互の前後関係に従って並べ替えることによって、ミドゥン堆積物の層序を組み立てた。建築層Ⅳは、4200年前前後にあたり、温暖湿潤な中期完新世と寒冷乾燥な後期完新世を区切る大規模な気候変動があったことが知られている(e.g., Walker et al. 2019)。また、カマン・カレホユック遺跡には大規模火災の痕跡とされている層準(火災層)が2層存在し、生活様式や技術が大きく変動した可能性が高い。
遺跡の北トレンチ壁面に露出している前期青銅器時代の2層の火災層に挟まれたおよそ2mの層序区間に、17個のピットが密集して観察された。ピット相互の切断関係を利用して、ピットを充填するミドゥン堆積物の層序を組み立てた結果、およそ層厚5.2mと層厚3.3mのミドゥン堆積物の2本の層序記録を得ることができた。ミドゥン堆積物は、主に数mm~数cm大の土器片、骨片、レンガ片、礫、木炭を多く含む塊状の灰褐色中粒~粗粒砂で構成され、部分的に厚さ数mm~数cmの灰色~灰白色のシルト薄層が挟在する。予察的な試料分析結果については、多田隆治ほか(本セッション)で報告する。
しかし、土器片などの遺物の大半は小さな破片として出土し、考古学的な研究対象とされる保存状態の良い遺物はごく一部である。また、この地域の日干しレンガ造りの建築物は非常にもろく、ほとんどの建築層では建築物の基礎しか残されていない。
一方で、遺跡内で廃棄物が堆積して形成される堆積物(ミドゥン堆積物)は、日常的に排出される灰や炭、骨、糞、しっくいや日干しレンガの破片などが含まれており、当時の人々の食生活、金属精錬技術、建築技術に関する情報などが記録されていると考えられる。ミドゥン堆積物間およびミドゥン堆積物内の層序を復元できれば、層序方向に連続的に試料を採取・分析することで、生活様式や技術の時代変化を連続的に復元できると期待される。
カマン・カレホユック遺跡では、各建築層にピットと呼ばれる直径1m程度, 深さ数十cm程度の穴が多数存在し、ミドゥン堆積物がピットを充填して堆積している。ピットの多くは、後から掘られたピットによって切断されているため、ピット相互の切断関係からそれらの前後関係を推定することができる。本研究では、前期青銅器時代の建築層(建築層Ⅳ)に特に着目し、各ピットを充填しているミドゥン堆積物の層序をそれぞれ記載し、ピット相互の前後関係に従って並べ替えることによって、ミドゥン堆積物の層序を組み立てた。建築層Ⅳは、4200年前前後にあたり、温暖湿潤な中期完新世と寒冷乾燥な後期完新世を区切る大規模な気候変動があったことが知られている(e.g., Walker et al. 2019)。また、カマン・カレホユック遺跡には大規模火災の痕跡とされている層準(火災層)が2層存在し、生活様式や技術が大きく変動した可能性が高い。
遺跡の北トレンチ壁面に露出している前期青銅器時代の2層の火災層に挟まれたおよそ2mの層序区間に、17個のピットが密集して観察された。ピット相互の切断関係を利用して、ピットを充填するミドゥン堆積物の層序を組み立てた結果、およそ層厚5.2mと層厚3.3mのミドゥン堆積物の2本の層序記録を得ることができた。ミドゥン堆積物は、主に数mm~数cm大の土器片、骨片、レンガ片、礫、木炭を多く含む塊状の灰褐色中粒~粗粒砂で構成され、部分的に厚さ数mm~数cmの灰色~灰白色のシルト薄層が挟在する。予察的な試料分析結果については、多田隆治ほか(本セッション)で報告する。