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[HQR03-14] 釧路市春採湖から採取された年縞堆積物コアの解析計画:1次的な研究成果と今後の展望
キーワード:年縞堆積物コア、釧路市春採湖、千島海溝
北海道東部太平洋沖に位置する千島海溝(千島ーカムチャツカ海溝)では,数十年おきにM8クラスの巨大地震や大津波が発生しており,沿岸地域は度々被害を被って来たことが知られている.さらには,最近の津波堆積物調査によって,2011年東北地方太平洋沖地震のようなM9クラスの超巨大地震に周期的に襲われてきたことが判明している.一方道東沿岸域には縄文海進以降に生じた湿原や海跡湖が広域に分布しており,ここには未だ人工改変を被っていない地震津波に関する痕跡が保存されている(Nanayama et al., 2003).
春採湖は釧路市市街地に位置する海跡湖であり,満潮時には春採川を通じて海水が入りこむ汽水湖でもある.縄文海進時にはエスチュアリー〜内湾環境であったが,その後湾口の千代の浦に砂州ができて,現在のような湖になったことが知られている.さらにその湖底には,22層におよぶ津波堆積物が存在することが我々が過去に実施した氷上ボーリング調査によって明らかにされている(Nanayama, 2021).
現在,我々の科研費研究では,近現代の津波によって海跡湖周辺の環境がどのような変化を受け,どのような変遷をたどったのかを年縞ラミナを用いて調べることを目的として,湖底表層部の堆積物コアを採取し,各種分析を現在行っている.2022年8月1-14日に春採湖において採泥調査を行った.まず塩分濃度や湖底地形の測定を行った上で,太平洋に近い春採湖西部の3地点においてマッケラスピストンコアラーを用いて柱状堆積物試料を採取した.春採湖の湖底堆積物の多くは縞状または塊状の泥層を主体とし,前者は年縞ラミナであることが既に判明している(Nanayama, 2021).
今回採取した3本の堆積物コアでは,津波堆積物と推定される2層の海成砂層と道南の北海道駒ヶ岳火山起源(Ko-c1, Ko-c2)や樽前火山起源(Ta-a, Ta-b)の複数のテフラが挟在されることが確認された.Nanayama(2021)との対比によると,これらの津波層は12/13世紀に発生した巨大地震による津波堆積物(GTS2)と17世紀に発生した巨大地震による津波堆積物(GTS1)に対比されると考えている.これらの柱状堆積物試料に対し,25 cm長のスラブ堆積物毎に軟X線写真を撮影し,津波堆積物およびその間の堆積物の堆積構造を精査した.また,スラブ採取後の堆積物試料を1 cm間隔で分取し,珪藻分析を行った.現在のところ,津波堆積物の直後では淡汽水生のCyclotella属が多く見られたが,その後減少したことが判明している.
なお,今回の春採湖調査には,科研費基盤(A) 21H04523,科研費基盤研究(C) 22K03744の予算を使用した.また,調査実施にあたっては,釧路市教育委員会と釧路市立博物館からご協力頂いた.関係者に心から謝意を申し上げたい.
参考文献
Nanayama, F., 2021, Evidence of giant earthquakes and tsunamis of the 17th-century type along the southern Kuril subduction zone, eastern Hokkaido, northern Japan: A review. In Dilek, Y., Ogawa, Y. and Okubo, Y. eds., Characterization of modern and historical seismic–tsunamic events, and their global–social impacts, Special Publications, 501, 131-157. https://doi.org/10.1144/SP501-2019-99
Nanayama, F., et al., 2003, Unusually large earthquakes inferred from tsunami deposits along the Kuril Trench. Nature, 424, 660-663. https://doi.org/10.1038/nature01864
春採湖は釧路市市街地に位置する海跡湖であり,満潮時には春採川を通じて海水が入りこむ汽水湖でもある.縄文海進時にはエスチュアリー〜内湾環境であったが,その後湾口の千代の浦に砂州ができて,現在のような湖になったことが知られている.さらにその湖底には,22層におよぶ津波堆積物が存在することが我々が過去に実施した氷上ボーリング調査によって明らかにされている(Nanayama, 2021).
現在,我々の科研費研究では,近現代の津波によって海跡湖周辺の環境がどのような変化を受け,どのような変遷をたどったのかを年縞ラミナを用いて調べることを目的として,湖底表層部の堆積物コアを採取し,各種分析を現在行っている.2022年8月1-14日に春採湖において採泥調査を行った.まず塩分濃度や湖底地形の測定を行った上で,太平洋に近い春採湖西部の3地点においてマッケラスピストンコアラーを用いて柱状堆積物試料を採取した.春採湖の湖底堆積物の多くは縞状または塊状の泥層を主体とし,前者は年縞ラミナであることが既に判明している(Nanayama, 2021).
今回採取した3本の堆積物コアでは,津波堆積物と推定される2層の海成砂層と道南の北海道駒ヶ岳火山起源(Ko-c1, Ko-c2)や樽前火山起源(Ta-a, Ta-b)の複数のテフラが挟在されることが確認された.Nanayama(2021)との対比によると,これらの津波層は12/13世紀に発生した巨大地震による津波堆積物(GTS2)と17世紀に発生した巨大地震による津波堆積物(GTS1)に対比されると考えている.これらの柱状堆積物試料に対し,25 cm長のスラブ堆積物毎に軟X線写真を撮影し,津波堆積物およびその間の堆積物の堆積構造を精査した.また,スラブ採取後の堆積物試料を1 cm間隔で分取し,珪藻分析を行った.現在のところ,津波堆積物の直後では淡汽水生のCyclotella属が多く見られたが,その後減少したことが判明している.
なお,今回の春採湖調査には,科研費基盤(A) 21H04523,科研費基盤研究(C) 22K03744の予算を使用した.また,調査実施にあたっては,釧路市教育委員会と釧路市立博物館からご協力頂いた.関係者に心から謝意を申し上げたい.
参考文献
Nanayama, F., 2021, Evidence of giant earthquakes and tsunamis of the 17th-century type along the southern Kuril subduction zone, eastern Hokkaido, northern Japan: A review. In Dilek, Y., Ogawa, Y. and Okubo, Y. eds., Characterization of modern and historical seismic–tsunamic events, and their global–social impacts, Special Publications, 501, 131-157. https://doi.org/10.1144/SP501-2019-99
Nanayama, F., et al., 2003, Unusually large earthquakes inferred from tsunami deposits along the Kuril Trench. Nature, 424, 660-663. https://doi.org/10.1038/nature01864