日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR03] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (5) (オンラインポスター)

コンビーナ:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HQR03-P01] 火山ガラスの化学組成データに基づくテフラ対比の方法に関する研究
―北陸地域の鮮新-更新統テフラを例にして―

*立石 良1、相沢 真衣1、長田 健1 (1.富山大学)

キーワード:テフラ対比、多変量解析、対数比解析

1.はじめに
テフラ対比は,層序学的方法と岩石学的方法の総合的検討に基づいて行われ,後者の具体的な方法として,全鉱物組成分析,火山ガラスや鉱物の化学組成分析,屈折率測定などがある.このうち火山ガラスの化学組成データを用いたテフラ対比の方法については,Lowe et al. (2017)でレビューされており,特に化学組成データの統計解析の方法が整理されている.すなわち,化学組成データの検査,変換,探索,検定という流れを経て,層位・層準や記載岩石学的特徴を交えて対比を行うというものである.ここで検査とは,外れ値や誤入力されたデータを削除・修正すること,変換とは,分析値を別の形に変換すること,探索とは,対比される可能性のあるテフラの組み合わせを抽出すること,検定とは,対比される可能性のあるテフラの火山ガラスの化学成分の多変量分布が等しいかどうかを検証することである.しかし,この解析手順の中にはいくつかの不明点がある.まず,変換において対数比解析を行うべきかどうかについて,結論は出されていない.また,解析において重視すべき化学成分に関する議論も十分とは言えない.さらに,検定において推奨されている方法は,データの正規性と等分散性を前提としたものであり,多様なデータに対応するものではない.そこで本研究では,北陸地域に分布する鮮新-更新統に挟在するテフラを題材に,これらの不明点について検討した.

2.方法
富山県西部〜石川県東部に分布する鮮新-更新統高窪層・大桑層は多くのテフラ層を含んでおり,富山県小矢部市八伏では,ルート沿いにこれらのテフラ層が露出する.本研究ではこのルート沿いの,層準の異なるテフラ層3層(Hb02,Hb04,Hb12)の火山ガラスのEPMA主成分化学組成データ(N≧100)を用いて,上記の課題に関する検証を行った.この3層のテフラのうち,Hb02とHb12は組成データ/対数比データのどちらでもFeO*で明確に区別できるが,Hb04のFeO*はバイモーダルな(片方はHb02と重なり,もう片方は独立する)分布を示す.そこで,Hb04をそれぞれaとbに分け,合計4つのグループとして扱い,多変量分布がHb02≒Hb04a≠Hb04b≠Hb12となるような方法を模索した.すなわち,組成データ/対数比データと全成分/選択成分の4つの組合せのデータセットを用いて,多変量解析により探索と検定を行った.対数比解析の方法は,Al2O3を規格化成分とした相加対数比変換を採用した.選択成分は,定量下限と風化による移動度を考慮し,SiO₂,Al₂O₃,FeO*,K₂Oとした.多変量解析の方法は,多様なデータへの適用性を重視して,探索を主成分分析で,検定を決定木分析で行った.

3.結果と考察
4つのデータセットを用いた多変量解析の結果,Hb02≒Hb04a≠Hb04b≠Hb12となった組合せは対数比・選択成分のデータセットのみであった.主成分分析では,全成分を用いた場合,組成データでも対数比データでもHb02≒Hb04a≒Hb04b≠Hb12となった.決定木ではどのデータセットでもHb02≒Hb04a≠Hb04b≠Hb12となったが,解釈の余地なくFeO*のみで分類されたのは対数比・選択成分のデータセットのみであった.以上より,火山ガラスの化学組成データを用いたテフラ対比においては,対数比解析を施し,成分を吟味した上で行った方が良いと考えられる.また,本研究で用いた多変量解析の方法は,いずれも厳しい前提条件を考慮する必要がなく,適用も容易である.特に決定木は,化学成分の違いを定量的かつ明確に可視化できる点で有用と思われる.