13:45 〜 15:15
[HQR03-P08] 鬼怒川・小貝川低地における沖積層の堆積環境変遷
キーワード:海水準変動、縄文海進、鬼怒川・小貝川デルタ、珪藻化石、氾濫原堆積物
関東平野北東部に位置する鬼怒川・小貝川低地~利根川下流低地は,宇都宮市付近から霞ヶ浦南部を経て銚子に至る沖積低地で,長さ約160 kmに対して幅が狭く細長い形状を呈する.最近,下流側の利根川下流低地(小貝川・利根川合流点より下流)では,縄文海進とその後の海水準低下に応じた堆積環境の変遷が復元されている(Tanabe et al., 2022).一方,上流側の鬼怒川・小貝川低地ではこれまで沖積層の研究は十分に行われてこなかった.本研究では,低地中央部で沖積層を貫く堆積物コア試料(GS-JIS-9コア)を採取し,その堆積過程を復元した.
GS-JIS-9コアは,茨城県常総市石下のクレバススプレー末端部において掘削された.掘削長は25 m,孔口標高は16.02 mである.コア試料の層相を記載するとともに,粒度組成,帯磁率,珪藻化石などの分析を実施した.また,計21試料の14C年代測定を加速器分析研究所と名古屋大学で実施した.
コア試料は堆積物の特徴と年代測定値から,以下の7ユニットに区分される.
ユニット1(標高-6.73~-8.98 m):主に粗粒砂~中礫からなる砂礫層で,下部は礫主体となる.上位のユニットの堆積年代から,少なくとも9.0 kaよりも前に堆積したと推定される.沖積層基底礫層に対比される.
ユニット2(標高-4.43~-6.73 m):腐植物混じりの有機質シルトを主体とし,層厚1~数cmの極細粒~細粒砂が挟在する.8.4~9.0 ka頃に堆積したと推定される.淡水性珪藻が卓越することから,氾濫原堆積物と推定される.
ユニット3(標高-2.08~-4.43 m):シルト~粘土を主体とし,淡水生珪藻に付随して,Cyclotella striataなどの汽水~海水生の珪藻化石が多く含まれる.7.6~8.4 ka頃に堆積したと推定される.珪藻化石群集から,潮汐の影響を受けるエスチュアリーの環境で堆積したと推定される.Tanabe (2020)に基づくと,関東平野南部における当時の海水準は標高-2~-7 m付近とされる.当時の対象地域は狭長な湾奥部に位置し,現在の東京湾の潮位差(約2 m)よりも潮位差が大きかったと推定され,掘削地点まで潮汐が及んでいた可能性が高い.
ユニット4(標高2.87~-2.08 m):シルト~細粒砂の砂泥層で,上方粗粒化する傾向を示す.7.0~7.6 ka頃に堆積したと推定される.淡水生および淡水~汽水生の珪藻化石が多産する.層相からデルタフロント堆積物と推定される.
ユニット5(標高11.00~2.87 m):有機質なシルトを主体とし,淡水生の珪藻化石を多産する.標高8.12~3.75 mはやや粗粒で,中粒砂~極粗粒砂を主体とする. 4.0~7.0 kaに堆積したと考えられる.層相と珪藻化石から氾濫原堆積物と推定され,粗粒部はチャネル堆積物の可能性がある.
ユニット6(標高14.25~11.00 m):有機質な砂泥層で,ところどころに層厚数cm程度の偽礫を含む極細粒砂層を挟む .堆積速度がおおよそ0.4 m/kyrと見積もられ,下位のユニット5に比べて顕著に遅い.堆積物の粒度は下位よりもやや粗粒で,極細粒砂~細粒砂の含有率が高くなる.堆積時期は0.7~4.0ka頃と推定される.
ユニット7(標高16.02~14.25 m):シルト混じり極細粒砂~中粒砂を主体とする.0.8 ka以降に堆積したと考えられ,現地表面の地形からクレバススプレー堆積物と推定される.
デルタの発達過程に着目すると,鬼怒川・小貝川低地では7.6 ka頃以降にデルタフロントが前進し始め,4.0 ka頃までは氾濫原堆積物の上方累重が継続したが,4.0 ka頃以降に顕著に堆積速度が低下した.こうした特徴は,海水準変動への河川応答に起因する可能性を示唆するものである.すなわち,4.0~7.6 ka頃は安定した海水準の状況下でデルタの前進と上方への堆積物の累重が進行したのに対し,4.0 ka以降は海水準低下によって堆積物が海側により多く供給され,その内陸側で堆積速度が低下したと解釈される.対象地域下流側の利根川下流低地では,4.0 ka頃に縄文海進の終焉によって海水準が低下し,河川堆積物によってエスチュアリーの埋積が進行したことが示されており(Tanabe et al. 2022),こうした推論を支持する.
引用文献
Tanabe, S. (2020) Quaternary Science Reviews, 248, 106575.
Tanabe, S. et al., (2022) Marine Geology, 447, 106795.
GS-JIS-9コアは,茨城県常総市石下のクレバススプレー末端部において掘削された.掘削長は25 m,孔口標高は16.02 mである.コア試料の層相を記載するとともに,粒度組成,帯磁率,珪藻化石などの分析を実施した.また,計21試料の14C年代測定を加速器分析研究所と名古屋大学で実施した.
コア試料は堆積物の特徴と年代測定値から,以下の7ユニットに区分される.
ユニット1(標高-6.73~-8.98 m):主に粗粒砂~中礫からなる砂礫層で,下部は礫主体となる.上位のユニットの堆積年代から,少なくとも9.0 kaよりも前に堆積したと推定される.沖積層基底礫層に対比される.
ユニット2(標高-4.43~-6.73 m):腐植物混じりの有機質シルトを主体とし,層厚1~数cmの極細粒~細粒砂が挟在する.8.4~9.0 ka頃に堆積したと推定される.淡水性珪藻が卓越することから,氾濫原堆積物と推定される.
ユニット3(標高-2.08~-4.43 m):シルト~粘土を主体とし,淡水生珪藻に付随して,Cyclotella striataなどの汽水~海水生の珪藻化石が多く含まれる.7.6~8.4 ka頃に堆積したと推定される.珪藻化石群集から,潮汐の影響を受けるエスチュアリーの環境で堆積したと推定される.Tanabe (2020)に基づくと,関東平野南部における当時の海水準は標高-2~-7 m付近とされる.当時の対象地域は狭長な湾奥部に位置し,現在の東京湾の潮位差(約2 m)よりも潮位差が大きかったと推定され,掘削地点まで潮汐が及んでいた可能性が高い.
ユニット4(標高2.87~-2.08 m):シルト~細粒砂の砂泥層で,上方粗粒化する傾向を示す.7.0~7.6 ka頃に堆積したと推定される.淡水生および淡水~汽水生の珪藻化石が多産する.層相からデルタフロント堆積物と推定される.
ユニット5(標高11.00~2.87 m):有機質なシルトを主体とし,淡水生の珪藻化石を多産する.標高8.12~3.75 mはやや粗粒で,中粒砂~極粗粒砂を主体とする. 4.0~7.0 kaに堆積したと考えられる.層相と珪藻化石から氾濫原堆積物と推定され,粗粒部はチャネル堆積物の可能性がある.
ユニット6(標高14.25~11.00 m):有機質な砂泥層で,ところどころに層厚数cm程度の偽礫を含む極細粒砂層を挟む .堆積速度がおおよそ0.4 m/kyrと見積もられ,下位のユニット5に比べて顕著に遅い.堆積物の粒度は下位よりもやや粗粒で,極細粒砂~細粒砂の含有率が高くなる.堆積時期は0.7~4.0ka頃と推定される.
ユニット7(標高16.02~14.25 m):シルト混じり極細粒砂~中粒砂を主体とする.0.8 ka以降に堆積したと考えられ,現地表面の地形からクレバススプレー堆積物と推定される.
デルタの発達過程に着目すると,鬼怒川・小貝川低地では7.6 ka頃以降にデルタフロントが前進し始め,4.0 ka頃までは氾濫原堆積物の上方累重が継続したが,4.0 ka頃以降に顕著に堆積速度が低下した.こうした特徴は,海水準変動への河川応答に起因する可能性を示唆するものである.すなわち,4.0~7.6 ka頃は安定した海水準の状況下でデルタの前進と上方への堆積物の累重が進行したのに対し,4.0 ka以降は海水準低下によって堆積物が海側により多く供給され,その内陸側で堆積速度が低下したと解釈される.対象地域下流側の利根川下流低地では,4.0 ka頃に縄文海進の終焉によって海水準が低下し,河川堆積物によってエスチュアリーの埋積が進行したことが示されており(Tanabe et al. 2022),こうした推論を支持する.
引用文献
Tanabe, S. (2020) Quaternary Science Reviews, 248, 106575.
Tanabe, S. et al., (2022) Marine Geology, 447, 106795.