13:45 〜 15:15
[HQR03-P12] 貝形虫化石群集変化からみる台湾南部大鵬湾の過去2500年間における古環境変動
キーワード:貝形虫、完新世後期、台湾南部、古環境、海水準
1.はじめに
台湾は東アジアモンスーンの影響を受ける気候帯に属し,東シナ海,南シナ海とフィリピン海に囲まれている.また,赤道付近から北上する暖流の影響を受ける地域でもあり,台湾は完新世の古環境研究に重要な地域である.しかし,台湾における完新世の古気候については,花粉記録や石筍を用いた研究がなされている(例えば,Wang et al., 2015)ものの,多くは陸域の情報であり,海洋や気候の影響を反映しやすい沿岸域の記録が不十分である.そこで,本研究は台湾南部大鵬湾の2つのボーリングコアを使い,貝形虫化石の群集変化に基づき,台湾南部沿岸の過去2500年間における古環境変遷を明らかにすることを目的とした.
2.研究地域とコア
研究地域は台湾の南西海岸に位置する大鵬湾である.大鵬湾は狭い水路で台湾海峡と接続する閉鎖型ラグーンである.使用したコアは湾北部で掘削したDPW02とDPW05であり,それらの堆積物は主に泥と細粒砂から構成されている.4つのAMS 14Cデータに基づくと,両コアは過去2500年間の堆積物である.両コアから層厚1 cmの試料を合計77個採取し,貝形虫の分析に使用した.
3.結果と考察
77試料のうち,49試料から13属15種の貝形虫が産出した.貝形虫群集を客観的に把握するため,Q-modeクラスター分析を行った.分析には貝形虫が30個体以上含まれる20試料を使用した.その結果,2つの生物相(DaとDb)に区分され,さらに生物相Daは2つの亜生物相(Da-1とDa-2)に分けられた.生物相DaはSinocytheridea impressaの優占で特徴づけられる.この種は中国沿岸の淡水の影響を受ける汽水域で特に豊富である(Irizuki et al., 2005)ことから,この生物相の堆積環境はラグーンと解釈した.亜生物相Da-1はS. impressaに加えて,Bicornucythere misumiensis s.l.とLoxoconcha zhejiangensisも比較的優占する.Bicornucythere misumiensisは西南日本周辺の閉鎖的内湾泥底に普遍的に生息している(池谷・塩崎,1993).Loxoconcha zhejiangensisは象山港の水深10~15 mに最も優占する(Cao et al., 1995).従って,亜生物相Da-1の堆積環境は水深が約10 mのラグーンの中央に近い環境と解釈した.亜生物相Da-2はS. impressa に加えてHemicytheridea reticulataが高い割合を占める.この種はインド北東海岸にあるチリカラグーン(水深2~6 m)で報告されている(Barik et al., 2022).また,この亜生物相には,流れの弱い河川に見られるIlyocypris bradyi(Wilkinson et al., 2005)もわずかに含まれている.したがって,亜生物相Da-2の堆積環境は水深約2~6 mのラグーンに注ぐ河川の河口域に近い環境と解釈した.生物相DbはParacypria inujimensisの優占が特徴である.この種は日本の屋久島周辺の水深5 m未満,塩分濃度21の水域で多産する(Smith and Kamiya, 2006).したがって、この生物相の堆積環境は、比較的塩分濃度の高い水深5m未満のラグーン沿岸と解釈した.
貝形虫化石の群集変化に基づき,大鵬湾の相対的海水準変動を検討した.少なくとも2度の数百年スケールの変動を伴いながらも,全体的には過去2500年間で約-10 mから1 mへと長期的に上昇したことが明らかになった.この変化は同地域の沈降速度と概ね一致する.また,BC 400~200およびAD 300~700で上昇し,BC 200~AD 300およびAD 700~1200で低下する2回の海面変動が認められ,その海水準変動幅はいずれも5 m程度であったことが明らかになった.中国沿岸から台湾周辺にかけての海面変動曲線でも過去2500年間で2回の変動が見られ,その幅もおおよそ本研究の結果と一致することから,これらの地域に共通した海水準変動が生じていた可能性がある.
台湾は東アジアモンスーンの影響を受ける気候帯に属し,東シナ海,南シナ海とフィリピン海に囲まれている.また,赤道付近から北上する暖流の影響を受ける地域でもあり,台湾は完新世の古環境研究に重要な地域である.しかし,台湾における完新世の古気候については,花粉記録や石筍を用いた研究がなされている(例えば,Wang et al., 2015)ものの,多くは陸域の情報であり,海洋や気候の影響を反映しやすい沿岸域の記録が不十分である.そこで,本研究は台湾南部大鵬湾の2つのボーリングコアを使い,貝形虫化石の群集変化に基づき,台湾南部沿岸の過去2500年間における古環境変遷を明らかにすることを目的とした.
2.研究地域とコア
研究地域は台湾の南西海岸に位置する大鵬湾である.大鵬湾は狭い水路で台湾海峡と接続する閉鎖型ラグーンである.使用したコアは湾北部で掘削したDPW02とDPW05であり,それらの堆積物は主に泥と細粒砂から構成されている.4つのAMS 14Cデータに基づくと,両コアは過去2500年間の堆積物である.両コアから層厚1 cmの試料を合計77個採取し,貝形虫の分析に使用した.
3.結果と考察
77試料のうち,49試料から13属15種の貝形虫が産出した.貝形虫群集を客観的に把握するため,Q-modeクラスター分析を行った.分析には貝形虫が30個体以上含まれる20試料を使用した.その結果,2つの生物相(DaとDb)に区分され,さらに生物相Daは2つの亜生物相(Da-1とDa-2)に分けられた.生物相DaはSinocytheridea impressaの優占で特徴づけられる.この種は中国沿岸の淡水の影響を受ける汽水域で特に豊富である(Irizuki et al., 2005)ことから,この生物相の堆積環境はラグーンと解釈した.亜生物相Da-1はS. impressaに加えて,Bicornucythere misumiensis s.l.とLoxoconcha zhejiangensisも比較的優占する.Bicornucythere misumiensisは西南日本周辺の閉鎖的内湾泥底に普遍的に生息している(池谷・塩崎,1993).Loxoconcha zhejiangensisは象山港の水深10~15 mに最も優占する(Cao et al., 1995).従って,亜生物相Da-1の堆積環境は水深が約10 mのラグーンの中央に近い環境と解釈した.亜生物相Da-2はS. impressa に加えてHemicytheridea reticulataが高い割合を占める.この種はインド北東海岸にあるチリカラグーン(水深2~6 m)で報告されている(Barik et al., 2022).また,この亜生物相には,流れの弱い河川に見られるIlyocypris bradyi(Wilkinson et al., 2005)もわずかに含まれている.したがって,亜生物相Da-2の堆積環境は水深約2~6 mのラグーンに注ぐ河川の河口域に近い環境と解釈した.生物相DbはParacypria inujimensisの優占が特徴である.この種は日本の屋久島周辺の水深5 m未満,塩分濃度21の水域で多産する(Smith and Kamiya, 2006).したがって、この生物相の堆積環境は、比較的塩分濃度の高い水深5m未満のラグーン沿岸と解釈した.
貝形虫化石の群集変化に基づき,大鵬湾の相対的海水準変動を検討した.少なくとも2度の数百年スケールの変動を伴いながらも,全体的には過去2500年間で約-10 mから1 mへと長期的に上昇したことが明らかになった.この変化は同地域の沈降速度と概ね一致する.また,BC 400~200およびAD 300~700で上昇し,BC 200~AD 300およびAD 700~1200で低下する2回の海面変動が認められ,その海水準変動幅はいずれも5 m程度であったことが明らかになった.中国沿岸から台湾周辺にかけての海面変動曲線でも過去2500年間で2回の変動が見られ,その幅もおおよそ本研究の結果と一致することから,これらの地域に共通した海水準変動が生じていた可能性がある.