日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE12] 応用地質学の新展開

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、竹下 徹(北海道大学総合博物館・資料部)、座長:竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、竹下 徹(北海道大学総合博物館・資料部)

15:30 〜 15:45

[HRE12-01] 布田川断層掘削における地質構造・温度分布・地下水の調査

★招待講演

*林 為人1、澁谷 奨2神谷 奈々3、佐渡 耕一郎2、FENG Shuai1石塚 師也1 (1.京都大学大学院工学研究科、2.(株)地圏総合コンサルタント、3.同志社大学)

キーワード:布田川断層掘削、地質構造、孔内温度分布、地下水位観測

応用地質学を含む固体地球科学の分野において、科学掘削(ボーリング)によって地下深部にアクセスし、岩石コア試料の採取、掘削孔内における物理検層と孔内実験、掘削孔を利用した長期観測を行うことは、地震断層の特性解明、地熱エネルギー資源の調査と開発、高レベル放射性廃棄物の地層処分と温室効果ガスの地中貯留などにおいて、重要な役目を果たしている。本発表では、阿蘇カルデラの西麓域に位置する布田川断層を貫いた深度700mの掘削孔において行ってきた地質構造・孔内の温度分布計測・孔内水の流動の特定・地下水位観測の結果を報告する。
2016年4月16日に横ずれタイプの布田川断層を震源断層として、Mw 7.0の熊本地震の本震が発生した。その後、深度700 mのボーリング調査孔(以下、FDB孔と称する)は、断層試料採取を主目的として、2017年9月~2018年3月の間に熊本県益城町で掘削され、布田川断層帯を貫通した(京都大学、2018;https://www.nsr.go.jp/data/000256426.pdf)。
本調査では、2016年の熊本地震本震時に形成された地表地震断層に対して複数のボーリングを掘削して、ほぼ水平な堆積層である下陳礫層と津森層の地層境界が布田川断層に沿って、大きな縦方向のずれを確認した(Shibutani et al., 2022 G3)。具体的には、コア試料やカッティングス試料の観察結果に基づき、2016年の本震の際に発生した横ずれと異なる正断層センスの累積変位量が200 m以上にも及んだことを明らかにした。さらに、深度354 m付近の断層面に縦ずれのスリッケンラインが確認され、現在は横ずれの断層運動を示す布田川断層の破砕帯内に縦ずれの断層運動を示す正断層の運動履歴を発見した。既存の断層運動と地質年代学的研究などを参考にして、布田川断層が阿蘇カルデラ形成噴火のあった約30~9万年前の間は縦ずれ卓越の正断層として運動し、最後の阿蘇火山カルデラ噴火(約9万年前)に伴い断層の応力場に変化が生じて熊本地震本震と同様の横ずれ卓越の運動方式に変化したと解釈した。また、2016年の熊本地震本震で活動した断層は、縦ずれの断層運動を示す深度354 mの断層面より深い位置にある深度461 m付近の横ずれの断層運動を示す条線を伴う断層面および破砕帯である可能性が高いことが判明した。
2018年3月に掘削が完了したFDB孔において、同5月から約4年間計15回孔内の温度分布を繰り返し測定した(林ほか、2021 日本応用地質学会研究発表会)。低温の掘削泥水の影響により逸水区間等における地層の温度擾乱が認められ、その回復に伴う局所的な温度の経時変化があったものの、深度約100~650 mにおいて、再現性の高い温度プロファイルを得ることができた。地表の気温変化による影響がないと考えられる深度約200~310 mおよび430~650 mの区間では、深くなるにつれ温度がほぼ直線的に高くなる、通常の地温構造が認められた。この地温勾配は約55℃/kmであり、国内の平均的な地温勾配の20~30℃/kmより高いが、阿蘇火山地域の特徴であると考えられる。しかし、FDB孔の深度約310~430 mの120 m区間においては、ほぼ一定の温度(地温勾配が約1℃/km)となり、この深度区間以外の平均的な地温勾配よりはるかに小さい結果となった。この120 m区間での極めて低い地温勾配(1℃/km)は、佐野ほか(2021;第15回国内岩の力学シンポジウム)が岩石コア試料で実測した熱伝導率の深度変化から説明できず、地下水流動による孔内水の移動が関係すると推測された。それを確かめるために、加熱式フローメーターを自作して、孔内で測定を実施した結果、当該深度区間において下方への流れを確認することができた(Feng et al., 2023 JpGU;本発表と同じセッション)。
2018年5月から2022年3月までの約4年間に渡って、FDB孔において地下水位の長期観測を行った。本孔では地表から深度約300mまでケーシングが設置されているため、地下水位観測の結果はそれ以深の帯水層の挙動を反映していると考えられる。澁谷ほか(2022 応用地質)は2021年までの約3年間の観測データを取りまとめ、熊本地域に広く分布する阿蘇1~阿蘇3火砕流堆積物を主とした第2帯水層が300 m以深の堆積岩層や先阿蘇火山岩類まで続いている可能性があることを示したほか、布田川断層の破砕帯が第2帯水層をさらに深部へ拡張させる役割を果たし、熊本地域の活発な地下水流動系に関連している可能性を示唆した。