日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE12] 応用地質学の新展開

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、竹下 徹(北海道大学総合博物館・資料部)、座長:竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、竹下 徹(北海道大学総合博物館・資料部)

15:45 〜 16:00

[HRE12-02] 建設発生土処分へのReactive Transport Modelingの適用の可能性

★招待講演

*太田 岳洋1 (1.山口大学大学院創成科学研究科地球科学分野)

キーワード:反応輸送モデル、建設発生土処分、溶解速度則、土壌汚染対策法、水-岩石反応

最近20年、トンネル建設などで排出される建設発生土について、それに含有される重金属元素類などの有害元素や酸性水などの溶出が懸念され、その処分に関して多大な経費と労力をかけており、建設工事の円滑な進捗を妨げる大きな要因となっている。この問題の先駆的な事例である八甲田トンネルにおける発生土の処理については、岩石学的鉱物学的な根拠に基づき発生土が区分され(服部他、2003a)、その発生土の特徴に応じた対策が施された服部他、2003b)。2010年に土壌汚染対策法が改正され、自然的な原因による有害元素が含まれる土壌についても法の対象となったことから、建設発生土についても法に倣った評価、対策が行われるようになった。すなわち、発生土の特性は溶出特性のみで評価され、影響程度は溶出物質の移流分散現象のみで評価され、発生土中の鉱物の分解による元素溶出現象やその元素の鉱物等への吸着課程といったメカニズムが考慮されていない。しかし、海外においては地下水水質の評価や予測、二酸化炭素の地下貯留、核廃棄物の地層処分などの分野において、水-岩石(鉱物)反応と移流分散をモデル化するReactive Transport Modelingが活用されている(Maher and Mayer, 2019)。
各分野においてReactive Transport Modelingの有効性が確認されていることから、建設発生土からの元素溶出現象の理解や対策の設計に対してもこのモデル化が有効であると考えられる。そこで、建設発生土の処分地を模擬した試験盛土を作成し、盛土内の土中水と盛土底面からの浸出水を一定間隔で採取し、水質の時間変化を把握した。試験盛土表面から盛土内に涵養した降水は、鉛直下方に浸透して、盛土底面から排水されることから、盛土構造と降雨浸透を鉛直1次元のReaction Transport Modelを設定し、土中水と浸出水の水質変化の再現を解析コードはPHREEQCにより試みた。
解析のReaction Modelは以下のように設定した。発生土の含有鉱物量は全岩化学組成から太田他(2013)の方法により算出した。含有鉱物の直径はケイ酸塩鉱物は0.1mm、硫化鉱物、炭酸塩鉱物は0.001mmとし、形状は球形を仮定した。鉱物の溶解反応速度則は、ケイ酸塩鉱物はSverdrup and Warfvinge(1995)、黄鉄鉱はWilliamson and Rimstidt(1994)、方鉛鉱はZhang et al.(2004)、方解石はPlummer et al.(1978)に従い、黄鉄鉱、方鉛鉱以外の硫化鉱物には黄鉄鉱の速度則を、方解石以外の炭酸塩鉱物は方解石の速度則を適用した。吸着相鉱物として水酸化鉄、ギブサイトを設定し、平衡相鉱物として白鉛鉱、黒銅鉱、菱亜鉛鉱、珪酸亜鉛鉱、水酸化鉄、ギブサイトを設定した。ギブサイトへの元素の吸着に関する熱力学データはKaramalidis and Dzombak(2010)を用い、その以外の熱力学データはwateq4f.datによった。
一方、Transport Modelは以下のように設定した。1次元カラムは高さ2m、断面積40m2でモデル化した。水の流速は浸出水量の実測から4.778×10-8m/sとした。分散長は0.5、拡散係数は1×10-9m2/sとした。降水水質は観測値(智和他,2007)を用い、大気平気条件を仮定した。カラムの初期条件は降水で飽和した状態とした。カラム中の各鉱物のモル量と表面積は発生土の比重を2.0、間隙率を0.5と仮定して算出した。解析時間は試験盛土の試験期間のほぼ5年間とした。
試験盛土中の土中水においては、pHが試験開始後は上昇傾向を示し、約1年経過後以降は8.0付近で一定となった。解析においても開始直後のpHの上昇とその後微増しながら一定値に収束する傾向が見られたが、収束に要する時間と収束値が実測とやや異なる。試験盛土の土中水のAs濃度は開始後2.5~3年間は上昇傾向を示し、その後一定値となる。盛土体によっては一定値となった後、減少傾向を示す場合もある。また、盛土底部からの浸出水のAs濃度は開始直後から低濃度を示した。As濃度の関する解析結果では、盛土の中間部より上部の土中水は初期に上昇し、その減少傾向に転じる。発生土最下部から下位では開始直後に急減し、低濃度で推移する。以上の建設発生土の盛土体にReaction Transport Modelを適用した解析結果は、実際の土中水や浸出水の水質変化をある程度再現していると考えられる。このことから、建設発生土からの元素溶出に関しても、Reaction Transport Modelingの適用は適切な現象の理解と対策工の設計に有効であると考えられる。