日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE12] 応用地質学の新展開

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、竹下 徹(北海道大学総合博物館・資料部)、座長:竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、竹下 徹(北海道大学総合博物館・資料部)

16:30 〜 16:45

[HRE12-05] 都市部における地質情報の収集と調査検討方法について

*北田 奈緒子1、水谷 光太郎1、伊藤 浩子1 (1.一般財団法人地域地盤環境研究所)

キーワード:地盤情報、大阪、データベース、表層地質

都市部においては,地質踏査を実施することは難しく,ボーリング調査であっても調査場所の確保が難しい場合が多くある。そこで,ボーリング調査のデータをデータベース化して利活用する方法がある。関西地域では,過去30年以上にわたり地盤情報の蓄積がなされており,土質工学会関西支部(現地盤工学会関西支部)の研究委員会を発端に“関西陸域”と“大阪湾海域”の地盤情報データベースベースの構築と地盤研究が始まった。現在は,「関西圏地盤情報ネットワーク(KG-NET)」を形成し,活動を行っている。
 KG-NETの中には,これらのデータの利活用事例を示すことを目的に,地域ごとにスポットを当て検討を行った。その成果は書籍として新関西地盤シリーズとして,大阪平野,京都盆地,奈良盆地,近江盆地,和歌山平野などの地域が取りまとめられた。各地域での取りまとめでは,地域の代表的な表層地盤の断面図や地質学的な層序,堆積物の特徴,地質構造との関係などがとりまとめてあり,さらに工学的な特徴などもまとめてあるので該当地域での地質調査業務などの概要説明や調査時の対象地層の確認,調査計画などに利用されている。また,大阪平野など港湾部を含む地域は,基本的に海水準変動に伴った海成粘土層が特徴的に分布することから,地層の対比は比較的にスムーズであり,これに伴って中間砂層(Dg層)の特徴や分布は工学的基盤の分布状況を示すことが可能であり,杭基礎の深度の推定などの建設施工時の情報としても有効である。一方で,内陸地域では河川堆積物の特徴や基盤岩露出地域の岩石の特徴を反映した後背地の特徴などが明らかになり,地域ごとの地盤特性の取りまとめなどが可能となった。これらのとりまとめの特徴は,地質学的な堆積環境や堆積年代などの地質学的な内容を取りまとめるのとともに,工学的な力学特性や物理特性などもとりまとめていることである。特に基準ボーリングなる調査を実施し,同一地点において,地質学的な調査検討と工学的な特性の検討を実施していることである。
 基準ボーリング調査で明らかになったことを周辺のボーリングデータベースに登録されているデータと側方対比しつつ,地域の特性を明らかにする。このような作業を用いた地層分布や堆積状況を把握することで,工事トラブルのリスクの高い地質がどのような堆積状況の場所に分布するのかが明らかになり,留意点も明らかになってきた。一例を挙げると,完新統の海成堆積物の中で陸地付近やある程度の流れのある地域で堆積する「砂」層は,注意が必要である。砂洲や砂堆の堆積物は中砂程度の粒径で分布し,スポット状に分布する事が多い。一方,湾奥の流れの少ない海岸付近では細粒砂が部分的に散見される。いずれも淘汰が良く,地下水位が比較的高い地域では液状化などのリスクが高いことが一般にも知られている。しかし,工事トラブルと合わせて検討すると,シールド工事などの地下掘削時にも掘削の振動に伴って流動化するなどの危険性がある事が判ってきている(地盤工学会関西支部(2013),北田・三村(2021),北田(2022))。さらに,断層変形に伴う撓曲構造の抽出などがボーリングデータを用いて広域的な地層分布を把握することによって解明することが可能となり,一般の工事などに伴う局所的な施工時ボーリングでは十分に把握しきれない地質・地盤リスクを抽出することが可能である。
 都市部の表層地質地盤は開発や保全を検討するためには十分理解することが必要であり,これらの新しい地盤情報を用いた地質検討の試みは今後全国的に展開すると考えられる。