日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-RE 応用地質学・資源エネルギー利用

[H-RE12] 応用地質学の新展開

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (10) (オンラインポスター)

コンビーナ:竹村 貴人(日本大学文理学部地球科学科)、竹下 徹(北海道大学総合博物館・資料部)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[HRE12-P02] 変形に駆動される風化・変質: 地盤関連の応用地質学における重要性

*竹下 徹1加地 広美2 (1.北海道大学総合博物館・資料部、2.応用地質株式会社)

キーワード:地すべり、内部摩擦係数、変形バンド、風化、スメクタイト、粘土鉱物による透水性の減少


応用地質学の取り扱う範囲は多岐にわたるが、道路、トンネル、橋、ダム等の構造物の建設のための地盤調査・解析は、古くからその主要な部分である。さらに、近年の地球温暖化に伴って頻発する大雨土砂災害(地すべり、土石流等)のため、地盤を扱う応用地質学の需要と重要性が増しているほか、喫近の課題となっている放射性廃棄物の地層処分では、地盤(岩盤)の強度や透水性が重要な問題となる。本発表では、地盤(岩盤)中で生じている諸過程の中で風化・変質は重要な役割を果たすほか、それらが変形に駆動されることを地すべりと放射性廃棄物の地層処分という応用地質学が扱っている2つの分野と関連させて述べる。
地すべりの調査・解析、および防止のための工法は、建設コンサルタント等が長年取り組んでいる。地すべりの主要な原因は、摩擦係数が低下し脆弱になった面で、大雨により間隙水圧が増加してすべりに対する抵抗力を失うためである。摩擦係数は、層理面や片理面等で低く、これらの面に沿って地すべりが起こり易い。また、地すべりは、泥岩層や凝灰岩層等、もともと粘土鉱物や雲母のような摩擦係数が低い鉱物より主として構成されている地層で起こり易い。一方、地すべりは新鮮で風化していない岩石では起こりにくく、風化・変質により大量の粘土鉱物(特にスメクタイト等)が形成された部分で起こっていることが多く報告されている(例えば、Regmi et al., 2013)。また、主要な構造線や断層に沿う破砕帯で地すべりが頻発しているが、これも岩石の破砕による強度の低下が重要であるほか、破砕された部分に火山岩の貫入に伴って熱水が浸透し、粘土鉱物が大量に形成されて強度が下がることが重要な原因となる(例えば田村ほか, 2007)。
我々は最近、北海道釧路市西方の白糠町刺牛に分布する地すべりの発生が、地層の褶曲変形と大きく関連している事実を明らかにした(Kaji and Takeshita, 2022)。地すべりが発生している地層は浦幌層群と呼ばれる始新世の前弧堆積物で、主としてアルコース質砂岩および泥岩で構成される。地すべりは南東に約20度傾斜する層理面と平行に、流れ盤地すべりとして生じている。地すべり周辺の地質調査を行った結果、複数の規模の大きい地すべりが北東―南西方向を軸とする、撓曲構造付近で起こったことが判明した。すなわち、地すべりは撓曲構造に支配されて生じたように見える。さらに、撓曲構造の軸部付近を構成する砂岩には変形バンドや断層粘土が観察され、これらは撓曲軸部付近の応力集中より生じたというモデル(Ballas et al., 2014)に符合する。重要なことは、変形バンド中で破砕された砕屑粒子間の隙間のほか、フィロケイ酸塩バントを構成する砕屑性黒雲母中で、キンクバンドを形成する劈開すべりで生じた隙間にスメクタイトが成長していることである。さらに、黒雲母はスメクタイトと同様、膨潤性粘土鉱物であるバーミキュライトに変質しているほか、さらに風化の最終産物であるカオリナイトに変質していることがSEM-EDSおよびEMPA分析から明らかとなった。つまり、明らかに褶曲形成に伴う破砕が水の通路を作り風化・変質を容易にし、最終的には地すべりにつながる粘土鉱物の生成を駆動したことが読み取れる。
放射性廃棄物の地層処分は、人工バリアと天然バリアの2重バリアで放射性核種の漏出および移動を妨げることが基本である。ここで、天然バリアとなる地層では、割れ目を満たす地下水に沿って放射性核種がどの程度移流し、周囲に拡散するかが問題となる。この場合でも、単に割れ目を含む岩石の透水係数だけでなく、この割れ目に水が通う時、どのような反応が生じ(reactive transport, MacQuarrie and Mayer, 2005)割れ目の透水係数がどの様に時間とともに変化するかという風化・変質の問題が重要になることを本発表で述べる。