日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT15] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2023年5月23日(火) 09:00 〜 10:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、大手 信人(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻)、座長:大手 信人(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻)

09:00 〜 09:15

[HTT15-01] 環境トレーサビリティ手法を活用した学際研究の展開

*陀安 一郎1SHIN Ki-Cheol1鷹野 真也1大西 雄二1 (1.総合地球環境学研究所)

キーワード:安定同位体、多元素同位体地図、環境トレーサビリティ

水、大気、生物、土壌など生態系を構成する種々の要素のなかには、元素の安定同位体比という指紋が内在されている。この指紋情報がもつトレーサビリティ機能を用いると、さまざまな地域や時間のスケールを対象とする地球環境問題の解決に資する研究を行うことができる可能性がある。元素の安定同位体比は、元素の濃度とともに用いることにより、環境中の物質の流れを追跡することに加え、生態系の構造を記述することができる。多元素の安定同位体比の時空間変動は、地域レベルから地球規模に及ぶ地球システムを研究するために使用することができる。この情報は、さらに人々が水、食糧、環境保全などの重要な意思決定を行う上で活用することができる可能性があり、これらは人間社会の持続可能性にとっても活用しうる。
人間文化研究機構総合地球環境学研究所(地球研)では、これらの観点から「同位体環境学共同研究」という共同研究の枠組みを作り、全国の研究者と機器の共同利用を通じて多元素の安定同位体分析を元にした環境の研究を行なっている。地球研においては、「環境研究における同位体を用いた環境トレーサビリティー手法の提案と有効性の検証」、「環境トレーサビリティに基づく研究基盤の応用」といった研究を通じて、環境研究において環境トレーサビリティの概念をどのように利用するかについての方法論を研究した。その結果、学際的プロセスにおけるトレーサビリティ手法の役割と利用可能性は対象とする関係者で異なり、「多元素同位体地図」の共同制作は地域環境の変化を理解し説明するのに効果的な結合ツールとして機能した。現在、ホームページ「同位体環境学がえがく世界(https://www.environmentalisotope.jp)」を、同位体手法を用いた研究の提供者と利用者をつなぐ相互プラットフォームとして活用している。2022年度からは、人間文化研究機構の広領域連携型基幹研究プロジェクト「人新世に至る、モノを通した自然と人間の相互作用に関する研究(略称:人・モノ・自然プロジェクト)」を開始した。本研究は、身体や物質に含まれる元素の濃度及び同位体比を分析することで、自然と人間の関わりについて時間軸と空間軸を横断する研究を行い、物質文化から見た現代の地球環境問題につながる人間の資源利用形態の変容を明らかにすることを目標としている。
本発表では、多元素の安定同位体分析を元にした学際研究の展開について、今後利用者とどのような共同研究を進めていくかについて議論する。