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[HTT15-02] 忍野村の地下水,湧水の87Sr/86Srと地下水流動の関係
キーワード:忍野村、地下水、湧水、87Sr/86Sr、水質、地下水流動
山梨県南都留郡忍野村には世界文化遺産富士山の構成資産として認定された忍野八海の湧水をはじめ,民家が所有する井戸や水源の井戸など,地下水が豊富な地域である。忍野村の広域を対象とした地下水や湧水等の水質や地下水流動の調査の結果,村内には2つの地下水流動系があり,村の西部では南から北へ向かう流動(富士山側から忍野八海の位置する方向への流動に相当),村の中央から東部では東から西に向かう流動(道志山塊から忍野村西部に向かう流動に相当)が確認された(Yabusaki et al., 2023)。これらの地下水流動と溶存成分やδ18O,δ2Hの分布には概ね整合が認められたが,涵養域の違いを把握する際に,地質によって異なる値をもつストロンチウム安定同位体比(87Sr/86Sr)も有効活用できると考えられる。そこで本研究では忍野村の地下水や湧水等の87Sr/86Srの分布の特徴について把握し,また周辺自治体で採取した地下水や湧水の87Sr/86Srとも比較して,忍野村の地下水,湧水の起源について検討することを目的として分析等を実施した。
忍野村の試料は2017年1月の調査(74地点)と,同年8月の調査(103地点)のうち52地点の地下水(浅層地下水,深層地下水),湧水,自噴井を対象とした。また周辺自治体の試料として,2017年~2022年に調査を行った39地点を対象としており,これらには地下水(深層地下水,浅層地下水),湧水,温泉,湖水が含まれている。なお,本研究では地質の特徴から,深度30 mよりも浅いものを浅層地下水,30 mよりも深いものを深層地下水と定義した。また,比較のため,忍野村で採取した岩石(玄武岩)も分析試料とした。
上記の水試料について,現地でECやpH,水温,ORPを測定し,採取した試料は溶存無機イオン(ICS-3000,ICS-6000),微量成分51元素 (Agilent 8700cx),δ18Oとδ2H (Picarro L2130-i,L2140-i)を測定した。87Sr/86Sr分析では,Sr濃度に応じて適切な量を蒸発乾固し,得られた試料についてカラム操作によりSrを抽出して,MC-ICP-MS(NEPTUNE PLUS)にて測定した。
忍野村の試料の87Sr/86Srは0.7035~0.7061の範囲にあり,傾向として,村の西部で相対的に低く,村の中央から東部で相対的に高い値を示しており,この違いは先行研究で把握した地下水流動系と概ね一致している。一方,村内を流れる新名庄川と桂川の合流する付近の地下水や湧水において,同位体比がやや高い地点が分布している。富士山を起源とする水の87Sr/86Srは0.7035付近の値を示すことから,富士山起源の水は相対的に低い値を示すことになる。一方,広域の87Sr/86Srの分布をみると,河口湖,西湖,精進湖,本栖湖の近くの地下水や湧水では0.7039以上の値を示しており,これらの湖の周辺では富士山起源の水の値とは特徴が異なる地点が多く分布している。バナジウム(V)濃度について,富士山起源の水では値が高くなっているが(概ね40~160 μg/Lを示す),上記の4か所の湖水のV濃度は低くなっており(数μg/L程度),これらの特徴から湖水の起源は富士山起源よりも,北側の御坂山系が卓越している可能性が考えられる。これまでに得られた結果から,地下水の涵養域の違いを把握する際に87Sr/86Srの利用は有効であると考えられる。Sr同位体比の詳細な差異については,現在実施している御坂山系の水や岩石試料のSr分析に結果も含めて,更に検討を進めてゆく。
(参考文献)
Yabusaki, S., Taniguchi, M., Tayasu, I., Akimichi, T., Ohmori, N., Gotou, K., Watanabe, H., Watanabe, S., and Furuya, S. (2023): Water quality characteristics and dynamics of groundwater and spring water revealed by multi-tracers in Oshino, Yamanashi, Japan. Geochemical Journal. (in press) https://doi.org/10.2343/geochemj.GJ23003.
忍野村の試料は2017年1月の調査(74地点)と,同年8月の調査(103地点)のうち52地点の地下水(浅層地下水,深層地下水),湧水,自噴井を対象とした。また周辺自治体の試料として,2017年~2022年に調査を行った39地点を対象としており,これらには地下水(深層地下水,浅層地下水),湧水,温泉,湖水が含まれている。なお,本研究では地質の特徴から,深度30 mよりも浅いものを浅層地下水,30 mよりも深いものを深層地下水と定義した。また,比較のため,忍野村で採取した岩石(玄武岩)も分析試料とした。
上記の水試料について,現地でECやpH,水温,ORPを測定し,採取した試料は溶存無機イオン(ICS-3000,ICS-6000),微量成分51元素 (Agilent 8700cx),δ18Oとδ2H (Picarro L2130-i,L2140-i)を測定した。87Sr/86Sr分析では,Sr濃度に応じて適切な量を蒸発乾固し,得られた試料についてカラム操作によりSrを抽出して,MC-ICP-MS(NEPTUNE PLUS)にて測定した。
忍野村の試料の87Sr/86Srは0.7035~0.7061の範囲にあり,傾向として,村の西部で相対的に低く,村の中央から東部で相対的に高い値を示しており,この違いは先行研究で把握した地下水流動系と概ね一致している。一方,村内を流れる新名庄川と桂川の合流する付近の地下水や湧水において,同位体比がやや高い地点が分布している。富士山を起源とする水の87Sr/86Srは0.7035付近の値を示すことから,富士山起源の水は相対的に低い値を示すことになる。一方,広域の87Sr/86Srの分布をみると,河口湖,西湖,精進湖,本栖湖の近くの地下水や湧水では0.7039以上の値を示しており,これらの湖の周辺では富士山起源の水の値とは特徴が異なる地点が多く分布している。バナジウム(V)濃度について,富士山起源の水では値が高くなっているが(概ね40~160 μg/Lを示す),上記の4か所の湖水のV濃度は低くなっており(数μg/L程度),これらの特徴から湖水の起源は富士山起源よりも,北側の御坂山系が卓越している可能性が考えられる。これまでに得られた結果から,地下水の涵養域の違いを把握する際に87Sr/86Srの利用は有効であると考えられる。Sr同位体比の詳細な差異については,現在実施している御坂山系の水や岩石試料のSr分析に結果も含めて,更に検討を進めてゆく。
(参考文献)
Yabusaki, S., Taniguchi, M., Tayasu, I., Akimichi, T., Ohmori, N., Gotou, K., Watanabe, H., Watanabe, S., and Furuya, S. (2023): Water quality characteristics and dynamics of groundwater and spring water revealed by multi-tracers in Oshino, Yamanashi, Japan. Geochemical Journal. (in press) https://doi.org/10.2343/geochemj.GJ23003.