09:30 〜 09:45
[HTT15-03] 2022年8月3~10日の青森県の豪雨と水蒸気輸送
―ピカロによる計測とIsoRSM simulation―
キーワード:豪雨、水蒸気同位体
2022年8月3日に下北半島で豪雨による土砂災害が,8月9-10日に青森県西部で豪雨による洪水イベントが発生した.弘前市では岩木川の氾濫が警戒され, 警戒レベル5の「緊急安全確保」が発令された. 気象庁によると,8/9午後5時までの24時間降水量は,深浦町(251.5ミリ),弘前市(218.5ミリ)など観測史上最大を記録した.その原因については,ラ・ニーニャ等グローバルな視点での解析や, 8/2-3は前線の停滞と台風6号由来の水蒸気輸送,線状降水帯の発生, 8/8-13は停滞前線の南下といった総観規模・メソスケールの報告がなされている. しかし線状降水帯発生予測や甚大な被害の予報は未だ開発段階であることから,北東北の極端な降水現象について素過程を明らかにすることは今後の予報の改善や防災の点で重要である.
弘前大学では,気象庁データに加え青森県設置の雨量計等により降水量定量評価を行っている.ここでは,豪雨の必要条件である水蒸気輸送の点から若干の解析を行っているので報告する.また,2021年9月からPicarro-SDMを用いて水蒸気同位体比の連続観測を行っており,上述の豪雨時のデータも得られている.水同位体比は,相変化(蒸発・凝結),混合で変化するので,連続観測値は豪雨の水起源について示唆を与えると考えられる. 降水量データは気象庁アメダス弘前の1時間降水値を用いた. 広域水蒸気フラックスデータは,ERA5再解析データ(0.25度)から,1時間ごとの総降水量と,鉛直積分した東西/南北方向の水蒸気フラックスを用いた.
Picarro-SDMによる水蒸気観測は,本体を大学5階室内に,チューブを6階屋上(高度約20m),4階屋上(約15m),1階室外(1.2m)の3か所に設置して行った.計測サイクルはスタンダード試料2検体を各15分計測後,上記3高度でそれぞれ55分,55分,45分で2回計測した.一サイクルの所要時間は約6時間である. 同位体比(酸素,水素)は約2秒ごとに得られ,その1分平均値をスタンダード試料の計測値で更正したのち1時間平均値とした(δ18O,δD).
観測の結果,8/3と8/9の豪雨イベント時にδ18Oが低くなっていた.これは重い水分子から先に凝結するため大気中の水すなわち水蒸気の同位体比は次第に低くなる定量効果といえる. 8/3の津軽・脇ノ沢の豪雨時のほうが,岩木川氾濫の危険があった8/9よりもピーク時のδ18Oが低かった.Iso-RSMで計算したところ,同位体比とd-excessの弘前での変動傾向はおおむね再現された。
ERA5による解析では,降水時系列が極めてよく再現されており,特に8/3の0UTC (= 9JST, 日本時間8-9時の降水量)にピークがある点と,8/9から8/10にかけてのまとまった降水の時間変化を再現できている.しかしながら降水量総量は過少評価している(8/3 8-9時の降水量が27mm/h のところERA5は15-16 mm/h, 8/9 7-8時の降水量が23mm/hのところERA5は約9mm/h).定量的な降水量再現性の検証はグリッド降水量作成及びレーダーアメダス解析雨量に基づき行う予定である.
弘前で降水量がピークを示した時刻に近い両日のERA5による鉛直積分水蒸気フラックスと発散および降水量分布によると,8/3は前線を伴う低気圧による降水であるが,8/9と比較して日本海北部(青森・秋田の西部)に顕著な水蒸気発散域が見られ,青森県西部から秋田県にかけての水蒸気ソースとなっている.青森地方気象台(2022a)は,8/3の豪雨の水蒸気源について台風6号を起源とする暖かく湿った空気が流れ込んだことを指摘しているが,青森西岸沖の水蒸気発散からの水蒸気寄与も考えられ、詳細な解析は今後の課題である.
8/9-10の降水については,華北から日本海を通って北日本へのびて停滞した前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだとの報告があり(青森地方気象台2022),ERA5の降水分布や弱い収束域の存在もこの見方に近いものとなっている.ERA5の降水ピーク時間の水蒸気フラックスと降水分布を見ると,深浦付近を降水ピークとする男鹿半島から下北半島にかけての降水帯と,その地域での水蒸気収束に加え,8/3の発散ピークより少し北西側に発散ピークがみられる.この海域や日本海からの水蒸気の寄与についての考察も今後の課題である.
水の酸素・水素同位体比では,d-excessが,激しい蒸発や再蒸発を繰り返す場合に高い値をとることが知られている.今回,δ18Oの2回の極小値の時のd-excessはいずれも高い値を示した.今後降水と水蒸気輸送の収支解析とあわせ,台風由来,前線への広域輸送,日本海からの蒸発の寄与を,同位体結果を踏まえて考察する.
弘前大学では,気象庁データに加え青森県設置の雨量計等により降水量定量評価を行っている.ここでは,豪雨の必要条件である水蒸気輸送の点から若干の解析を行っているので報告する.また,2021年9月からPicarro-SDMを用いて水蒸気同位体比の連続観測を行っており,上述の豪雨時のデータも得られている.水同位体比は,相変化(蒸発・凝結),混合で変化するので,連続観測値は豪雨の水起源について示唆を与えると考えられる. 降水量データは気象庁アメダス弘前の1時間降水値を用いた. 広域水蒸気フラックスデータは,ERA5再解析データ(0.25度)から,1時間ごとの総降水量と,鉛直積分した東西/南北方向の水蒸気フラックスを用いた.
Picarro-SDMによる水蒸気観測は,本体を大学5階室内に,チューブを6階屋上(高度約20m),4階屋上(約15m),1階室外(1.2m)の3か所に設置して行った.計測サイクルはスタンダード試料2検体を各15分計測後,上記3高度でそれぞれ55分,55分,45分で2回計測した.一サイクルの所要時間は約6時間である. 同位体比(酸素,水素)は約2秒ごとに得られ,その1分平均値をスタンダード試料の計測値で更正したのち1時間平均値とした(δ18O,δD).
観測の結果,8/3と8/9の豪雨イベント時にδ18Oが低くなっていた.これは重い水分子から先に凝結するため大気中の水すなわち水蒸気の同位体比は次第に低くなる定量効果といえる. 8/3の津軽・脇ノ沢の豪雨時のほうが,岩木川氾濫の危険があった8/9よりもピーク時のδ18Oが低かった.Iso-RSMで計算したところ,同位体比とd-excessの弘前での変動傾向はおおむね再現された。
ERA5による解析では,降水時系列が極めてよく再現されており,特に8/3の0UTC (= 9JST, 日本時間8-9時の降水量)にピークがある点と,8/9から8/10にかけてのまとまった降水の時間変化を再現できている.しかしながら降水量総量は過少評価している(8/3 8-9時の降水量が27mm/h のところERA5は15-16 mm/h, 8/9 7-8時の降水量が23mm/hのところERA5は約9mm/h).定量的な降水量再現性の検証はグリッド降水量作成及びレーダーアメダス解析雨量に基づき行う予定である.
弘前で降水量がピークを示した時刻に近い両日のERA5による鉛直積分水蒸気フラックスと発散および降水量分布によると,8/3は前線を伴う低気圧による降水であるが,8/9と比較して日本海北部(青森・秋田の西部)に顕著な水蒸気発散域が見られ,青森県西部から秋田県にかけての水蒸気ソースとなっている.青森地方気象台(2022a)は,8/3の豪雨の水蒸気源について台風6号を起源とする暖かく湿った空気が流れ込んだことを指摘しているが,青森西岸沖の水蒸気発散からの水蒸気寄与も考えられ、詳細な解析は今後の課題である.
8/9-10の降水については,華北から日本海を通って北日本へのびて停滞した前線に向かって暖かく湿った空気が流れ込んだとの報告があり(青森地方気象台2022),ERA5の降水分布や弱い収束域の存在もこの見方に近いものとなっている.ERA5の降水ピーク時間の水蒸気フラックスと降水分布を見ると,深浦付近を降水ピークとする男鹿半島から下北半島にかけての降水帯と,その地域での水蒸気収束に加え,8/3の発散ピークより少し北西側に発散ピークがみられる.この海域や日本海からの水蒸気の寄与についての考察も今後の課題である.
水の酸素・水素同位体比では,d-excessが,激しい蒸発や再蒸発を繰り返す場合に高い値をとることが知られている.今回,δ18Oの2回の極小値の時のd-excessはいずれも高い値を示した.今後降水と水蒸気輸送の収支解析とあわせ,台風由来,前線への広域輸送,日本海からの蒸発の寄与を,同位体結果を踏まえて考察する.