10:00 〜 10:15
[HTT15-05] 安定硫黄同位体比と化学種分析による姉川古せき止め湖堆積物ヒ素の起源推定
キーワード:ヒ素、安定硫黄同位体、XAFS
地殻中のヒ素(As)は数~数十ppmの濃度で遍在し、地下水や河川水へ多量に溶出すると水環境汚染に繋がるため、その起源と溶出後の素過程の解明は重要である。ヒ素による地下水汚染は我が国でも度々確認され、美濃堆積岩類を後背地に持つ濃尾平野の地下水では、環境基準(0.01mg/L)を超過するヒ素が検出されている(西澤ほか, 2012)。本研究対象の姉川段丘崖の湖成層は伊吹山の地すべりで生じたせき止め湖に由来し、季節毎に層を刻む年縞が発達する(小嶋ほか, 2006)。我々はこの年縞の走査型X線顕微鏡分析を通じて、高濃度のヒ素が夏の縞を挟んで層状に分布することを見出した。本研究は、姉川年縞堆積物中のヒ素の起源と堆積素過程の解明を目的とし、ヒ素の化学種分析(逐次抽出、XAFS)、流域原岩の全岩組成と水の安定硫黄同位体分析を行った。
堆積物試料(全長83 cm)は河岸段丘露頭から連続採取して分取した後、現地で酸素不透過性袋に脱気封入して保存した。ヒ素のバルク濃度は混酸(HNO3, H2O2, HF)を用いて分解、ヒ素の化学状態分析は8分画ヒ素逐次抽出法(Keon et al., 2001)でそれぞれ溶液試料を作成し、ICP–AESにて定量した。ヒ素の局所化学状態分析は、放射光を用いたμ–XRFマッピングとXAFS測定により行った。原岩試料(3種8個)は、湖成層露頭付近と支流の河原で採取された転石である。水試料は、3箇所の原岩採取地点に加え、3箇所の湧水で採取した。原岩の全硫黄(TS)含有量は有機元素分析装置(名古屋大学)、TSのδ34STS、水の硫酸イオン(SO42-)のδ34SSO4はS–IRMS(地球研)、酸素同位体比(δ18OSO4)はOH–IRMS(地球研)を用いて決定した。
湖成層のヒ素バルク濃度は68 ± 32 µg/gであった。逐次抽出法で求めた5試料でヒ素は、ケイ酸塩態(39 ± 18%)、非晶質硫化物態(26 ± 10%)を主体とした。µ-XRFマッピングとXAFS解析から、年縞のヒ素は縞状とホットスポット状に分布し、共にFeAs–IS、AsIIS、AsIII2S3から構成された。ポットスポット状ヒ素は、縞状ヒ素に比べてFeAs–ISを多く含んでいた。これらの結果から、年縞中ヒ素は、埋没後の続成過程における硫酸還元で硫化物として存在することが分かった。
原岩のTS含有量は0.02~0.23%であり、チャート(0.13%)や砂岩(0.14%)で相対的に高い値を示した。チャート中には、正四面体の黄鉄鉱(FeS2)粒子や放散虫化石がみられた。砂岩では直径0.1 mm程度の石英と長石から主に構成される。チャートδ34STSは–22.87‰、砂岩は–2.15‰であった。この結果は、ペルム紀~三畳紀美濃帯の付加体堆積物δ34STSの–20‰から–2‰の範囲(Kajiwara et al., 1994)と整合する。一方、水のδ34SSO4は–7.04~4.15‰の範囲であり、δ18OSO4は–0.62~3.05‰であった。δ34SSO4とδ18OSO4の関係から、支流と姉川のSO42-は後背地原岩における硫化物酸化、湧水は土壌起源によると推察される(Krouse and Mayer, 2000)。姉川流域のSO42-は、地下水よりも河川作用における硫化物酸化の寄与が大きいことから、周辺地質の影響を反映すると見なすことができる。したがって、年縞中のヒ素は、硫黄と同様の経路で美濃帯のチャートや砂岩から溶出し、河川を通じてせき止め湖へと流入したと推察される。
堆積物試料(全長83 cm)は河岸段丘露頭から連続採取して分取した後、現地で酸素不透過性袋に脱気封入して保存した。ヒ素のバルク濃度は混酸(HNO3, H2O2, HF)を用いて分解、ヒ素の化学状態分析は8分画ヒ素逐次抽出法(Keon et al., 2001)でそれぞれ溶液試料を作成し、ICP–AESにて定量した。ヒ素の局所化学状態分析は、放射光を用いたμ–XRFマッピングとXAFS測定により行った。原岩試料(3種8個)は、湖成層露頭付近と支流の河原で採取された転石である。水試料は、3箇所の原岩採取地点に加え、3箇所の湧水で採取した。原岩の全硫黄(TS)含有量は有機元素分析装置(名古屋大学)、TSのδ34STS、水の硫酸イオン(SO42-)のδ34SSO4はS–IRMS(地球研)、酸素同位体比(δ18OSO4)はOH–IRMS(地球研)を用いて決定した。
湖成層のヒ素バルク濃度は68 ± 32 µg/gであった。逐次抽出法で求めた5試料でヒ素は、ケイ酸塩態(39 ± 18%)、非晶質硫化物態(26 ± 10%)を主体とした。µ-XRFマッピングとXAFS解析から、年縞のヒ素は縞状とホットスポット状に分布し、共にFeAs–IS、AsIIS、AsIII2S3から構成された。ポットスポット状ヒ素は、縞状ヒ素に比べてFeAs–ISを多く含んでいた。これらの結果から、年縞中ヒ素は、埋没後の続成過程における硫酸還元で硫化物として存在することが分かった。
原岩のTS含有量は0.02~0.23%であり、チャート(0.13%)や砂岩(0.14%)で相対的に高い値を示した。チャート中には、正四面体の黄鉄鉱(FeS2)粒子や放散虫化石がみられた。砂岩では直径0.1 mm程度の石英と長石から主に構成される。チャートδ34STSは–22.87‰、砂岩は–2.15‰であった。この結果は、ペルム紀~三畳紀美濃帯の付加体堆積物δ34STSの–20‰から–2‰の範囲(Kajiwara et al., 1994)と整合する。一方、水のδ34SSO4は–7.04~4.15‰の範囲であり、δ18OSO4は–0.62~3.05‰であった。δ34SSO4とδ18OSO4の関係から、支流と姉川のSO42-は後背地原岩における硫化物酸化、湧水は土壌起源によると推察される(Krouse and Mayer, 2000)。姉川流域のSO42-は、地下水よりも河川作用における硫化物酸化の寄与が大きいことから、周辺地質の影響を反映すると見なすことができる。したがって、年縞中のヒ素は、硫黄と同様の経路で美濃帯のチャートや砂岩から溶出し、河川を通じてせき止め湖へと流入したと推察される。