日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT15] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、大手 信人(京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[HTT15-P03] 多摩川氾濫原におけるワンドの水・物質循環の変動特性に関する研究

*上羽 涼太郎1梅澤 有1、安達 寛2中田 聡史3宮田 達1楊 宗興1 (1.国立大学法人東京農工大学、2.(株)ジオアクト、3.国立環境研究所)


キーワード:多摩川、栄養塩、ワンド、水素・酸素安定同位体比

ワンド(湾処)とは河川に沿って氾濫原に湾入して形成される静水域であり、水生生物の生息場として機能することが知られている。そのため、国土交通省が推進する「多自然川づくり」にも含まれており、造成による河川生態系への寄与が望まれる場である。しかしながら、ワンドの化学的な水質とその形成要因については明らかになっておらず、河川における機能評価のために、一次生産に影響する栄養塩の動態(起源・供給量・濃度・構成比)を明らかにする必要がある。そこで本研究では、ワンドに供給される水に注目し、ワンド湧出部で222Rn濃度や水素・酸素安定同位体比(δD・δ18O)、腐植性溶存有機物(FDOM)を用いて水循環解析をおこない、並行して各種溶存イオン濃度や栄養塩濃度を測定することで、ワンドにおける水・物質循環の特性を明らかにすることを目的する。
調査対象地として多摩川中流域(東京都府中市)に位置するワンドを3地点選定した(図1)。測定地点として、ワンド内部を湧水の確認できる湧出部、河川へと流出する下流部の2か所に分け、加えて側方の河川においても採水行った。またワンドへ流れ込む水のエンドメンバーとして、市内複数地点から浅層地下水を採水し、学内で降雨の採水も行った。
各ワンドの湧出部の222Rn濃度は側方河川より高濃度を示したが、浅層地下水より低濃度で、降水量と負の相関がみられるワンドもあった。そのため、ワンドには河川伏流水と浅層地下水の混合した水が流入していると考えられる。また湧出部のδDとδ18Oのプロットは春季から秋季にかけて浅層地下水の同位体比に近づいたことから、河川と浅層地下水の混合率が季節的な変化を示す可能性がある。各ワンドでδD, δ18O, Cl-を用いて混合率を計算した結果、ワンドA, Cでは河川伏流水が優勢、ワンドBでは浅層地下水が優勢であることが明らかとなった。また各ワンドのFDOM濃度はこの傾向と一致することから、FDOMによる詳細な混合率の推定において有用な可能性が示された。栄養塩負荷はワンドごとに異なり、特にPO43-, NO-は周辺環境や涵養源の影響を受けることが明らかとなった。結果として、DIN:DIPはワンドA, Bにおける一次生産にとって、過剰なNO3-負荷によるPO43-制限の可能性を示し、DIP:DSi比は浅層地下水から安定的に高濃度のDSiが供給されることで、ワンドCの一次生産においてNO3-制限の可能性を示した(図2, 3)。
多摩川中流域のワンドはワンドごとに河川伏流水と浅層地下水の影響が異なることで、栄養塩動態が異なることに加え、ワンドの周辺環境に起因する栄養塩負荷を受ける(図4)。そのため、栄養塩動態は各ワンドで異なり、内部の植物プランクトン組成や水生植物群集影響を与えていることが考えられる。