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[HTT15-P06] 炭素窒素安定同位体天然存在比を指標としたリター由来有機物の土壌への加入の評価―野外操作実験系への適用―
キーワード:土壌有機物 δ13C, δ15N分析、土壌撹乱、入れ子状排除実験、生物多様性と生態系機能
ミミズに代表される大型土壌動物は、摂食を通じて土壌への有機物の加入を促進するという生態系機能を有することがよく知られている。イノシシなどの哺乳類は摂食行動や掘り返し、踏圧によって土壌を撹乱することを通じて土壌動物の機能を阻害することから、哺乳類の増加は土壌への有機物加入を減少させると考えられる。いっぽう、掘り返しは表層の落葉等 (リター) の土壌への加入をもたらす要因となる。このように、哺乳類が生態系の炭素循環に及ぼす影響は複雑であり、コンテキスト依存的である。
そこで、近年イノシシの生息密度が非常に高まっており、過密状態にあるとされている佐田山(高知県)において操作実験を実施することにより、イノシシが土壌有機物蓄積に及ぼす影響における、土壌動物を介した間接効果の検出を試みた。開口部が約40 cm x 35 cmのワイヤーバスケットを地表に固定したイノシシ排除区を10m 間隔に10個設置し、排除区と隣接する地点を対照区とすることにより、イノシシの排除が土壌への有機物加入に及ぼす影響を評価した。さらに、イノシシ排除区および対照区それぞれに現場土壌と植物遺骸(リター)を封入したメソコスムを二種設置し、一方は5 mmメッシュに封入して大型土壌動物が侵入出来る状態、もう一方は0.1 mmメッシュに封入して大型土壌動物が侵入出来ない状態とした。以上のような入れ子状の実験区設定により、二種のメソコスム間の相違から大型土壌動物の影響を評価し、排除区と対照区の比較によりイノシシの影響を評価した。
本研究では、土壌有機物の分解傾度に沿って炭素窒素安定同位体(13C, 15N)の濃縮が生じることを利用して、上記の野外実験系においてδ13C値及びδ15N値を土壌有機物の分解程度の指標として用いた。解析にあたっては土壌有機物の分解に伴う13Cや15Nの濃縮は数‰であり、土壌に加入するリターのδ13Cやδ15N値の変動幅もこれと同程度であることを考慮する必要がある。そこで供給されたリター・土壌0-3 cm層(表層)・土壌3-6 cm層(下層)の13C、15N濃度の分析結果を用いて、調査地の環境傾度に応じた供給リターの同位体比の変動を検討したうえで、土壌有機物の同位体比を解析した。その結果、リターのδ13C値、δ15N値並びにリターの同位体比には地点間距離20 mまで空間自己相関が検出された。また、同一サイトのリターの同位体比と土壌表層・下層の同位体比には正相関が観測された。このことは供給リターの同位体組成の空間分布が土壌の同位体組成にまで影響を及ぼしたことを示している。そこで、リターの同位体比の変動をランダム傾きとするGLMMによって、イノシシ排除と土壌動物排除及び交互作用が表層・下層の同位体組成に及ぼす影響を評価した。変数選択の結果、表層・下層共に土壌動物の排除によって13Cと15Nの濃縮が生じたことが明らかになった。一方、イノシシ排除の効果は表層で選択され、排除区では13Cや15N濃度が下がる傾向にあった。有機物分解に伴って13Cや15Nは濃縮されることを考え併せると、土壌動物は表層・下層への有機物の加入を促進し、イノシシは表層土壌への有機物の加入を抑制したと考えられた。交互作用項が選択されなかったことは、今回の実験系において、イノシシの排除によって土壌への有機物加入を促進する効果は、必ずしも大型土壌動物を介していないことを意味する。その要因として、設置したイノシシ排除区が比較的小型であり、大型土壌動物の生息密度を高める効果は期待しがたいこと、いっぽうで0.1 mmメッシュを通過できる生物にとっては生息密度を高めるうえで充分な大きさの排除区であり、それらの生物が介在した結果としてイノシシ排除区では有機物加入が促進されたことが考えられる。
そこで、近年イノシシの生息密度が非常に高まっており、過密状態にあるとされている佐田山(高知県)において操作実験を実施することにより、イノシシが土壌有機物蓄積に及ぼす影響における、土壌動物を介した間接効果の検出を試みた。開口部が約40 cm x 35 cmのワイヤーバスケットを地表に固定したイノシシ排除区を10m 間隔に10個設置し、排除区と隣接する地点を対照区とすることにより、イノシシの排除が土壌への有機物加入に及ぼす影響を評価した。さらに、イノシシ排除区および対照区それぞれに現場土壌と植物遺骸(リター)を封入したメソコスムを二種設置し、一方は5 mmメッシュに封入して大型土壌動物が侵入出来る状態、もう一方は0.1 mmメッシュに封入して大型土壌動物が侵入出来ない状態とした。以上のような入れ子状の実験区設定により、二種のメソコスム間の相違から大型土壌動物の影響を評価し、排除区と対照区の比較によりイノシシの影響を評価した。
本研究では、土壌有機物の分解傾度に沿って炭素窒素安定同位体(13C, 15N)の濃縮が生じることを利用して、上記の野外実験系においてδ13C値及びδ15N値を土壌有機物の分解程度の指標として用いた。解析にあたっては土壌有機物の分解に伴う13Cや15Nの濃縮は数‰であり、土壌に加入するリターのδ13Cやδ15N値の変動幅もこれと同程度であることを考慮する必要がある。そこで供給されたリター・土壌0-3 cm層(表層)・土壌3-6 cm層(下層)の13C、15N濃度の分析結果を用いて、調査地の環境傾度に応じた供給リターの同位体比の変動を検討したうえで、土壌有機物の同位体比を解析した。その結果、リターのδ13C値、δ15N値並びにリターの同位体比には地点間距離20 mまで空間自己相関が検出された。また、同一サイトのリターの同位体比と土壌表層・下層の同位体比には正相関が観測された。このことは供給リターの同位体組成の空間分布が土壌の同位体組成にまで影響を及ぼしたことを示している。そこで、リターの同位体比の変動をランダム傾きとするGLMMによって、イノシシ排除と土壌動物排除及び交互作用が表層・下層の同位体組成に及ぼす影響を評価した。変数選択の結果、表層・下層共に土壌動物の排除によって13Cと15Nの濃縮が生じたことが明らかになった。一方、イノシシ排除の効果は表層で選択され、排除区では13Cや15N濃度が下がる傾向にあった。有機物分解に伴って13Cや15Nは濃縮されることを考え併せると、土壌動物は表層・下層への有機物の加入を促進し、イノシシは表層土壌への有機物の加入を抑制したと考えられた。交互作用項が選択されなかったことは、今回の実験系において、イノシシの排除によって土壌への有機物加入を促進する効果は、必ずしも大型土壌動物を介していないことを意味する。その要因として、設置したイノシシ排除区が比較的小型であり、大型土壌動物の生息密度を高める効果は期待しがたいこと、いっぽうで0.1 mmメッシュを通過できる生物にとっては生息密度を高めるうえで充分な大きさの排除区であり、それらの生物が介在した結果としてイノシシ排除区では有機物加入が促進されたことが考えられる。