日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT16] 地理情報システムと地図・空間表現

2023年5月24日(水) 15:30 〜 16:45 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)、座長:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、田中 一成(大阪工業大学工学部都市デザイン工学科)、中村 和彦(東京大学)

16:30 〜 16:45

[HTT16-05] 旅行時における非日常空間と交通手段

*梶田 祥之介1田中 一成1 (1.大阪工業大学)


キーワード:旅行、交通、非日常

1.はじめに
旅行は「非日常」という言葉と強い関係がある.そして「非日常性」は日常空間から心理的にも距離的にも離れた空間ほど高いと考えられる。しかしコロナ禍となり遠出の規制がなされ居住地近傍での旅行に注目が集まっている.旅行場所が変化していく中で 、新たな非日常性の創出手法が必要となっているのではないだろうか.

2.研究目的
観光地空間だけでなくアクセス部分を考慮して観光地評価を試みた研究では,観光地の魅力を「観光スポットの魅力(スポット評価)+交通アクセス+費用」とし,温泉地を対象に交通アクセスと費用を加えた観光地の魅力を分析している.結果として「スポット評価値」が高くても「スポット評価に交通アクセスの影響を考慮した評価値」は,来訪者の居住地からの距離に従って低減することを示している.このことから観光地を考える際,そのスポットの特質だけでなく距離や費用などアクセス面も重要であることが分かる.そしてこれは,アクセス面における非日常性は距離や費用と関係する可能性を示唆している.本研究では観光アクセス面における非日常性の定性化を目的とする.

3.研究方法
 本研究では,観光における距離と費用に着目し、近距離安価な場合には非日常性が低く,対して遠距離高価な場合には非日常性が高いと仮定した。本研究では非日常性を頻度より算出した.非日常と頻度について,訪問頻度が高い場所では期待感や探求心は少なく,生活感や安心感が高いと考えられる.言い換えるとこれは観光地の「日常化」であり,このことから訪問頻度が低いほど非日常性が高いと考えられる.
居住地と非日常空間との関係を知るため,各観光地への訪問頻度をアンケートにより調査した.この調査では近畿圏を対象とし,近畿圏に居住する人々に近畿圏にある観光地への訪問頻度を尋ねた.次にこれらの観光地への観光頻度について,高頻度で訪れる観光地と低頻度で訪れる観光地を居住地区ごとに調べ,それらの関係性を可視化するためにGIS上に示した.

3.1.アンケート
アンケートでは近畿圏を対象に,観光頻度を訪ねた.本研究では近畿圏を日本関税協会が示す2府4県とし,観光地は日本交通公社の観光資源台帳に記載されている観光地から125カ所を選出した.これらの観光地について,近畿圏に暮らす85人に対して訪問頻度を10段階の問いにより尋ねた.
アンケートは居住地区ごとに分類し分析をおこなった.分析方法として,まず頻度を数値に変換した.変換の際,9を「週1回以上」として0~9の数値に変換した.次にこれらの値について,個々人の旅行頻度に影響されないようにするため,相対的な頻度を表せるパーセント表示に変換した.その割合を観光地ごとに累計することで,訪れる頻度の高い観光地を抽出した.結果について可視化するために,QGIS上に表記し居住地域と高頻度で訪れる観光地との地理的関係を調べた.

3.2.観光頻度による非日常性
本調査では各観光地について訪問頻度の割合が2%以上のものを「高頻度観光地」,2%未満1%以上のものを「低頻度観光地」,1%未満のものを「未訪問観光地」とした.対象地区は大阪市,兵庫県阪神地区,兵庫県播磨地区の3つの地区であり、有効回答人数それぞれは23人,18人,15人である.
これらのデータより,居住地区に近い観光地は高頻度観光地になることと,低頻度観光地は高頻度観光地を含むように存在することの2点が読み取れる.このことから居住地区近傍は日常的,反対に遠方は非日常的であると言える.大阪市と阪神地区の観光地の配置は似ている部分が多いことから,都市部での旅行活動の範囲は似た場所になると予想できる.他にも,3地区の中で播磨地区が最も高頻度観光地が少なく,最も低頻度観光地が多いことから,地方都市では日常的に訪れる観光地が少なく他地区の観光地に興味を持ちやすい可能性が考えられる.反対に都市部のように日常的に訪問可能な観光地が多く存在する人は,遠くの非日常を求めない可能性も考えられる.しかし本研究ではこのような地方地区を1地区しか扱えなかったこと,播磨地区の観光地が他の2地区よりも格段に少なかったこと,また近畿圏以外の観光地を含んでいないことから,今後他の地方都市で調査をおこない確かめていく必要がある.

4.おわりに
本研究では非日常を観光アクセス面において定性化することを目的とし,非日常性を観光頻度の低さと置き換え,観光頻度と居住地区との距離を調べた.
アンケートにより得られたデータをGISに移し可視化すると,居住地区に近い空間では日常的行動が多く存在し,遠い空間では非日常的空間が存在していることが読み取ることができた.さらにこの結果より,都市部と地方部での日常・非日常の考え方の違いが存在すると考察できた.今後この考察をさらに深く調べていくことにより,非日常性の定性化をおこなっていく.