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[MAG34-05] 森林土壌中のCs-137下方移行に対する樹木細根の影響
キーワード:Cs-137下方移行メカニズム、転流、森林土壌、樹木細根
【背景】
福島第一原子力発電所事故以降、森林土壌中のCs-137動態に関しては様々な調査が実施され、リターから鉱質土壌への移行はチェルノブイリ事故による汚染地域の森林よりも速いこと、わずかではあるものの表層土壌から深部へのCs-137下方移行も進んでいることなどが明らかにされた。しかしながら、その下方移行メカニズムについては未だ知見が乏しく、とくに深部では移流拡散モデルのみでは過小評価となり、コロイド輸送や生物撹乱など他の移行メカニズムの存在が指摘されており、その1つが樹木細根である。樹木細根は葉と同様に比較的短期間で成長・枯死・脱離(ターンオーバー)を繰り返す。従って、樹木細根は森林土壌から養分を吸収するだけではなく、光合成によって作られた炭素化合物の滲出や細根自体の枯死による炭素供給、分解過程での窒素供給など、養分供給源としても重要な役割を担う。Cs-137も炭素同様に地上部や上方の根から下方の根へ転流し、枯死・脱離しているとすれば、Cs-137の下方移行に寄与すると考えられる。しかしながら、樹木細根中のCs-137に関する評価は未だ少なく、下方移行への寄与を実証した研究は限られている。そこで、本研究は、深層80 cmまでの樹木根中のCs-137深度分布を詳細に調査するとともに、現地での樹木細根の培養実験により転流量を推定し、下方移行への寄与を評価することを目的とした。
【調査地および方法】
調査地は福島県浪江町赤宇木地区(帰宅困難区域)のスギ林とし、初期沈着量は約4700 kBq/m2である。0-45 cmまたは0-80 cmまでの土壌を5 cm間隔に採取し、乾燥後、土壌と植物根をより分け、それぞれのCs-137濃度をゲルマニウム半導体検出器で測定した。調査は2022年に4回実施し、太さ2 mm以下の細根を測定対象とした。また、2022年4月から8月の4ヶ月間にかけて、同サイトにおいて5本のスギを対象に市販のCs-137をほとんど含まない土壌(0.018 Bq/g)を用いた細根の培養実験を行った。約20 cm×30 cm×深さ10 cmのタッパーに厚さ約2.5cmの土壌を敷き詰め、新根(白根)を取り除いた細根をよく水洗いした後3本入れ、さらに約2.5 cmの土壌を被せた。対照として、同一の樹木に現地土壌(186 Bq/g)を用いた培地を同様に設置し、培養期間後に新根(白根)のみ回収してCs-137濃度を測定した。
【結果】
深度分布については、土壌と細根ともに深くなるにつれて指数関数的に減少する傾向が認められた。ただし、その減少傾向は細根の方が小さく、15 cm以下からは土壌よりも細根のCs-137濃度の方が高い値を示した。そのため、細根/土壌のCs-137の濃度比を取ると、表層0-5 cmでは0.15、15 cm以下の深層では約26(最大125)と非常に幅広い値となった。一方で、細根中のCs-137の存在量に関しては、深層ほど低くなる細根のバイオマス量を反映して、深くなるにつれて明確に減少する傾向を示した。そのため、細根/土壌のCs-137の存在量比を取ると、深度によって明確な傾向は認められず、約0.19%となった。
培養実験については、設置時に回収した新根はCs-137を含まない実験培地で約12.6±8.4 Bq/g、現地の実験培地で9.1±10.2 Bq/gと有意な差は認められなかった。一方、培養後に回収した新根は実験培地で約2.7±1.3 Bq/g、現地の実験培地で7.6±3.5 Bq/gと有意に実験培地が低い結果となった。しかしながら、培養に用いた土壌中のCs-137濃度は約10000倍の差があるにも関わらず、新根には約3倍の差しかなく、転流の影響が認められた。このことから、樹木細根中Cs-137濃度の約30%が転流由来であると仮定し、樹木細根のターンオーバーが約0.6~0.8回年であるとして下方移行への寄与の評価を試みた。その結果、原発事故から調査を行った11年間で約6.6~8.8回樹木細根が入れ替わったとすると、この樹木細根のターンオーバーによって土壌へ供給されたCs-137量は調査時点での土壌中のCs-137存在量の0.6~1.3%を占める。
福島第一原子力発電所事故以降、森林土壌中のCs-137動態に関しては様々な調査が実施され、リターから鉱質土壌への移行はチェルノブイリ事故による汚染地域の森林よりも速いこと、わずかではあるものの表層土壌から深部へのCs-137下方移行も進んでいることなどが明らかにされた。しかしながら、その下方移行メカニズムについては未だ知見が乏しく、とくに深部では移流拡散モデルのみでは過小評価となり、コロイド輸送や生物撹乱など他の移行メカニズムの存在が指摘されており、その1つが樹木細根である。樹木細根は葉と同様に比較的短期間で成長・枯死・脱離(ターンオーバー)を繰り返す。従って、樹木細根は森林土壌から養分を吸収するだけではなく、光合成によって作られた炭素化合物の滲出や細根自体の枯死による炭素供給、分解過程での窒素供給など、養分供給源としても重要な役割を担う。Cs-137も炭素同様に地上部や上方の根から下方の根へ転流し、枯死・脱離しているとすれば、Cs-137の下方移行に寄与すると考えられる。しかしながら、樹木細根中のCs-137に関する評価は未だ少なく、下方移行への寄与を実証した研究は限られている。そこで、本研究は、深層80 cmまでの樹木根中のCs-137深度分布を詳細に調査するとともに、現地での樹木細根の培養実験により転流量を推定し、下方移行への寄与を評価することを目的とした。
【調査地および方法】
調査地は福島県浪江町赤宇木地区(帰宅困難区域)のスギ林とし、初期沈着量は約4700 kBq/m2である。0-45 cmまたは0-80 cmまでの土壌を5 cm間隔に採取し、乾燥後、土壌と植物根をより分け、それぞれのCs-137濃度をゲルマニウム半導体検出器で測定した。調査は2022年に4回実施し、太さ2 mm以下の細根を測定対象とした。また、2022年4月から8月の4ヶ月間にかけて、同サイトにおいて5本のスギを対象に市販のCs-137をほとんど含まない土壌(0.018 Bq/g)を用いた細根の培養実験を行った。約20 cm×30 cm×深さ10 cmのタッパーに厚さ約2.5cmの土壌を敷き詰め、新根(白根)を取り除いた細根をよく水洗いした後3本入れ、さらに約2.5 cmの土壌を被せた。対照として、同一の樹木に現地土壌(186 Bq/g)を用いた培地を同様に設置し、培養期間後に新根(白根)のみ回収してCs-137濃度を測定した。
【結果】
深度分布については、土壌と細根ともに深くなるにつれて指数関数的に減少する傾向が認められた。ただし、その減少傾向は細根の方が小さく、15 cm以下からは土壌よりも細根のCs-137濃度の方が高い値を示した。そのため、細根/土壌のCs-137の濃度比を取ると、表層0-5 cmでは0.15、15 cm以下の深層では約26(最大125)と非常に幅広い値となった。一方で、細根中のCs-137の存在量に関しては、深層ほど低くなる細根のバイオマス量を反映して、深くなるにつれて明確に減少する傾向を示した。そのため、細根/土壌のCs-137の存在量比を取ると、深度によって明確な傾向は認められず、約0.19%となった。
培養実験については、設置時に回収した新根はCs-137を含まない実験培地で約12.6±8.4 Bq/g、現地の実験培地で9.1±10.2 Bq/gと有意な差は認められなかった。一方、培養後に回収した新根は実験培地で約2.7±1.3 Bq/g、現地の実験培地で7.6±3.5 Bq/gと有意に実験培地が低い結果となった。しかしながら、培養に用いた土壌中のCs-137濃度は約10000倍の差があるにも関わらず、新根には約3倍の差しかなく、転流の影響が認められた。このことから、樹木細根中Cs-137濃度の約30%が転流由来であると仮定し、樹木細根のターンオーバーが約0.6~0.8回年であるとして下方移行への寄与の評価を試みた。その結果、原発事故から調査を行った11年間で約6.6~8.8回樹木細根が入れ替わったとすると、この樹木細根のターンオーバーによって土壌へ供給されたCs-137量は調査時点での土壌中のCs-137存在量の0.6~1.3%を占める。