日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-AG 応用地球科学

[M-AG34] ラジオアイソトープ移行:福島原発事故環境動態研究の新展開

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:津旨 大輔(一般財団法人 電力中央研究所)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、桐島 陽(東北大学)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)、座長:高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、加藤 弘亮(筑波大学アイソトープ環境動態研究センター)

11:30 〜 11:45

[MAG34-09] 西部北太平洋の海洋内部における放射性セシウム分布の長期変動

*帰山 秀樹1熊本 雄一郎2青山 道夫3,4 (1.水産研究・教育機構、2.海洋研究開発機構、3.筑波大学、4.福島大学)

キーワード:東京電力福島第一原子力発電所、放射性セシウム、亜熱帯モード水

本研究は、2011年から2017年にかけて北太平洋の海洋内部における東京電力福島第一原子力発電所(東電福島第一原発)事故由来の放射性セシウムの分布について、その時空間変動をまとめたものである。東電福島第一原発事故により放出された放射性セシウムが海面に沈着した海域には西部北太平洋におけるモード水形成領域も含まれたため、事故直後に海面へ沈着した放射性セシウムの一部はモード水へと取り込まれ、海洋内部に分布することになった。著者らは2011年から2017年の期間に、北太平洋の海洋内部における東電福島第一原発事故由来の放射性セシウムの存在量が大きいと考えられた亜熱帯モード水(STMW)の存在する海域における鉛直断面観測を断続的ではあるが実施してきた。
STMWへの東電福島第一原発事故由来の放射性セシウムの取り込みはモード水が形成される冬季に起きるため、その大部分は表層においてSTMW形成域に東電福島第一原発事故由来の放射性セシウムが存在した2011年3月および2011/2012年冬季に起きたと考えられた。その後、西部北太平洋の亜熱帯域のSTMWに含まれる東電福島第一原発事故由来の放射性セシウムは水深300m付近を分布のピークに2017年まで確認された。広域観測を行った2013年のデータに基づき推定したSTMW中の東電福島第一原発事故由来137Csの総量(4.3±1.5 PBq)は、2012年の推定値(4.2±1.1 PBq; Kaeriyama et al., 2016)とほぼ同じであった。2013年から2017年にかけて、STMW分布域南西部の東電福島第一原発事故由来の137Cs総量に漸減がみられた。この減少の一部は、東シナ海や日本海などSTMW外への輸送に起因すると考えられる(Inomata et al., 2018)。あるいは、東電福島第一原発事故由来の放射性セシウムは、2013年から2017年の間に、STMWの分布域内の循環が促進されたか、グローバルフォールアウト起源の放射性セシウムと希釈された可能性も考えられる。

本発表内容は近日刊行予定である叢書 “Radionuclides in the Marine Environment: Scientific view on the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Station accident by 7 Oceanographers” の3章の内容に基づく。

参考文献 
Inomata et al. (2018) Ocean Sci., 14, 413-826.
Kaeriyama et al. (2016) Sci. Rep., 6, 22010.